<対談>ページ数を減らしながらも一番伝えたかったこと
味の素株式会社IR室レポーティンググループ長 伊沢千春氏
味の素株式会社IR室レポーティンググループマネージャー 岡田佐保氏
味の素株式会社人事部グローバル企画グループマネージャー 河村博司氏
聞き手 コモンズ投信株式会社運用部シニアアナリスト 末山 仁
2030年への現在地─言葉ではなく“進捗”で示す
末山 今回のASVレポートを制作するにあたって、注力した点、苦労した点、アピールポイントについて教えて下さい。
岡田 まず注力した点ですが、味の素グループとして2030年に目指す姿、ありたい姿がどういうものかを再確認いたしました。これは2024年版の反省点なのですが、言葉の上で2030年に目指す姿・ありたい姿がいろいろ出てきたものの、言葉の羅列になってしまったきらいがあったので、それをもう一度確認するのと共に、それに向けて今、どういうところにいるのかを示すことに注力いたしました。
またページ数については、2024年版では127ページだったのを99ページに減らすにあたって、たとえばサスティナビリティレポートに書かれている内容については、そちらへの誘導を図るといった工夫をしてみました。一方、写真が小さくなってしまった点は今後の課題であると認識しています。

人的資本と意思決定─多様性と統一した思想の両立
末山 2、3年前くらいから「人的資本もしっかり開示しなさい」という類のお達しが出されて、とはいえ各社とも、何をどう開示すれば良いのか、だいぶ迷われたと思います。味の素グループとしては今回、人的資本について記載するにあたって、どのようなことを読者に伝えたいと考えたのでしょうか。
河村 たとえば東南アジアで1個10円の調味料を販売している従業員にフィットした人事と、遺伝子治療に従事している従業員の人事は、そもそもあるべき姿が違いますし、その意味では各事業に寄り添った人事戦略の在り方は必要です。そうは言っても同一グループですから、グループとして共通して持つべき考え方として、志、挑戦、多様性、ウェルビーイングという4つの軸を整理したうえで、それを各国・各法人の人事担当者にも共有するように努めています。
ただ、どうしても総花的な書き方になることも理解していて、ここは読者の方々からも、大いに意見を頂戴したいところです。
末山 エンゲージメント・サーベイのスコアで、生産性向上の実績値が20ポイントでした。これは結構、低めの数字だと思います。その原因として、御社は「承認プロセスの課題」と理解されています。これをどのように捉えて、さらに今後、20ポイントを50ポイント、あるいは80ポイントと上げていくことが可能なのかどうか、そのあたりの方向性などを教えて下さい。
河村 ASVレポートで「承認プロセスの課題」としているのは、どうしても味の素グループでは日常業務において、物事を決定するまでに多くの承認を得なければならないという側面があるのは事実です。
各法人では承認の権限を見直したり、システムを導入することで承認プロセスの簡素化を図ったりなど、いくつかの工夫は見られるのですが、それでもスコアが低いままであるのはなぜなのか。もちろん、私たちも課題解決のアプローチが十分に出来ていないこともあると思います。同時に質問の聞き方が悪いのではないかということもあって、2025年のエンゲージメント・サーベイでは「日々の業務において、意思決定を得るうえで不必要な承認は最小限に抑えられていると思うか」という質問も入れてみました。すると、この質問に対するスコアは78点だったのです。
これは、「承認が多いのは事実だけれども、それらは不要なものかと問われれば、決して不要だとは思われていない」ということが分かってきました。
確かに、承認の多さをどうするかは引き続き課題のひとつとして捉えていますが、私たちは医療領域にも関わっているメーカーですから、製品や業務の質を担保するという意味でも、一定の承認は重要ですし、それを従業員も理解しているものと受け止めています。

成果とメッセージ─社会価値をどう伝えきるか
末山 社長メッセージについては、2023年版で10ページを割いていたのが、2024年版では14ページになり、2025年版では再び10ページに戻されています。その理由と、2025年2月に藤江太郎前社長から中村茂雄社長に交代したことで、何かアピールされたり、印象づけたりする工夫をされたのかどうか、その点を教えていただけますか。
岡田 2024年版は14ページを割いたものの、いささか多過ぎるのではないかという意見を頂戴したことと、今年は100ページ以内に納めたいということもあったので、中村社長には厳密に10ぺージでお願いしますと伝えました。ご本人が書かれるということで、大分、文字数はオーバーしたのですが、そこをいろいろ調整しつつ、10ページに出来ました。とはいえ、社長メッセージはレポート全体の骨格になる部分ですし、今回は99ページのうちの10ページですから、2024年版に比べて減りましたが、むしろ重要度は増していると考えております。
末山 2030年のありたい姿に向けて、50パーセントの環境負荷削減と、10億人の健康寿命の延伸を目標として掲げていらっしゃいます。レポートでは「2024年度に9.5億人の生活者と、おいしさと健康のハッチポイントを創出しました」とあります。この「10億人の健康寿命の延伸」と「9.5億人のハッチポイントの創出」はどういう関係にあるのかを教えて下さい。
伊沢 まず10億人という数字ですが、健康寿命の延伸という観点で社会貢献するための目標となる数字です。とはいえ、やはり事業と結びついているものでなければいけないということで、弊社のうま味調味料と風味調味料を使っていただいている人たちの数になります。
なぜそれが健康に役立つのか、ということですが、うま味調味料や風味調味料を使うことによって、塩分の使用量を減らすことができるからです。
それに、直接的に減塩やたんぱく質接種に役立つ製品を使っていただいているお客様の数を合算して10億人という目標値を設定し、現在は9.6億人の方々に使っていただいているところまで来ています。
アジアを中心に、うま味調味料を使っていただいている方が6億人いて、減塩やたんぱく質接種に役立つ製品を使っていただいている方が3.6億人ですから、合計で9.6億人になります。まもなく目標値の10億人が見えてきましたので、これは近々、アップデートしようと考えています。

末山 表紙のこだわりについても、ひとことお願いします。
岡田 実は表紙のイラストはここ3年同じものを使っており、これの意味するところは私たちのありたい姿「アミノサイエンスで人、社会、地球のウェルビーイングに貢献する」ということです。
3年前は白黒だったのが、昨年は地球のイラストはもっと小さくて、今年は地球がずいぶん大きくなっています。徐々にありたい姿に近づいてきていることを表現しました。また、今年2025年度版は、表紙の紙質が少しザラザラしたものになっていて、手触り感が出てきた、と。いよいよありたい姿に近づいてきたんだということを表現しています。
末山 ありがとうございました。
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