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今回のテーマ「物流業界の2024年問題」というのは、トラックドライバーの時間外労働に対して規制が入るという話で、もちろんトラックドライバーの労働時間の条件というのは今もあるのですが、猶予期間が設けられているためにあまり機能しておらず、それが2024年に猶予期間が切れて厳格化される、という話です。
今回は原嶋さんに「物流業界の2024年問題」について聞きました!

解説 運用部アナリスト 原嶋 亮介
聞き手 マーケティング部 福本 美帆

 

原嶋 今回のテーマ「物流業界の2024年問題」はどこかで取り上げたいと思ってた話で、2022年になって、そろそろ株式市場のテーマになりそうな雰囲気を感じています。昨年12月にあったヤマトHDのスモールミーティングの時にも私からこの話を質問しましたし、SG ホールディングス(以下、SAGAWA)の説明会でもこの話題が質問で出てたりしています。

福本 「物流業界の2024年問題」を投資テーマにするという意味で言うと、例えば業界再編が起きるとか新たなサプライヤーが出てくるとか、そういうことですか?

原嶋 その可能性が十分あると思います。まず今回のこの2024年問題というのは、トラックドライバーの時間外労働に対して規制が入るという話で、もちろんトラックドライバーの労働時間の条件というのは今もあるのですが、猶予期間が設けられているためにあまり機能しておらず、それが2024年に猶予期間が切れて厳格化される、という話です。
トラック業界では慢性的な人手不足が課題になっています。平均年齢も高く、さらに、2024年というと団塊の世代が後期高齢者に入っていくタイミングと重なるということで、ドライバーの数がさらに減ってくるトレンドにあります。
そのタイミングで労働時間の厳格化がされると、今はなんとか持ちこたえているものが、ついに崩壊してしまうのではないかというのがひとつです。

もうひとつは、実は、長距離の幹線輸送の領域は、大手の運送業者でも、9割が外注となっています。この多重下請けの構造が物流の業界の問題と言われてます。
大手の運送事業者が依頼した仕事を請け負ったところがまた次のところに依頼して、というように無数の中小の運送事業者にその仕事が流れていくような構図になってるわけですが、とにかく今はそういう形式なので良くも悪くも配達を頼めば一応運べる状況にはなっています。
それがドライバーが不足して荷物が運べなくなった時には、その業界全体を考えた時に当然大きな変化が出てくるだろうことが想定されます。あとテクノロジーの面もこれまで以上に必要になってくると思います。

福本 お話聞いているといくつかの論点がありますね。多重下請けになってる構造が結果的にヤマトHDのような大手の運送会社自らの首を締める、ということには当然気づいているでしょうから、例えば下請け業者を自社で抱え込むとか業界再編を自ら主導するというような発想になってきていますか?

原嶋 そうですね。2024年になるとどういう変化が起こるかというと、まず、ひとりのドライバーが運べる距離が短くなります。例えば、今は青森から東京までひとりのドライバーが運べているものを、複数のドライバーで中継しないといけなくなる。その時にまずインフラとしての中継拠点が必要になります。そう考えると、例えばヤマトHDはインフラ面に強みがある。つまり、全国津々浦々に営業所を構えていてネットワークを張っているということが強みになる可能性が高い。そこを活用してマッチング・引渡しを含めルート設計をどう組むのかを考えれば良い、という点ではアドバンテージがあると思います。しかしそれ以外の事業者は自前のセンターがそこまで細かく配置されてないので、どうするかというのはもう少し根の深い問題になっていくと思っています。
先般、SAGAWAが日本郵便JPと業務提携をするリリースを出しニュースに取り上げられていますが、もしかしたら、それもこういう所を考慮に入れてのことかもしれないです。
つまり、郵便局のネットワークは当然日本全国をカバーしているので中継地点として活用するといったことを視野に入れてのことかもしれません。ただ郵便局は配送センターのような形状ではないので配送用トラックが荷物の受け渡しができるかと言われると厳しいかもしれませんね。とにかく、まず、中継インフラがあるかというのがひとつポイントになってきます。

あと、これはヤマトHDのスモールミーティングでおっしゃっていた話なのですが、トラックだけで運ぶのは限界があるので、例えばJR貨物、いわゆる鉄道網や、フェリー、そして飛行機なども活用する、という方法です。
ちょうどJAL の飛行機でヤマトの荷物を運ぶという取組みが1月31日に日経電子版に出ていました。

ヤマトHD2022年1月21日リリース

他の輸送手段での運び方も視野に入れて検討していくというような話をしていたのでこのニュースはそれが形になって表に出てきたものですね。
これだけで全ての問題が解決するというわけではないですが、いろいろな手段を組み合わせて運んでいかなければならないというなかで言うと、これがひとつ形として出てきた事例です。

福本 行きと帰りで積載率が違うという話も有名ですよね。これは結局マッチングの話だと思うのですが、そのマッチングシステムが運輸業界はずいぶん遅れているそうですね。
ラクスルのような事業者が登場して、空いているトラックと荷物をマッチングさせるという話が今ようやく回り始めているのかなと思うんですけど、こういったサービスで新しいプレーヤーは出てきていませんか?

