ザ・2020ビジョン投資先企業の魅力を知る ~ゼロからわかるデクセリアルズ

「デクセリアルズ」という社名を聞いただけでは、なかなか業務内容が見えないものの、実は、多くの人たちは日常生活のさまざまな場面で、その製品と数多くの接点を持っています。
「極めて重要だけれども目に見えない」そういう製品を次々と世に送り出すデクセリアルズ。
その強みと今後の展開について、デクセリアルズ株式会社 経営戦略本部IR部統括部長の富田真司さんから話を伺いました。

デクセリアルズ株式会社 経営戦略本部 IR部 統括部長 富田真司氏

「デザイン・インのビジネスモデルで稼ぐ力を強化する」

ソニーケミカルを前身に60年の歴史を持つ

当社の前身はソニーケミカルといって、1962年にソニーの化学材料部門の子会社として設立され、おもに「機能性材料」の分野において、ソニーグループの一翼を担ってきました。1987年に東証2部市場に上場しましたが、2000年に親会社であるソニーの100%子会社化により、非上場となりました。
その後、2012年にソニーの事業ポートフォリオ見直しの一環で、グループから独立社名を現在のデクセリアルズに変更したのち、2015年に東証1部市場に上場しました。そして2021年に、経営と現場の一体的事業運営を実現するため、栃木県下野市に本店を移転いたしました。デクセリアルズとしては、2022年で創業10周年を迎えたところです。
「デクセリアルズ」という名前、あまり聞き慣れない言葉だと思いますが、これは「Dexterous(巧みな、機敏な)」と、「Materials(材料)」を組み合わせた造語です。経営理念は「Integrity(誠心誠意・真摯であれ)」で、これを心の拠り所として社員一人ひとりが大事にするとともに、「Value Matters(今までになかったものを。世界の価値になるものを)」という企業ビジョンには、機能性材料メーカーとして常に新しい価値、そしてお客様の期待を超える価値や製品を提供し続ける会社でありたいという願いが込められています。

見えないところで人々の生活を支える存在

事業セグメントは、大きく光学材料電子材料に分かれていて、それぞれ約50%ずつの売上構成になっています。光学材料は、ノートパソコンや車載用ディスプレイに採用されている反射防止フィルムの他、2021年4月から量産を開始している「蛍光体フィルム」が主力製品になっています。また電子部品ではリチウムイオン電池を搭載した多くの製品に採用していただいている「異方性導電膜(ACF)」や、電動工具などのコードレス化に伴って急成長している「表面実装型ヒューズ」があります。
製品名を聞いてもあまりピンと来ないとは思いますが、実際にはオフィスや学校ではノートパソコンやプロジェクター、モニター、サーバー住居ではテレビやコードレス掃除機、電動工具街の中では自動車のメーターやカーナビなどに用いられている各種ディスプレイの他、電動バイクやスマホ、タブレット、さらに医療現場においては、そこで働く人たちを守るアイシールドなどに、当社の製品が活かされています。表立っては目立たず、皆様の目には触れにくいけれども、さまざまな場面や場所において、当社の技術が用いられています。

たとえば異方性導電膜ですが、これはディスプレイやセンサーなどに使われている電子材料で、半導体やセンサーモジュールと基板を導電接続するためのフィルムです。昨今、ディスプレイの画像品質が飛躍的に向上しているのは、異方性導電膜があるからです。実際、私たちが普段から何気なく見ているテレビやスマートフォンのディスプレイですが、この異方性導電膜が無かったら、真っ黒で何も見ることが出来なくなります
さらに、ニッチな市場で世界シェアナンバーワンの製品群を持っているのも、私たちの特徴といっても良いかと思います。今申し上げた異方性導電膜のほか、スパッタリング技術で製造された反射防止フィルム光学弾性樹脂はいずれも世界シェアトップですし、それ以外にも高いシェアを持つ製品群を数多く持っています。

向上する「稼ぐ力」

業績と株価の推移について簡単に触れておきます。当社が東証プライム市場に上場した2015年の決算からの株価と、EBITDAの推移を見ると、両者はほぼリンクして動いています。EBITDAとは一般的に償却前利益などと言われ、現金支出を伴わない費用、つまり減価償却費を営業利益に足したものですが、これを私たちは当社の稼ぐ力として、投資家の皆さまにお示ししております。この稼ぐ力と、投資家の皆さまの評価である株価が、ほぼ同じ動きをしているのです。

2019年3月以降、社長をはじめとする経営陣の世代交代を行いました。そして、2020年3月期から「中期経営計画2023」に取り組み、現在に至っています。この間、世界では新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ紛争、それらによるインフレの高まりなどさまざまな変化が生じていますが、私たちはこの中期経営計画で立てた戦略に基づいて各種施策に取り組んだ結果、業績が回復し、株価もコロナ前の水準を超えてきました。もちろん、それをゴールと言うつもりは毛頭ありません。この先も私たちは成長をし続けたいと考えています。
それを実現するための、私たちが持つ強みは、先ほど申し上げた、ニッチな市場で世界シェアの高い製品を数多く取り揃えていることです。このように、競争力のある製品を生み出せるのは、独自の技術力を背景とした高い製品開発力があるからだけではありません。ビジネスモデルも大きく貢献していると考えています。

