味の素との対話|統合報告書2024年版ポイント読み

味の素株式会社は、コモンズ30ファンドの投資先です。ファンドに組み入れたのが2013年7月のこと。以来、11年半超にわたって保有し続けています。
収益性は営業利益率で8%程度。同業他社比でも高い数字です。またROEも8%程度で、株主還元に積極的です。競争力はコーポレートブランドに加え、個々の商品ブランドも強く、現地密着、現金で現物(製品)を直接販売するというという三現主義を唱え、グローバル健康貢献企業グループとしての企業文化を世界的に広めて、地球の持続性、食資源の確保、健康な生活に貢献しています。またガバナンスについても、いち早く社外取締役・監査役を選任するなど先進的です。
その味の素が先般、発行した「味の素グループASVレポート2024」は、2023年版に引き続き、雑誌を中心とする出版社の株式会社マガジンハウスが、その制作に深く関わっています。
今回は2024年版の注目ポイントと共に、制作担当者であるマガジンハウスの松原亨氏に、統合報告書を制作するうえでの苦労話などについて、お話してもらいました。

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グループの概要と統合報告書の編集ポイントについて
味の素株式会社グローバルコミュニケーション部
レポーティンググループ
マネージャー 岡田佐保氏

パーパスを実現する取組みのASVと、土台になるAGW

まず、味の素グループの沿革からお話したいと思います。
創業は1909年です。昆布だしのうま味成分がグルタミン酸であることを発見した東京帝国大学(現東京大学)理学部化学科の池田菊苗博士がドイツに留学した時、現地の人たちが体形と栄養に恵まれていることを知り、日本人の栄養状態をより良いものにしたいと強く願ったそうです。そして帰国後、昆布だしの効いた湯豆腐を食べた時、その美味しさからうま味の研究を始めました。
その池田博士の想いに応えて、彼の研究成果を商品化したのが、味の素社の創業者となる二代鈴木三郎助でした。味の素社の創業年である1909年は、弊社が世界で初めて、うま味調味料を製品化した年でもあります。

以来、100年超にわたって、味の素グループは「おいしく食べて健康づくり」という創業時の志を受け継ぎ、更なる社会貢献を目指していきます。
弊社の統合報告書は「ASVレポート」と称しています。ASVとはAjinomoto Group Creating Shared Valueの略です。詳細は後述します。

ASVレポートの2024年版のページに沿って説明していきますと、表紙をめくったページには、企業理念を示しました。「Eat Well, Live Well.」がそれで、企業理念を実現するため、2023年にパーパス、つまり志を定めました。それが「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」というものです。
この志を実現する取組みが、先に触れた「ASV」です。それは事業を通じた社会価値と経済価値の共創であり、それを支えるものとして「AGW」があります。AGWはAjinomoto Group Wayの略で、「新しい価値の創造、開拓者精神、社会への貢献、人を大切にする」という、私たちの価値観を表しています。

また「アミノサイエンス®」とは何か、ですが、これは弊社の造語です。アミノ酸のはたらきに徹底的にこだわった研究プロセス、実装化プロセスから得られる多様な素材・機能・技術・サービスの総称であり、社会課題の解決やWell-beingへの貢献につなげるための、味の素グループ独自の科学的アプローチです。弊社の競争優位の源泉でもあります。
私たちはアミノ酸に真摯に向き合い、それが持つ機能に注目して事業を推進してきました。4つの機能とは、①食べ物をおいしくする「呈味機能」、②栄養を体に届ける「栄養機能」、③体の調子を整える「生理機能」、そして④新たな機能を生み出す「反応性」です。

これらの機能を活用することにより、食品事業とバイオ&ファインケミカル事業を展開しています。現在、世界34カ国・地域で3万4,615人の従業員がおり、世界24カ国・地域に116の工場を持ち、2023年度の売上は過去最高の1兆4,392億円となっています。

ASVレポート2024年版の読みどころ

以上が弊社の沿革です。そしてASVレポート2024年版の編集ポイントですが、メインターゲットは機関投資家やESG重視の長期投資家であるのと同時に、個人投資家の方、御取引先、さらには当社に興味を持って下さっている学生の方にも読んでいただけるように、制作パートナーであるマガジンハウス社とアイデアを出し合いながら制作を進めていきました。

2024年版の特徴としては、社長メッセージを少し長めに取っています。弊社取締役・代表執行役社長・最高経営責任者(セミナー開催当時※)である藤江太郎が、社外のステークホルダーと対話した内容をベースにして、自ら原稿を執筆しました。味の素グループが、こうありたいと思っている姿に向かう上での課題認識を強調したもので、ASVレポートの社長メッセージの最後に、「ありたい姿」を実現する課題として、11項目を取り上げています。

従業員の声も取り上げました。「ASV、私たちはこう考えます」というページで、弊社経営方針のど真ん中にあるASVが、どれだけ従業員の間に浸透しているのかを、国内外18人の従業員から集めたコメントを掲載しています。
「味の素グループの成長の軌跡」は、これまで弊社が乗り越えてきた困難と成長の道筋が記載されています。実は、ここには良いことばかりではなく、たとえば1997年の商法違反事件も敢えて掲載しました。
正直、あまり恰好の良い話ではないのですが、弊社内においてはガバナンスを見直す大きな転機になりましたし、従業員のガバナンスやコンプライアンスに対する意識が高まったこともあり、結果的には良い方向に進んでいます。

また、投資家の方にとっては、これから弊社が目指す成長領域に関心があると思いましたので、「アミノサイエンス®で価値を共創する4つの成長領域」と題して、ヘルスケア、フード&ウェルネス、ICT、グリーンという4つの成長領域と、それぞれについて具体的にどのような取組みをし、今後はどうなるのかといった点を説明しています。

「無形資産」のパートも設けています。例年、人財資産にページを割いてきましたが、2024年版では「組織資産」の項目を新たにつくりました。昨今、投資家から組織資産に対する注目度が高まっているという声を頂戴しており、弊社の企業文化とは何かを議論して、この項目を作成しました。

最後に「サステナビリティ」のパートです。ここでは、弊社のバリューチェーンのなかで、サステナビリティに関するさまざまな課題が絡まり合っており、それらに包括的に取り組んでいくアプローチを紹介しています。

そのひとつとして、「AjiPro®-L(アジプロ-L)」の取組事例を掲載しました。これは牛の生育過程で排出されるメタンや一酸化二窒素といった、地球の気候変動に大きな影響を及ぼす気体の排出を抑制する飼料添加物なので、地球環境に貢献できるというわけです。今、グローバル乳業メーカーや畜肉メーカーとの協業を検討している最中です。

ざっとASVレポート2024年版の概略をご説明しました。レポートは弊社のウェブサイトからもダウンロードして読むことが出来ます。今、説明させていただいたポイントを頭の片隅に置いて、改めて実物をご覧いただけたら幸いです。

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