障がい者雇用の在り方を考える|投資先企業との対話~株式会社エスプール~

「ザ・2020ビジョン」、「コモンズ・インパクトファンド~共創~」2つのファンドを通じて投資している株式会社エスプール。農園を活用した障がい者雇用支援サービスや環境経営支援サービス、広域行政BPOサービスを提供している会社です。
先般、このうち農園を活用した障がい者雇用支援サービスが、一部メディアで「障がい者雇用の代行ビジネスではないか」と批判されたことをきっかけにして、株価が急落したことがありました。
とはいえ、身体障がい者に比べて著しく就労機会の少ない知的・精神障がい者の方々に対して、活き活きと働ける場を提供しているのも事実です。現に同社の業績は着実に伸びており、知的・精神障がい者を子供に持つ親御さんから大いに支持されています。
今回は取締役 子会社・社長室担当の荒井直さんにご登場いただき、株式会社エスプールが目指す世界観について、お話しを伺いました。

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株式会社エスプール取締役 子会社・社長室担当 荒井 直氏

【聞き手】

コモンズ投信株式会社代表取締役社長CIO 伊井哲朗

運用部/シニアアナリスト ESGリーダー 原嶋亮介

知的・精神障がい者雇用の障壁とは

原嶋  今でこそ「ダイバーシティ経営」のもとで、企業の障がい者雇用が注目されていますが、実は日本で障害者雇用促進法が制定されたのは1960年ですから、もうだいぶ昔になります。それも当初は身体障がいを持つ方を対象にした法律だったので「身体障害者雇用促進法」という法律名でしたが、後に知的障がいを持つ方、精神障がいを持つ方も対象に含まれるようになり、「障害者雇用促進法」に法律名が変わったという歴史的経緯があります。
しかし、現状においてはまだまだ知的障がい、精神障がいを持った方の雇用に消極的な企業があるのも事実です。一体、何が障壁になっているのか、その辺りからお話を伺えますでしょうか。

荒井  1960年に障害者雇用促進法が制定された当初は、傷痍軍人といって、戦争で傷ついた人たちの雇用を図るのが目的でした。一方で、知的障がい者の雇用が義務化となったのは1998年精神障がい者は2018年と、大分後になってのこととなります。歴史的に障がい者雇用=身体障がい者であったことと、身体障がいの方については、オフィスワークなどであれば健常者と同じように仕事ができる方が多く、企業としても採用しやすい側面があったからです。現状では、身体障がいの方は、ほぼ完全雇用の近い状態となっています。
しかし、その一方で精神障がいの方は、安定的な出社が難しかったり、知的障がいの方ですと、日常業務の中で任せられる仕事がそもそも少ないという問題があります。かつ知的障がいの方の仕事は、出社して業務をこなすものが中心なので、最近のようにリモートワークが推進されると、「出社できない=仕事をこなせない」ということになり、全体的に仕事の量が減っているという問題があります。

原嶋  そのなかで御社は、知的・精神障がいを持っている方を雇用するための農園を運営されているわけですが、雇用を創出するにあたって運営上、気を付けていること、心がけていることがあったら教えていただけますか。

荒井  第一には、やはり安心、安全に万全を期したうえで、楽しく働いていただくことです。これが最も重要だと考えています。
私どもが運営している農園は、知的障がい者の方々でも働きやすいような設備を整えています。たとえば屋外型の農園は「養液栽培」といって、水耕栽培に近い農法を採用しているのですが、本来、この手の農法に用いる栽培装置は、作業効率の観点から立ち作業を前提とした設備になっています。
でも、当社の設備は敢えて座って作業できる高さにしています。これは、障がい者の方々が、てんかんなどで急に倒れたとしても遠くからでも気づけるようにしているのと、装置を倒してけがをすることを防ぐためとなります。
また、農園を利用する企業様には、障がい者の方3名でチームを組んでいただき、そこにサポート役となる管理者を1名配置していただき、しっかり雇用管理が行える体制を築いています。3名に1名の管理者を配置する理由は、特別支援学校の小学部、中学部では、生徒3名に1名の先生付いており、農園もそれに準じた体制にしています。

