2022年11月のコモンズ30塾では、味の素株式会社の統合レポートを取り上げたワークショップを開催しました。
同社は2022年度より統合レポートの名称を「ASVレポート」に変更しています。
ASVは「Ajinomoto Group Shared Value」の略で、CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)に由来した言葉です。
今回はASVに込められた想いについて、IRグループ長の梶昌隆氏のキーノートスピーチ、レポーティンググループ長の伊沢千春氏、そしてコモンズ投信の伊井哲朗、末山仁を交えてのトークセッション、そして参加して下さった皆様からの質問を中心に内容をまとめてみました。
<目次>「味の素」ASVレポートを読み解く
1:【キーノートスピーチ】2022年度版ASVレポートの読みどころ
2:【キーノートスピーチ】ASVレポートの制作にあたって注力したこと
3:【対談前半】経営のスピードアップとエンゲージメントの向上を目指す
4:【対談後半】ROIC経営と志の浸透
<キーノートスピーチ>
味の素株式会社IRグループ長 梶昌隆氏
「2022年度版ASVレポートの読みどころ」
<統合レポートからASVレポートに>
2022年度版から、従来の統合レポートの名称を「ASVレポート」に変更しました。中身は弊社ホームページから読むことも出来ますので、興味のある方は是非、ご一読いただけたらと思います。
まずは、ASVレポートを読むうえでの参考として、弊社のさまざまな事業や取組について、ご説明いたします。
味の素株式会社は1909年創業ですから、113年という長い歴史を持っています。さらにこの先の100年に向けて、まさに今、さまざまな取組をしている最中ですが、今後の成長において大事なのは、創業時から変わらない志であると考えています。
創業当時の日本人は栄養状態があまり良くなく、欧米人に比べて体格が小柄でした。そこで、自身が昆布だしから発見した「うま味」を用いて日本人の栄養状態を改善したいと考えていた池田菊苗博士と、その考えに共鳴した二代鈴木三郎助によって、「味の素®」が開発されました。
この時、「おいしく食べて健康づくり」という創業の志が生まれたのですが、まさにこれは、当時の社会課題の解決によって、味の素の企業価値の基盤が築かれた瞬間といっても良いでしょう。これから100年先に向けて、私たちは事業を通じて社会課題を解決しながら、経済価値も創造していきたい。その想いを込めて、ASVレポートを編集しました。
<環境負荷を50%削減し、10億人の健康寿命を延伸する>
池田博士が発見したうま味成分とは「アミノ酸」のことです。私たちは110年以上の歴史のなかで、アミノ酸をひたすら研究し続けてきました。
その知見が味の素グループにはたくさん積み上げられています。アミノ酸を活かして世界中の皆さんの食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、世界中の人びとのウェルネスを共創していくことを会社のビジョンとして掲げ、そこから2つのアウトカム(結果・成果)を提示しています。
ひとつは、2030年までに環境負荷を50%削減することであり、もうひとつは10億人の健康寿命を延伸させることです。
現在、味の素グループではグローバルで約3万4000人が働いています。工場は120あり、約135カ国・地域に製品展開をしています。
足元の売上構成をいくつかの角度から見ると、食品事業が70%で、アミノサイエンス事業が30%。調味料・食品の国内外売上構成は、海外が70%で、国内が30%。売上をBtoCとBtoBで分けると、BtoCが70%で、BtoBが30%。そして事業利益で見ると、食品事業が70%で、アミノサイエンス事業が30%というように分かれています。
事業セグメントは3つあります。「調味料・食品」、「冷凍食品」、「ヘルスケア等」です。
調味料・食品は、アジアやラテンアメリカのプレゼンスが大きく、これら地域における経済成長に伴って成長してきました。足元でやや利益の伸びが鈍化しているように見えるのは、ここ2年あまり続いているインフレの影響です。コスト削減で吸収し切れない分を価格転嫁している最中で、これから利益率を改善していく局面です。