原嶋 ラクスルがやってるのは長距離のマッチングではなく、ラストマイルといわれる最終配送先に届けるところとか、あるいは、ある都市圏内での輸送をマッチングしています。
長距離のマッチングは難易度が高いのですが、そこにチャレンジしている会社もありますので、そういった会社は特に注意してウォッチしています。

福本 新しいプレーヤーが今度どんどん出てくるというより既にある会社が新しいサービスを展開することも多そうですね。

原嶋 新しいプレーヤーもまだまだ出てくる可能性はあると思いますけど、やっぱり結構難しいとも思います。
やはり課題になるのは、中継拠点です。さきほどのヤマトHDの話の繰り返しになりますが、中継拠点を整備しなければ長距離を運べないことになります。
そこでまずコストがかかる。資産を抱える形にもなりかねないというところで、リスクがあるわけです。
単純にシステムだけを作ってそれを使ってマッチングをすればいいというものではなく、結局その後長距離の幹線輸送を実現するには中継することが必要になってきますので、「システム」と「インフラ」が必要になるというのが大きな特徴かなと思います。。

福本 システムだけでもダメ、インフラだけでもだめ、両方ないとダメということですね。

原嶋 そうです。あと、人手不足の物流業界全体としてどこまで省人化を進められるかというのも当然重要なテーマとしてありますね。物流センターの効率化も関連テーマということでひとつ面白い会社をご紹介すると、Ocadoという会社があります。これが彼らの物流センターなのですが、2018年の記事なので結構前で画像だけだと分かりにくいのですが、この下に商品ごとに棚があってそれをロボットが全自動でピッキングしています。

Ocadoのピッキング倉庫

ネットスーパーなどが人力で行っている作業をロボットが自動で行う最先端の事例です。ロボットに最適化されていて、ここでは人は働けないですね。Ocadoはこういう最先端のロボット企業ということで注目されています。
業界的には如何に人を減らしていくかというのが大事なので、トラックからの荷物の積み下ろしなどにも、こういった技術が応用されると思います。

福本 技術革新の話だとついドローンが荷物を運ぶ!?みたいな方向に考えがちですが、実際の運用となると法整備なども必要で、短期に実現することが難しいですものね。
それよりはこういうかっこいいロボット使ったピッキングや積み下ろしのところの機械化がまずは進んで、ラストワンマイルは引き続き人がやることになるのですね。

原嶋 ヤマトHDも2025年ぐらいまでにはドローンの配送で世界の先頭きって実現したいというような話もしていてアメリカのベンチャーと組んでいるんですね。
提携先としてグローバルな航空機メーカーなども検討したようですが、技術面などをいろいろ検討した結果、あるドローンベンチャーとの提携に至ったようです。

福本 あと、物流にかかるコストを私たち利用者がちゃんと認識するというのも必要かもしれないですね。最近ニュースで目にしたんですが、ある宅配業者が電車の中刷り広告で送料無料という全面広告を出し、それに対して運輸業界やドライバー業界から「自分達の存在を無料として言われている」という抗議があったというもの。

配送コストを企業が負担してるだけであって、配送料がゼロになるわけではない。私たちもつい配送料無料という文言に誘われて、配送料が無料になる金額までついで買い、、、ということは思い当たります。配送コストのことを社会的にも認めていくことが必要ですよね。

原嶋 私も原稿で「値上げは覚悟してください」って書いたと思うんですけど、そこはもうおそらく避けて通れないと思います。
ドライバーの数が少ないということであれば、その待遇をあげないといけない。労働時間が減るということは時給を上げなればいけないわけで、そうすると、値上げをしないと経営が成り立たなくなる。一番シンプルな解決策は大幅な値上げをするということだと思うんです。
その上で、その大幅な値上げをしても請け負う荷物の数がちゃんと確保できるか、という新しい課題が出てくると思います。

おそらく次にくる値上げの幅は、前回(2017年の値上げ)の比ではないだろうというのを感じています。あの時は、Amazonの荷物を引き受けていたヤマトHDが、荷物の数量が増えて捌ききれなくなり、値上げをしたわけですが、結果的に別の宅配業者がカバーするだけの余力を持っていたため、業界全体で見ればそこまで送料の値上げも起こりませんでした。でも、今度は全然状況が違います。もう本当に業界全体としてドライバーがいないわけですから、値上げは避けられず、値上げ幅もより大きくなるのでは、とみています。

福本 値上げができる会社とできない会社で前より収益力の格差はついていくし、業界の構造変化が起こる時には新しいプレーヤーが出てきたり新しいサービスが生まれるので、そこにも注目なわけですね。

原嶋 どこが一番うまくネットワークを構築できるかということだと思います。先ほどはテクノロジーについてお話しましたが、他にもヤマトHDは2台のトラックを並べて、後方車両は自動運転で前方車両を追尾するというようなことも考えているようです。外国にある連節バスのように2つ繋がったコンテナみたいなものの開発もしていますし、そういうところも含めて投資機会があると思います。

先ほど出てきたOCADOは、イオンと提携していますが、イオンとしてはやはりロボットの技術に興味があるのだと思います。ただ、それも、例えばネットスーパーで入ってきた注文を仕分けするところまでの話で、そこから誰が運ぶか、というのはまた別の話ですね。
この2024年問題はいろいろ死活問題になるかもしれません。

福本 この問題一つからも、様々な投資テーマになりうる、ということですね。

原嶋 そうですね。色々なサービスのベンチャーも出てきています。先ほどのラクスルの競合で、ラストマイルのマッチングをしているサービスで、「 PickGO」 というロゴの入った軽トラを見たことありませんか。

PickGoのHPトップページ

また、これも非上場ですが、物流倉庫のマッチングをしてるようなところもあります。倉庫も季節性がある商品の保管も多くて、たとえば飲料などは夏だけ大きな面積必要だけれど冬はそれほどでもない、そういうものをマッチングして面積借りのような仕組みです。

福本 この先もヤマトHDに投資し続けられるのか?という話もありますね。

原嶋 ヤマトHDは、構造改革の行方に注目しています。短期の業績よりもその構造改革の結果、長期的価値が高まるかどうかが何より大事だと思っているので、そこに懸念が生じれば逆にどんなに短期的な業績が良くても投資し続けていいのか、検討しなければいけないでしょうね。

福本 なるほど、よくわかりました。ありがとうございました。

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