働きたいと思う方法で働ける選択肢を提供する

原嶋  農園を運営するにあたって、契約企業様がどのように関与されていくのか、障がい者の方々との間でどのような接点の持ち方をしていらっしゃるのか、お聞かせいただけますでしょうか。

荒井  私どもの農園をご利用いただいたら、簡単に障がい者雇用ができるという話ではありません。契約企業様のご担当者は基本的に人事部門になるのですが、かなり積極的に関与していただく形になります。
農園は離れた場所になりますが、それを感じさせない一体感の醸成に注力していただいています。たとえば定期的に農園に足を運んでいただくのは当然のこととして、障がい者の方々が農園でつくった野菜を、利用企業様のオフィスで社内販売する際も、それを購入して終わりではなく、どのようにその野菜を料理して、美味しく食べたのかということをメッセージカードに書いてもらい、それを障がい者の方々に渡すようにしています。
あとはリモートで農園とオフィスをつなぎ、直接、お礼や感想を伝えられるような仕組みを構築したり、ダイバーシティ研修の一環として、契約企業様の社員の方々に農園で一緒に働いてもらい、障がい者の方々に対する理解を深めていただいたりもしています。


原嶋  障がい者の方々にとって、御社の取り組みが最適解になる場合もあればそうならない場合もあると思いますが、障がい者の方々に働く場所、働く選択肢を提供するところに大きな価値があると考えています。今後の事業展開として、農園の運営以外の方法で雇用を創出していく取り組みがあれば、教えていただけますか。

荒井  農園で楽しく働いている人がいる一方で、他の働き方で活躍したいと思っている方もいらっしゃいます。
大事なのは、障がい者の方々に働く選択肢を増やすことですから、障がい者の方々が様々な方法で働けるように、広く応援していける形がつくれれば良いなと思います。
そのなかで今、新規事業としてチャレンジしていることがあります。障がい者アーティストの活躍の場を作ることに取り組んでいます。障がいを持った芸術家の方を、私どもが雇用させていただいており、たとえばトートバックなど企業のノベルティデザインを行っていたり、描いた絵画を企業にレンタルするサービスを始めています。
とはいえ、彼らは才能に溢れているのですが、絵の基本を学んだことがないので、根津に設けたアトリエに、東京芸術大学の先生に協力してもらい、絵の指導を受けてもらっています。まだどうなるか分かりませんが、このような取り組みの中から、将来的には芸術で自立できる人が輩出できるといいなと考えています。

障がい者のキャリア形成、キャリアアップの方法を模索する

原嶋  農園で経験を積まれた障がい者の方々が、社会性に自信を持つようになって、たとえば一般の企業で働くようになるというようなケースはあるのでしょうか。

荒井  あります。農園で働いて自信を持つようになった後、他の仕事にチャレンジしたというケースもありますし、継続して農園で働いている方には、そのなかでキャリアアップしていく仕組みもあります。
また、これまで農園で働いていた方が、利用企業様の他の部署に異動して働いているという話もあります。
障害者雇用促進法の理念において、ひとつ大きなポイントになっているのは、障がいを持っている方々のキャリア形成、キャリアアップです。そこに関して申し上げますと、もっとできることがあると思いますので、そこは利用企業様との間で議論を重ねつつ、取り組んでいければいいなと考えています。

原嶋  御社のビジネスモデルに関して、先般の報道にもあったように、「障がい者雇用の代行会社ではないか」といった批判も声も出たわけですが、それについてはどのような意見をお持ちでしょうか。

荒井  まず申し上げたいのは、私どものサービスが完璧ではないという認識は常に持っています。ご批判があれば、それはしっかり受け止めなければなりません。
知的障がい者、精神障がい者の方々の働く場は極めて少なく、就職に困っている方が大勢いらっしゃいます。
こうしたなかで、私たちが最優先で取り組まなければならないのは、障がい者の方々の働く選択肢を増やすことです。しかしながら、今回の報道などを見ていると、「こういう働き方は良いけれども、こういう働き方は悪い」という議論になっている気がしており、非常に残念に思います。
確かに、障がい者雇用の理念である「共生社会」という点に照らして考えると、利用企業様が本業とは異なる方法で障がいある方を雇用しているという指摘や、オフィスと農園が離れていることが共生社会とは言えないという批判があることも理解しております。
この点に関しては、我々の事業がどうすれば共生社会に向けて一歩でも近づいていけるのかを関係者の皆様と意見交換などをさせていただきつつ、より大勢の方々から応援していただけるようなサービスの創出に努めてまいりたいと思います。