顧客ニーズを伺い、今までに無かった製品を世に送り出す

私たちは化学・素材サプライヤー様から原料を購入し、それを加工して直接のお客様に提供するという役割を担っています。直接顧客はディスプレイメーカーや組み立てメーカー、電装品メーカーであり、その先に最終顧客としてIT製品メーカーや自動車メーカーがありますが、私たちは直接顧客だけでなく、最終顧客に対してもアプローチします。
最終顧客との対話に際しては、営業担当者だけでなくエンジニアも加わり最終顧客が造りたい製品や新機能に対し、当社開発部門とともに技術的な考察を行います。私たちの強みは、最終顧客が気付いていない技術的課題を私たちが先んじて見つけ出し、その課題に対して今まで無かったユニークや製品やソリューションを開発・提案できることにあります。
そして、当社の提案が採用され、最終製品を量産する際には、最終顧客から直接顧客であるディスプレイメーカーなどに対して、当社の製品を指定して使用いただいております。

このようにして直接顧客、最終顧客の両者にご満足いただきながら、新しいニーズを伺い、製品開発につなげるという好循環が生まれてきました。さらに今中期経営計画においては、時間軸を少し伸ばして、3年先から5年先に起こると思われる技術革新の中で出てくる課題を見つけ出し、その解決策として製品・ソリューションを、先回りして開発するといった形に、ビジネスモデルを進化させてきました。これにより、既存のお客様の製品には新たな部位での案件獲得、新たなお客様には新しいアプリケーションでの案件獲得が増え、需要動向が厳しい局面でもその影響を最小限に止め、持続的に成長できる礎が出来つつあると考えています。こうした技術革新のトレンドを先回りして開発した製品は、最先端のハイエンド製品に多数用いられていますが、徐々にハイエンド製品からミドルレンジ製品への展開も進み始めてきました。実際、スマートフォンおよびノートパソコン向けの売上高を見ると、2022年度決算における見通しは、2019年度決算比でハイエンド製品が2.5倍、そしてミドルレンジ製品が2.1倍にも増加する見込みです。
このように売上の裾野が広がったことにより、事業環境の変化に左右されにくい企業体質への移行と、持続的成長力の向上が、着実に進みつつあります。

これから目指す3つの基本方針

最後に、私たちがこれから目指す姿についてご説明します。先ほどご説明した2023年度を最終年度とする中期経営計画では3つの基本方針のもと、各施策に取り組んでいます。具体的には、新規領域での事業成長加速、既存領域における事業の質的転換、そして経営基盤の強化がそれです。
まず新規領域での事業成長加速については、自動車領域における事業が順調に成長し、次の成長に向けた施策も前倒しでスタートしています。
既存領域における事業の質的転換については、事業ポートフォリオの見直しを継続的に行いつつ、各事業の強化や生産拠点の見直しなど効率化を高め、ビジネスモデルを進化させました。その結果、コンシューマーIT製品向けの高付加価値製品の採用拡大や、新製品のリリースが売上高増加につながった他、車載や電動工具、電動バイクといった非モバイルIT製品での採用も増えています。
そして3つめの経営基盤の強化については、ガバナンスの強化や固定費の削減を進める一方で、人的資本投資を積極的に増やしました。具体的には、従業員1人あたりの投資額を、この3年間で3割弱増やした結果、従業員1人あたりの売上高が2倍弱、EBITDAで4倍弱となり、付加価値生産性も大幅に向上しています。

ここまでの3年間は、想定以上のペースで業績の回復拡大が続きました。ただ、外部環境の不透明感は依然、拭い去ることができず、リスクはより増してきています。そこで2023年度末までのこの2年間においては、現行の中期経営計画に掲げている3つの基本方針のもと、各施策に着実に取り組み、引き続き成長を目指していきます。

光半導体事業でも100億円の事業規模を目指す

次の成長に向けた準備として、新規領域における事業成長の加速についてもご説明します。
当社はコンシューマーIT製品市場および特定顧客への依存を課題として認識しており、今中期経営計画では自動車を成長領域として注力してきました。
昨今の自動車市場は新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足の影響で、工場の操業停止や減産を余儀なくされてきましたが、EV化やエレクトロニクス化の動き、あるいは車内で使われるディスプレイの枚数増加や画面サイズの大型化により、当社のディスプレイ関連ビジネスには追い風が吹いております。年間の売上高でも、事業開始6年目にして100億円を超えるところが視野に入ってまいりました。
このビジネスの軸になっている反射防止フィルムについては2021年11月に生産体制の増強に向けた設備投資を決めており、2023年4月の稼働開始に向けて順調に準備が進んでいます。

また、デジタル化を通じた社会全体の効率化のために、進化が求められる事業領域や技術と、当社が持つ技術ノウハウを重ね合わせた結果、光半導体の技術革新が当社にとって大きなビジネス機会になり得ると判断し、2022年3月に京都セミコンダクターをグループに迎えました
京都セミコンダクターは、光半導体デバイスの開発、製造、販売を手掛ける企業です。今後、高い市場成長が見込まれている高速通信において、5Gや次世代の通信ネットワークに対応した優れた製品を持っています。
この2年間は、次の中期経営計画で大きく成長するための準備期間と位置づけ、当社がこれまで行ってきたような取り組みを京都セミコンダクターでも展開し、稼ぐ能力を向上させ、持続的成長の土台づくりに注力していきます。そして次の中期経営計画においては、100億円規模の事業成長を目指します。

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