前回のザ・2020ビジョンのレポートコラムでは5Gを使ってのオンライン診療についてまとめたのですが、レポート締切後に興味深いワクワクする発表があったので今回はその話を。医療用のロボットです。

解説 運用部シニアアナリスト 末山 仁

聞き手 マーケティング部 福本 美帆

末山 先日(11月18日)シスメックスと川崎重工の合弁会社「メディカロイド」の手術支援ロボットシステム“hinotori”の製品発表会ありました。同社が手術支援ロボットを開発し、国から製造販売承認を取得し、これから売っていきますという内容でした。

世界的にはアメリカの“ダヴィンチ”という手術支援ロボットが約7割のマーケットシェアを占めていて、この牙城に向かっていきますということなのです。
発表会の中では何年先という明言はしていませんでしたが、5 Gを 使って将来的に遠隔手術を行っていくことについても言及していました。

福本 「ロボットによる手術」には、病状や状況に応じて(もちろん、プログラムされた通りに)ロボットが自動で手術するのと、あくまで人が操作して手術するのと2つのパターンが考えられますがどちらの話ですか?

末山 後者です、前者はまだまだ話にもあがっていない夢物語の段階です。
医師が別の場所にいて操作用の機械に向かって画面を見ながら機械を操作し、手術をする。現在は操作と手術を同じ手術室内でやっているわけですが、操作台を手術室の外に持っていくという話です。そうすると都市部に勤務する医師が、過疎地の患者の手術を行う、なんてことが可能になるわけです。
現在、“hinotori”が保険適用されているのは泌尿器科領域だけなのですが、今後どんどん広げていく予定です。
“ダヴィンチ”などのロボットを使用する手術はすでに始まっていますが、遠隔手術はまだこれからの話です。

福本 その、シスメックスと川崎重工のロボットはどういう点において優れているのですか?

末山 いくつかありますが、例えば価格面では、 “ダヴィンチ”よりは安い価格で提供できると言っています。それも売り切りだけではなく、リースや手術1回あたりいくらという課金体系なども用意していくとのことです。
また、製品のサイズも“ダヴィンチ”の場合は専用の手術室が必要なほど大きいのですが、“hinotori”は比較的コンパクトなので現状の手術室に置くことが可能とのことです。

福本 ヒノトリ、というのですね。

末山 はい、手塚治虫の、あの『火の鳥』からきています。
ロボットのアームの関節というかつなぎ目を軸(じく)というのですが、ダヴィンチが6軸で今回の“hinotori”は8軸。軸の数が多い分、滑らかに動くことも強みとしてアピールしていました。

製品発表会では手塚プロダクションから手塚治虫の娘さんが動画メッセージで「漫画『火の鳥』では人の命を救えないが、“hinotori”のロボットが救ってくれる。それは手塚治虫の本望ではないか」とおっしゃっていました。
手塚治虫の『火の鳥』という作品は僕よりも少し上の世代に親しまれたようですが、“hinotori”プロジェクトをスタートした川崎重工の橋本氏とシスメックスの浅野氏の2人はちょうど、『火の鳥』世代なのかもしれません。

操作台と手術台。操作台を外に持っていけば遠隔になって、例えば地方の病院にこのロボット手術台のほうを置いておいて東京の操作台から手術する。遠隔手術の実験はすでに始まっていますが、安全性を確認し、厚労省が認めるのには結構ハードルが高いと思うのでまだ何年かかかると思います。

福本 安全性が確認されて許可が下りるまでには治験(実験?)を繰り返してデータを積み上げていくのでしょうけど、その練習台にはなりたくないですね・・・

末山 今、僕らの感覚ではそう思うかもしれないけど、ロボット手術が主流になるころにはその感覚も変わってくるかもしれません。ロボットの精度向上や医師の技術向上によって、ロボット手術のほうが失敗のリスクが低くなっていくことが考えられます。
ちなみに、“hinotori”は承認を取得しているので手術の安全性は確認されていると言えます。今後、遠隔で使用する場合の承認が別途必要です、というところ。そこで5Gの低遅延通信がそのカギを握るのではないかというわけです。

福本 シスメックスにとってこの新規事業の業績面での位置づけとしてはどの程度なのですか?

末山 メディカロイド社の2030年の売上目標は1000億円。川崎重工とシスメックスが50%ずつ の出資なのでシスメックスの業績インパクトは500億円。シスメックスの今期の売上高見通しは3100億円なので、500億円というのは大きいですね。

福本 シスメックスは30年目線でまだまだ持続的な成長が期待できますか?

末山 まだまだ成長は可能と見ています。個別化医療実現に向けた取り組みである遺伝子検査などは、規模はまだこれからですが期待していますし、「メディカロイド」についても新規事業開発に力を入れている点で評価できます
コモンズ投信がシスメックスに投資したのが2010年頃から。この10年の成長がすごかったですよね。コモンズ30ファンドの投資先の中でもこの10年のパフォーマンスに最も貢献した企業の一つです。
2016年度は成長が踊り場になっていましたが、そもそも20年も30年も一直線で成長し続けることはかなり難しいといえます。2017年度以降は再び成長軌道にのってきたと思います。今期は、新型コロナウイルスの影響で業績は一旦落ち込む予想ですが、新型コロナウイルスへの新たな検査の開発など、逆境をバネに来期以降は再度成長路線に回帰していくことを期待しています。

福本 そういった意味で踊り場だったのかなと思っていたらまた新しい事業が出てきてすごいなと思いました。

末山 企業には成長の壁があると言われています。売上高3000億円も、もしかしたら壁になっているかもしれません。今後、5000億円、1兆円と成長していくためには、新規事業の開発・育成はとても重要なポイントになっていきそうです。

福本 ありがとうございました!

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