原嶋  東北地方や北海道に農園をはじめとする施設を造る予定はあるのですか。

荒井  地方自治体からも、農園を作って欲しいという要望はたくさんいただいております。当社は金銭的に公的な支援を受けずに、あくまでも自己負担で農園をつくり、障がい者の方々の雇用を創出していますので、自治体からぜひ農園を作ってほしいとの声を多くいただいているのですが、当面は現在展開している東名阪の地域に集中したいとと考えています。

原嶋  私どものファンドは、運用に際して目先の株価の値動きは、全くと言って良いほど見ていないのですが、報道後の株価急落についてどのように考えていますか。

荒井  株価の急落については大変悔しく、そして多くの投資家の皆様にご心配おかけしたことを申し訳なく思っております。ただ、この株価急落は、当社の成長が止まったことによって生じたものではないという点において、投資されている皆さまにおきましては、安心していただいて良いかと考えています。
実際、弊社の業績は、売上高では11期連続、営業利益は8期連続で増収増益となっています。持続的な成長が実現できていれば、いずれ株価も付いてくるのではないかと思います。社会に役に立つことに真摯に取り組んでいけば、必ず多くの皆様に応援していただけるものと考えております。

投資家目線で見たエスプールの真価

伊井  荒井さん、ありがとうございました。御社の株価急落に関して、投資家の立場で少しお話しさせていただきたいと思います。
世の中には、いろいろな意見があって良いと思うのですが、今回の報道について簡単に論点を整理させていただきますと、障がい者雇用とは本来、障がい者の方々が健常者と一緒に、その会社の本業で共に働くことが大事であり、たとえばエスプールさんが提供しているような農園という別の場所で働くのは、少し違うのではないかということでした。
もちろん同じ障がい者でも、身体障がい者の方であれば、健常者と一緒に働くことができます。
しかし、知的障がい者、あるいは精神障がい者の方々が、健常者と一緒に働けるのかというと、その環境を構築するには相当、高いハードルを超えなければなりません。そのなかで、エスプールさんが運営されている農園に視察に伺ったところ、障がい者の方々と健常者の方々が一緒になって農作物を育て、ともに喜んでいる姿を見ることが出来ました。それも別段、誰かが誰かに気を使っているという風もなく、非常に自然に見えたのです。
また、普通に会社勤めをしていた方が鬱になってしまったのですが、その会社がたまたまエスプールさんの契約企業だったことから、その社員の方が自ら進んで農園で働きたいと申告してきたという話も聞きました。
世の中には本当にさまざまな人がいます。その一人一人がどのような状態にあったとしても、それが受け入れられ、働くことのできる機会を、社会の中につくっていくことが大事なのではないかと思うのです。

コモンズ投信は経済的なリターンと社会的なリターンの両方を追及しています。その点で申し上げると、業績面は非常に好調なので、少なくとも現時点においては何の心配もないと考えています。リピート率が非常に高く、自治体から農園誘致の話もたくさんあるということですから、将来性にも十分期待しています。
将来的には、障がいを持った方々が健常者と共に、分け隔てなく会社の現場で働く時代が来るでしょう。そうなった時、恐らく農園の役割は今よりも小さくなるかも知れません。でも、その時には今、培っているノウハウが新しいビジネスに転用されていくだろうと考えています。
事業を通じて社会課題を解決するという点では、とても良い会社です。たまたま今は、報道の影響で株価が大きく下げていますが、そういう状況下においてこそ、大勢のステークホルダーの前で、しっかりした情報提供をすることが大事だと思っておりますので、本日、この場にお越しいただいたことに感謝しております。

ありがとうございました。

3月16日のセミナーアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます(荒井様のプレゼンテーションもあります)

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