<対談>3つのキーワードでデクセリアルズを理解する


デクセリアルズ株式会社 経営戦略本部 IR部統括部長 富田真司氏

コモンズ投信株式会社 シニア・アナリスト/ESGリーダー 原嶋亮介氏

コモンズ投信株式会社 代表取締役社長兼CIO 伊井哲朗氏

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原嶋  なぜ「ザ・2020ビジョン」で、デクセリアルズに投資させていただいているのか、まずはその理由を簡単に説明したいと思います。キーワードは3つあります。「社長交代」、「デザイン・イン」、「対話力」です。
それぞれについて説明をいただこうと思います。まず直近の業績推移を見ますと、足元の利益は大きく伸びているのですが、逆に2019年以前は横ばいで成長できていませんでした。2019年といえば新家由久社長が新社長に就任されたタイミングでもありますが、何か関係があるのでしょうか。

富田  2015年に上場した直後から、ビジネスモデル自体は機能していましたし、販社防止フィルムが主力商品として立ち上がるというプラスの要素はあったのですが、モバイルIT製品への依存度が高く、最終製品市場の需要動向に左右されやすい面がありました。ちょうど2017年くらいからスマートフォンやタブレットの普及に伴う市場の成熟化に直面してしまったことや、自動車という新領域にチャレンジしていたものの、この時期はリソースの確保やプレゼンスの低さによって、まだ成長プロセスが見えておらず、全体的に伸び悩んでいたのです。

結果、前回の中期経営計画は未達で終わり、株式市場からの信頼も低下。社員も元気がなかったなかで新家が社長に就任しました。その時、新家は社員に向けて、「これから何が起こるか分からないような、想定を超える変化が起こるなかで成長し続けるためには、変化に対応できる会社になることが大事だ。会社が変わるためには社員一人ひとりが変わらなければならない。どうせなら変化の先頭に立って楽しもう」と言ったのです。ある意味、社員に対して健全な危機感を持ってもらうことで、意識変化を促した面があります。この話は今も社内で続けています。
原嶋  新家社長はどういう人物なのですか。

富田  エンジニアとして入社し、世界シェアナンバーワンの光学弾性樹脂を開発しました。また自らお客様に製品を売りに行くデザイン・インのベースを確立し、さらに自動車事業の初代責任者として、OEMメーカーと直接話をし、反射防止フィルムビジネスの世界的拡大の礎も築きました。社長室に籠っているタイプではなく、社内を歩いて社員と密なコミュニケーションを取り、社員を鼓舞しながら、やめることを決めるという厳しい決断もして、やるべきことをしっかり進めていくというタイプの経営者です。
今中期経営計画においては、成果が出始めて、変化に強い会社になるという自分たちの取り組みが間違っていないという意識や自信を社員が持ち始めた点が重要で、これが今後の持続的成長につながると考えています。

原嶋  2つめのキーワードである「デザイン・イン」ですが、それを実践するうえで必要なことは何ですか。

富田  対話力と、それを積み重ねた結果として得られる、お客様との信頼関係です。
対話力は、各領域において最先端を走っているお客様との対話を通じて課題や要望を伺い、まだお客様が気付いていない課題を先回りして見つけ、ソリューションとして製品を開発・提案します

この活動を続けることで、お客様が新しい製品を検討するにあたって、まず当社にお声がけいただけるようになり、最先端の技術トレンドを把握できるようになりました。デザイン・インのビジネスモデルを確立するためには、お客様との対話力と信頼関係が、極めて重要であると考えています。

原嶋  海外の売上比率が7割ということですが、グローバルな事業展開をするのに必要な組織づくりで留意していることは何ですか。

富田  当社には、デクセリアルズ・イノベーション・グループ、通称DIGという組織があり、ここではアウトサイド・イン、つまりさまざまな社会課題の中から当社の事業機会を見定めて、新たなイノベーションを創出して事業につなげていく部門があります。
新しい事業領域を特定して新しい事業を創出するためには、グローバルで最先端の技術トレンドを把握する必要があります。そのため、この部門のトップは国籍に関係なく、グローバルな視点を持った人にお願いしております。

原嶋  デザイン・インが上手く行った案件にはどういうものがありますか。

富田  異方性導電膜についてお話します。これは横幅0.5ミリ程度の、非常に細いフィルムですが、ICチップと基板を導電接続する際に必要な材料です。
現在、スマートフォンは画面の大型化、高精細化が進んでいます。そのなかで、ディスプレイの大きさがいずれ、スマートフォンの筐体の外枠一杯にまで広がり、フチがどんどん狭くなることを、お客様との対話のなかで予測しました。

