日本の高齢化社会が抱える問題のひとつが認知症です。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推定されています。エーザイの認知症治療薬についてのコラムは2021年8月、2022年2月と続いて今回は第三弾です。2月のザ・2020ビジョン運用レポートの同コラムの解説と直近の動向について末山さんに質問しました。

解説 運用部シニアアナリスト 末山 仁

聞き手 マーケティング部 横山 玲子

 

- 国内においてアデュカヌマブは継続審議となっていました。その後どうなりましたか? 

末山 アデュカヌマブは残念ながら日本、米国、欧州のいずれも厳しい状況になってしまいました。今後はレカネマブに期待を寄せています。

- どこが問題視されたのですか? 

末山 アメリカでの保険適用が「臨床試験参加者のみ」と極めて限定的な使用に留まったことや、欧州でも承認申請の目途が立たなくなり申請を取り下げたことなど、外部環境が極めて悪化したことが大きな要因と考えられます。

― アデュカヌマブとレカネマブの違いは何ですか? 

末山 アデュカヌマブはレカネマブより副作用の発生率が高くなっています。それゆえにアデュカヌマブは使用開始直後は少量からスタートし、徐々に摂取する用量を増やし、規定の用量に達するまで3~6ヵ月を要します。 一方レカネマブは副作用の発生率が高くないので、最初から高用量を摂取することができます。そこがレカネマブの強みであると見ています。

また、レカネマブは発症してから飲むのではなく、40~50代といった早い段階から飲むことが効果的とされています。原因とされるアミロイドβ(ベータ)(タンパク質)が溜まってきたことを検知したら飲むイメージです。 アミロイドβ凝集体を無毒化し脳内から除去することで病態進行を抑制する効果が期待されています。一方のアデュカヌマブについては、そういった早い段階からの治験を行っていないので、その効果については不明です。

厳密にいうとアデュカヌマブは脳にたまったアミロイドβを取り除く薬ですが、レカネマブはアミロイドβが凝集していく過程の中間段階であるアミロイドβ凝集体を取り除く薬という違いがあります。

-レカネマブへの期待が高まりますね。市中に出回るのはいつ頃になりますか? 

末山 エーザイは2022年度中に承認申請する計画です。早ければ2023年度中頃に承認され、そこから上市となるので早くても2023年の後半以降といったところでしょう。 不安要素として、先のアデュカヌマブの普及拡大が難航している影響でレカネマブを含む後続の認知症治療薬についても厳しい目が向けられる可能性は残りますが、レカネマブについては治験で得られたデータなどから、承認に向けてクリアしていくものと期待しています。

- 薬の競合の様子はどうでしょう? 

末山 レカネマブの競合する開発薬は2つあり、同じ様なスピード感で治験や承認申請スケジュールなどが進んでいるようです。アデュカヌマブより副作用が少ないレカネマブに大いに期待しています。

-認知症の検査薬については開発の進捗はどうなっていますか? 

末山 シスメックスのアミロイドβの検査試薬は早ければ2022年中に承認が下りるスケジュール感です。検査結果で陽性と診断された場合でも治療薬がなければ不安になるだけなので、やはり治療薬とセットであることが不可欠であると思います。

検査薬の開発では、国内企業として島津製作所シスメックスが競っていますが、現状ではどちらかに軍配を上げるのは難しそうです。

 - 製薬会社は特許の有効期間と新薬開発のスピード競争で疲弊しそうなイメージがあります。長期で生き残る会社は限られそうに思いますが、エーザイの勝機はどこにありますか? 

末山 確かに、数百億円かけて新薬を開発しても成功する確率は低く、成功したとしても収益化出来る期間は特許の有効期限を考慮するとそれ程長くありません。そのため、製薬企業の安定的な成長のためには、次々と新薬を開発していく必要があります。創薬ベンチャーが開発する将来有望な開発薬への投資なども有効な戦略となっています。また、日本の製薬企業は海外のメガファーマとの比較では、企業規模が大きくないので買収されるリスクに晒されているとも言えます。 そういった中、エーザイでは新薬の開発以外の事業領域として認知症のプラットフォーム事業という新たな領域をデザインし広げていくことを計画しています。

- プラットフォーム事業とはどういうことですか? 

末山 病院との連携等の社会サービスや保険会社との連携認知症の兆候をつかむアプリの仕組作りなど、認知症に関することを様々なステークホルダーなど広範に結び付けていくことです。認知症に関するあらゆる領域を網羅し、事業化していく構想です。

 

- 認知症に関することは何でも取り込んでいくということですね。

末山 そうですね。認知症治療薬もレカネマブだけではありません。認知症の発生原因としてアミロイドβが原因物質であると広く考えられていますが、アミロイドβが溜まると発生するタウが原因であると考える研究者もいます。 その対応としてタウを退治する治療薬も開発中です。また、神経細胞の回復やシナプス再形成を促進する治療薬も開発中です。

このように、アルツハイマー型認知症の開発薬を様々な角度から準備しています。認知症治療薬の開発では、世界のトップランナーとしてリードしていくとの強い意志が感じられます。

認知症のプラットフォーム構築に成功した場合、将来的には新薬開発に頼らずとも盤石な事業基盤が構築されることが期待されます。こうした経営判断ができるのは内藤CEOのリーダーシップによるところが大きいと考えているので、プラットフォーム構築成功の成否を確認していく意味でも、後継者の行方には関心を持って見ていきたいと考えています。

 

― 超高齢化社会に伴う認知症患者の増加といった社会問題に早く解決の出口が見えてくることを願ってやみません。エーザイをはじめ、その課題解決に奮闘する企業の努力に敬意を表しつつ、引き続き応援していきたいと思います!ありがとうございました!

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