冷凍食品は餃子が好調です。日本に加え、特に米国や欧州で餃子ブームが起こっています。新しい食文化を体験したいという欲求に加え、炭水化物、肉、野菜をバランスよく摂取できる点でも餃子に関心が集まっているようで、今年日本の餃子の売上を海外が上回る見通しです。
ヘルスケア等セグメントでは、アミノ酸の研究が医療現場で活かされています。たとえば点滴に用いられる輸液の原料にアミノ酸が使用されており、弊社は高いグローバルシェアを誇ります。また現在は医薬品受託製造事業が成長しており、当社独自の技術を活かした高付加価値製品をグローバルで展開しています。
加えて、アミノ酸の研究課程で生まれた副産物とも言えるのですが、半導体パッケージ基板に用いられる絶縁フィルム・味の素ビルドアップフィルム®(ABF)の需要も拡大しています。パソコンやデータセンターサーバー、車載など用途は様々ですが、高性能半導体において圧倒的なシェアを頂戴しています。事業利益率が高く成長スピードも加速しています。
<中期計画から中期指標経営への進化>
味の素株式会社は2022年4月1日付をもって、社長を前任の西井孝明から藤江太郎に交代しました。これまでの中期経営計画は、過去数回、未達となりましたが今回(2020-2022)はいよいよ達成が視野に入ってきています。
そして、2023年からは従来のような3カ年の中期経営計画を掲げず、2030年に在りたい姿を描き、それに向けてチャレンジすることにしました。「中期計画」から「中期指標経営」への進化です。
というのも近年、企業を取り巻く環境変化が激しいため、3カ年という時間軸で計画を策定すると、どうしてもずれが生じてしまうからです。そこで時間軸を長くとり、世の中の環境変化に対して機動的、かつ柔軟に対応できるようにします。そしてイノベーションを起こして、事業を通じて社会課題を解決しながら経済価値も創出するために、先ほど申し上げた食品70%:アミノサイエンス30%の事業利益構成を、2030年までに50%:50%にし、サスティナブルな事業構造を目指します。
さらに、2030年とその先の世の中の変化を見据え、私たちの強みを活かして解決し、かつ事業価値の向上につながる社会課題は何かを考えました。強みを活かせる4つの領域を設定しましたが、事例を挙げると、例えばICT。電子材料に弊社の技術が活用されていることを先に述べましたが、今後も事業モデル変革により、半導体の高機能化に応じた次世代材料の開発や、将来の新システムへの参画などにより持続的成長を実現していきます。
また、先の通りアミノ酸の基礎研究からヘルスケア領域に活用できる独自技術も多く持っていますので、医薬品受託製造事業をはじめ、バイオ医薬品製造に用いられる培地や再生医療、細胞治療・遺伝子治療ソリューションなどにより先進医療モダリティーの実現に応えていきます。
さらにオルタナティブ・プロテイン、いわゆる植物由来の代替肉分野などグリーンフード領域においても、弊社独自の「おいしさ設計技術®」と先端バイオ・ファイン技術を融合し、より付加価値の高いソリューションの提供を目指します。
<2050年に向けてのマテリアリティを策定>
このように事業を通じて社会課題の解決に取り組みながら、経済的な価値も創造していくために、社内的な取り組みも積極的に行っています。
まず、2050年という未来に向けてのマテリアリティ、つまり私たちの強みを活かして社会課題を解決するための優先順位を決めるために、取締役会の下部機構として「サスティナビリティ諮問会議」を設置しました。ここでは健康・栄養、Well-being、新興国、次世代、ESGやインパクト投資など、さまざまな分野における社外有識者を中心に議論をし、取締役会に答申できるようにしています。
それ以外にも従業員のエンゲージメントを高めることや、副業や兼業を認めて外部の知見を社内に持ち込んでもらい、イノベーションを促進するといった、すべての無形資産の源泉となる人財資産の強化にも取り組んでいます。
最後に、弊社に投資して下さっている投資家の皆様に対しては、株主還元を強化していることをお伝えしたいです。創出したキャッシュフローをしっかりと成長投資に充てつつも、余剰キャッシュを滞留させず、積極的に株主還元を行うことを重視しております。
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