<企業との対話:後編>「ほんまもんを追い求める」堀場製作所

前編では堀場製作所の組織づくり、グローバルでトップシェアを取る強みなどについて伺いました。後編は、会社の内部体制、そして長期的に存続する企業になるため、これからどういう施策を打っていくのか、そして長期投資家に対して期待することは何なのか、などについて伺いました。

 

 

組織全体をフラットにする

末山  現在、堀場厚代表取締役会長兼グループCEO、齊藤壽一代表取締役副会長兼グループCOO、そして足立社長というトロイカ体制などとも言われていますが、これから5年先を考えた時、この体制がそのまま続くかどうかは分からないと見ています。今後、トップの体制がどのように変わっていくのでしょうか。

足立  5年後のトップ人事は、これはもう重要な情報になるので、どうなるのかをここで申し上げることは出来ません。
現状の体制においては、会長の堀場厚と副会長の齊藤壽一がおもにグローバルに広がるグループ会社を見て、私が基本的に国内本社を見ている形になっています。
ただ、これも厳密に線引きしているというわけではなく、本社としても国内外のグループ会社は常に意識していますし、またシェアードサービス的に各社を見るファンクションが本社の中にあって、これは私の責任下にあります。
また、グループCEOの堀場、グループCOOの齊藤も、グローバルでグループ会社を見ているからといって国内を無視するわけにもいきません。現状は、この3人が上手く絡み合って、経営が進められている状態です。お互い言いたいことを言える状態ですし、仲良くやっている方だと思います。
ガバナンスの特徴としては、買収などを繰り返していると、買収先の子会社、孫会社もあるので、そのまま放置しておくと命令系統が何層にも重なってしまい、組織運営の観点では非効率になります。ですから、この層を出来るだけ減らしていって、組織全体をフラットにするよう心掛けています。
かつてはワンカントリー・ワンカンパニーでしたが、今は経理、法務、人事などのオーバーヘッドファンクションについては、横ぐしを刺してひとまとめにし、その分だけ組織を軽くしています。また買収した先もそのプラットフォームに組み込み、かつそれでも個々の会社の特色が失われないように工夫しています。
このように、オペレーションをフラット化したことで、素早く話が上がってくるようになりました。ガバナンス的にはうまくいっていると思います。

 

3つのフィールドと5つのセグメント

 

末山  御社の経営の特徴として「バランス経営」があります。セグメントの好不調、お客様の経営環境の波、製品のタイミングなど、さまざまな観点から不調な部分を好調な部分が補うことで、全体としてパイを広げていく戦略であると認識しているのですが、バランス経営にもし短所があるとしたら、それは何なのか。あるとしたら、どういう対処法を考えていらっしゃるのか。その辺りを教えて下さい。

足立  バランス経営というか、マルチセグメント構造というのは、近視眼的な見方をすれば無駄が多いということになるのかと思いますが、長期的に見ればかなりロバストネス(堅牢)、つまり外的な環境が変化した時に、組織が悪い方向に変化してしまうことを阻止する内的な構造をつくり出していると思います。
私がこの会社に入社したのが1985年で、今までさまざまな産業分野において浮き沈みがありました。その時、仮に今、ここで大きく儲かっている分野があったとして、そこだけすればいいなんてことになったら、恐らく今の堀場製作所は無かったと思います。そういう意味で、マルチセグメントでグローバルであるというのは、かなりロバストネスな組織であると考えています。
その延長線上として今、「エネルギー・環境」、「バイオ・ヘルスケア」、「先端材料・半導体」という3つのフィールドを打ち出していますが、これらはいずれも人間が生きている限り、あるいは地球が存在している限り、絶対に無くならないフィールドだと確信しています。
今の中長期経営計画は来年度までなのですが、恐らく次の中長期経営計画でも、アップグレードすることはあると思いますが、基本的にはこの3つのフィールドを事業戦略に組み込んでいきますし、社内的なオペレーションとしては、5つのセグメントも継承していきたいと思います。

 

30年後に堀場製作所が測るもの

伊井  御社とお付き合いしていくなかで気付いたことなのですが、御社は人類が大きな困難に直面した時や、ワクワクするようなことがあった時にクローズアップされる傾向があると考えています。
たとえば、これは特に日本人にとっては悲しい出来事でしたが、東日本大震災で福島第一原発が事故を起こし、放射能が拡散した時、放射線量を測る時に必ず登場したのが、御社でした。
あるいは欧州でフォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの排気ガス不正発見には御社の計測器が使われましたし、小惑星探査機のはやぶさ2が持ち帰った、小惑星リュウグウの砂や石に何が含まれているのかを分析したのも、御社の分析・計測装置でした。
そこでお聞きしたいのですが、今から30年後、堀場製作所は何を測っているのでしょうか。

足立  今、おっしゃられた放射線モニターは、開発したのが今から数十年も前で、当時の文部省からの依頼で作ったものでした。何かというと、放射線は私たちの身の回りに、程度の差はあるものの、必ず存在するということを大勢の人たちに知ってもらうのが目的だと聞いています。だから、出荷台数も年間50台程度で、業績としてみれば若干の赤字が続いていました。
それでも私たちの技術ということで存続させ、その間に技術も洗練し、トラブル事由も把握できるようになります。
東日本大震災の時は、当時社長の堀場が「うちに在庫がたくさんあるのだから全部寄付しなさい」とおっしゃり、全て被災地に寄付したところ、「こんな製品があるんだ」と話題になりました。これにより、年間50台しか出なかった製品が、一時的ではありましたが、月4000台も出るようになりました。
最近、堀場がよく口にするのが、「ほんまもんを追い求めよう」ということです。ほんまもんと本物は違うと。では、ほんまもんって何ですか、ということですが、それは製品やサービスが人様に喜んでもらえる、感動してもらえる、人の心にタッチできる、そういうものがほんまもんであり、それを追い求めようということです。
将来、私たちが何を測るのかについては、3つのフィールドに対する答えをどんどん出していくことだと思いますし、もちろんそれ以外の新しい分野にも進出していくとは思いますが、大事なのは世のため、人のため、地球のためになるものを測り続けることでしょう。それを必死にやり続けることが出来れば、堀場製作所の価値を永遠に評価していただけるはずですし、社会にとって必要な企業であり続けられるのではないかと考えています。

伊井  最後の質問ですが、足立社長にとって長期投資家に対する期待のようなものがあれば、それをお聞かせいただけますでしょうか。

足立  私たちは近視眼的ではなく、常に世界の動向を見ながら、長期的な視野に立って経営判断を下しているつもりです。
たとえば新聞や雑誌などのメディアに流れている情報を見ると、「これ、本当なのかな?」と思ってしまうような情報が結構流れています。私たちはそのような情報で経営判断を下すことはありません。たとえば欧州において、グリーン水素やブルー水素がどうなっていくのかを、我々の足と目と耳を駆使して情報を集め、それを経営判断に結び付けます。長期的に、サスティナブルな企業体を目指してまいりますので、今後も応援をよろしくお願いいたします。

伊井・末山  ありがとうございました。

前編はこちらから


2022年6月16日に開催した「企業との対話」のアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

 

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