「ブロッコリー世界シェア約65%! 

今回は久しぶりの上野さん回です。

前回と同様に、食料・農業をトピックとして聞いてきました。

運用部/シニアアナリスト

上野武昭

聞き手:マーケティング部
横山玲子

横山 今回のテーマはここしばらく上野さんの中でホットな農業ですね。 

上野 食料自給率を高めることとエネルギー自給率を高めることが、世界どこの国においても重要だと思っています。そのため、農業には将来性があり、それに関わる会社には注目しています。日本において農業に関わる会社で、グローバルで展開している会社としては、種子メーカーのサカタのタネが思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。 

 

横山 サカタのタネという社名も頭に残りますしね! 

上野 そうですね。農業は環境とも密接なつながりがあります。サカタのタネが生産した種子を使うと、発育の良い野菜や花が育ちます。発育の良い作物ならば、廃棄も少なくなり、さらに、植物は光合成の働きでCO₂を吸収することを考えると、環境への貢献も注目です。 

 

横山 種の業界は参入障壁が高いそうですね 

上野 医薬品と同じで「千三つ」、1000個開発してモノになるのはひとつかふたつという世界です。開発は10年がかりの仕事で、10年先にマーケットがあるか、成長するかということを考えながら種を開発します。それから、自然との勝負というのもあってとても参入がしにくい業界です。 

 

横山 なるほど、改めて難しいビジネスですね。新商品の開発の様子はどのようのものですか? 

上野 種子の開発は、アメリカやブラジルなどの乾燥した地域でやっています。開発する種子はF1品種という一代限りの品種です。F1品種の種子を購入して育てた作物から種子を採り、それを植えたとしても同じようには育ちません。同じ種子が採れてそれを利用できてしまったら、種子メーカーにとっては商売あがったりですよね。 

 

横山 たしかにそうですよね!サカタのタネは研究開発に強みがあるそうですが、できた種というのは特許などで守られているんですか。  

上野 もちろん、各国で品種登録、特許登録、商標登録などさまざまな観点からの知的財産の保護(知財ミックス戦略)に努めています。  

 

横山 上野さんは研究開発費が多い企業が大好きなんでしたよね。サカタのタネはどれくらいなんですか? 

上野 22/5期実績、23/5期計画で、売上高比で11~12%ほどが研究開発費です。同社は研究開発をとても重視しています。  

 

横山 今後のマーケットの成長シナリオを教えてください。 

上野 世界の人口増加と健康志向の高まりから、野菜の需要は増加し、野菜の種子の需要も増加します。特に、中国での需要拡大が期待されますね。所得の増加に伴い、穀物系やたんぱく質の摂取に加えて、野菜の摂取が増えてくるでしょう。 

 

横山 たしかに、まずはエネルギー源である主食と肉魚!となりますよね。種業界の競合他社はどれくらい強いですか? 

上野 世界の野菜種子市場の規模は約90億ドルと推定されています。トップグループは、仏リマグレイン、独バイエルクロップサイエンス、スイスのシンジェンタなどで、サカタのタネ(年間売上高700億円超)はそれに続くグループにいます。サカタのタネは、売上高の海外比率が7割程度と高く、海外の野菜種子市場の成長とともに、利益成長が期待されています。 

 

横山 伸びしろ大きいですね!そしてその中でサカタのタネはブロッコリーが強いそうですね? 

上野 サカタのタネのブロッコリー種子の世界シェアは約65%です。 

 

横山 なんと!世界シェアの65%とは驚異的ですね!!! 

上野 ブロッコリーは、以前は、今よりもアクが強くて食べにくかったと思うのですが、味などを工夫して品質の良いブロッコリーを開発し世界に認められました。そのほか、ほうれん草やレタスなどの種子でも強みを持っています。ちなみにプリンスメロンの種子は、サカタのタネが開発したものです。高級メロンが中心だった時代に、日本人に受け入れられるメロンを世に送り出したのですね。 

 

横山 プリンスメロンは網のない小ぶりなメロンですよね。次は何の品目でシェアをとりにいこうとしているのですか? 

上野 トマト、ペッパーなどの果菜類です。果菜類は、世界の種子市場で40~50%を占めていて、大きな市場があります。特に、トマトは、ミニトマトやフルーティーな味覚のもの、トマトペースト、ケチャップ、などニーズが幅広く、付加価値をつけやすい。ペッパーも世界中で需要があります。 

 

横山 たしかにスーパーのトマト売り場はいつも山盛りで売っていますね。世界中どこでも食べられていますしね。ペッパー系の野菜は家庭菜園でもポピュラーでたくさん収穫できるイメージがあります。サカタのタネは穀物系の種はやっていないそうですが、なぜですか? 

上野 小麦、大豆、トウモロコシなどの穀物系は、市場が大きく、欧米の種子メジャーが強みを持っています。それこそ参入障壁が高いので、サカタのタネが入っていくのは大変でしょうね。 

 

横山 なるほど。それこそ人間だけでなく生き物全般のエネルギー源として需要と供給の規模が違う感じがしますね。野菜でいうと味や大きさの他に売れる条件は他にありますか? 

上野 流通に乗りやすい野菜であることです。産地から消費地まで運ぶ際、傷まないような、温度変化や衝撃にある程度耐えられるような品種であることが必要です。 

 

横山 幻の野菜(くだもの)とテレビで紹介されるのを見たことがあります。市場に出回らないんですね。種子ビジネスを成功させるために重要なことはなんですか? 

上野 野菜種子の開発においては、先ほど、一代限りのF1品種の話をしましたが、いずれにせよ、世界各地の気候風土に合った継続的な研究開発が大切です。 

 

横山 サカタのタネは種の開発・販売以外にマーケット拡大のためどのような努力をしているのでしょうか? 

上野 開発生産した野菜種子は、商社など代理店を通して、最終顧客である世界中の農家に供給します。代理店と一緒に、サカタのタネのスタッフが農家にマーケティングや指導などに行くようなこともあるようです。 

 

横山 それは重要ですね。農家さんもはじめて育てる野菜であれば当然生育上の注意点などは絶対聞きたいでしょうし、種メーカーが伴走してくれれば心強いですよね! 最後に、「食」に関することというのはいろいろな人が異なる立場で意見することが多いカテゴリーのひとつと思いますが、環境面ではどのような取り組みが進んでいるのでしょうか? 

上野 発育の良い野菜ができれば、あるいは、流通に乗りやすい野菜ができれば、廃棄が少なく環境にやさしいことになります。 話は変わりますが、農業全体で言えば、化学肥料の問題などが、環境の観点からクローズアップされることが多いですね。最近、スリランカで化学肥料を禁止したら収量が激減し、農産物の価格が暴騰しましたよね。 

 

横山 なるほど。有機栽培や完全無農薬栽培も供給量コントロールという観点ではリスクになるということですね。今日はありがとうございました。(終) 

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