ディスプレイの大きさがどんどん拡大して筐体の外枠に近いところまで広がると、実装しているチップの接続面積が狭くなるだけでなく、画面の高精細化が進んだことでチップの電極数も増えるため、チップの実装が大変難しくなります。
私たちはスマートフォンのディスプレイが今後そのような方向に向かうことをお客様から聞いていたため、いち早くそれに対応できる異方性導電膜の開発に着手し、実現しました。その製品は、今ではハイエンドのスマートフォンだけでなく、ミドルレンジの端末にも導入されるようになっています。

原嶋  この先、持続的成長が期待できる技術のメガトレンドはどのようなものですか。

富田 次世代の通信分野、IoTのアプリケーションの拡大は続きます。そのなかで鍵を握るデバイスのひとつは、センサーです。外の情報を取り込み、電気信号に替えて送るためのデバイスです。今後、ARやVRが普及するなかで、ヘッドセットのさまざまな部分に使われますし、自動運転が一般化されるなかで間違いなく増加すると思います。センサーの進化がなければ社会のIoT化も進まないでしょう。
あるいは脱炭素というトレンドのなかで、充電池を利用したアプリケーションが広がります。当社の表面実装型ヒューズは、リチウムイオン電池の過充電や過電流を防ぐためのものですが、ノートパソコンやコードレスの電動工具など、リチウムイオン電池を使うアプリケーションが増えているので、表面実装型ヒューズもこれからの技術トレンドにおいては必要不可欠になると考えています。

原嶋  3つ目のキーワードである「対話力」についてですが、お客様との対話はもちろんのこと、ホームページなどを拝見すると、投資家との対話にも前向きの印象を受けます。投資家との対話で留意していることは何ですか。

富田  経営理念である「Integrity」に基づいた双方向の対話を、あらゆるステークホルダーに対して実行することを大事にしています。投資家の皆さまに対しても「Integrity」を持ちながら、分かりやすい説明を心がけ、何が伝わったのか、何が伝わらなかったのかを明確にしたうえで、伝わらなかったものがあったら、どうやったら伝わるのかを常に考え続けます

伊井  海外売上高7割についてですが、今回のコロナ禍で中国がゼロコロナ政策を打ち出した結果、グローバルなサプライチェーンに影響が生じたと思われますが、どのような影響がありましたか。

富田  少なからず影響を受けたのは事実です。実際に、私たちのお客様に影響が生じそうになった時、まずとるべきアクションとしては、生産停止がいつまで続くのか、いつから動き出すのかを逐次、情報収集しつつ、それをお客様に伝えるようにしています。またオペレーションとしては、代替ルートをどのようにして確保するのかを考えます

伊井  想定為替レートについてはいかがでしょうか。

富田  当社はグローバル企業なので、当然のことですが為替レートの変動によって収益に影響が及びます。具体的には、1円の円安で年間の売上高が6.3億円、営業利益が5.7億円のプラスです。逆に円高が進めばその分だけマイナスが生じてきます。
対策としては為替予約を行うわけですが、さらに為替相場の変動に対する感応度を下げるため、取引をドル建てではなく円建てに切り替えるとか、ドル建ての費用を増やすといった努力を行っています。これらが効果を見せるまでには、まだ時間がかかりますが、重要な経営課題のひとつであると理解しています。

伊井  研究開発の予算はどのように決めているのですか。

富田  売上高に対して5~7%を研究開発投資に回していますが、足元では新製品の寄与で売上高が伸びてきたので、この率がやや低下しています。
とはいえ金額ベースでは毎年、着実に増えていますし、持続的成長を実現していくうえで研究開発投資は必要不可欠なので、これからもしっかり投資していきたいと思います。

伊井  優秀な人材を集めるうえでどのような策を考えていますか。

富田  優秀な人材であれば国籍を問いません。グローバルで優秀な人に来ていただきたいと考えています。私たちは日本の会社ですが、グローバル競争のなかで生き残り、かつ成長を続けていくためには、世界中から優秀な人材に集まっていただく必要があります。現在、そのために必要な措置として、給与体系を含めた人事制度の見直しを行っている最中です。

伊井・原嶋 本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

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