投信での資産づくりをメインにしつつ、株式投資のこともちゃんと理解したい人向けコラム

「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」


今回からROE(自己資本利益率)のお話をしたいと思います。

PERPBRはよく目にする指標で比較的なじみがありますが、正直言ってROEってなんだっけ?っていう方、結構、多いかもしれません。
でもどうして、最近になってROEという指標がマーケットでよく目にされるようになったのか?そこのところの背景を最初に少しだけお話しておきます。
2012年にアベノミクスがスタートしましたが、その中の経済政策において、2014年に「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~ 」(通称「伊藤レポート」)が公表され、企業の最低限達成すべきROEの目標値として8%が示されたことに始まります。
そして2015年には「コーポレートガバナンス・コード」として適用され、中長期的な企業価値の向上に資するための株主との対話に関する原則を示し、ROEがその対話における重要な指標として広く浸透したことが背景にあります。

さて本題です。
教科書には、「ROE(%)=当期純利益 ÷ 自己資本(純資産)×100」とあります。
数式から、ROE(自己資本利益率)は、自己資本(純資産)に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す指標だということがわかります。

では、ROEで何が分かるんだろう?です。
ここで復習です。前回前々回でPBRの説明をする際、自己資本は、資本金と資本剰余金に利益剰余金を加えたものですというお話をしました。
資本金と資本剰余金は株主が払い込んだお金で、その企業の事業活動の元手になります。
そして利益剰余金はその企業が利益を出して貯めたお金で、株主が払い込んだお金を元手に増やしていったものです。
株主のお金を上手に使って利益を生むということは、それだけ株主に利益を還元していることになります。
したがってROEは株主還元や株主収益性をみる指標といえますし、ROEが高ければ高いほど、株主還元や自己資本の活用が効率的ということがわかります。

では、ROEを使って実際に投資をするときに、何%を基準に判断するといいのでしょうか?
結論からいえばやっぱり8%を基準に、良い、悪いを判断したいと思います。

なぜ8%か。

冒頭にもお話をしたように、「コーポレートガバナンス・コード」が政府から示されたこともありますが、なによりも企業に良いお金(=資本)が入ってこないことは問題だと思うからです。
2014年に「伊藤レポート」が公表された当時、日本企業のROEは5.3%と、米国の22.6%欧州の15.0%からかなり低い水準にあり、このことが海外投資家からみて日本企業の評価が高まらない原因の一つとされました。
こんな状態を放っておくと将来的な企業の持続的成長は望めないし、国際競争力だってどんどん失われていくような危機的な状態だったんです。
やはり、企業は稼がなきゃいけないし、稼いだお金を株主に還元しなきゃいけない。稼げるからこそ、良いお金(=資本)が入ってくる。この当たり前のことができている水準が国際的にみてもROEの8%という水準と思われるからです。
2015年に「コーポレートガバナンス・コード」が政府から示されて以降、企業もROEの8%という目標に稼ぐ力を高めてきましたし、それにともなって海外投資家の日本企業に対する評価も上がり、お金(=資本)も入ってきました。結果として製造業全体で、2018年にはROEの10%を達成することができましたし、その後景気がスローダウンしても8%は維持する状態が続いています。やればできる。この水準が8%だと思います。

ではすべての日本の上場企業を8%を基準に判断すればいいのか?実はそれも難しいところです。
ROEもPERやPBRと同じように、業種別で収益構造が違うことから、それぞれの業種で水準が違うことに注意が必要です。過去5年間の平均でみると、ROEが高い業種は情報・通信業、空運業が12%、建設業11%、ゴム製品、精密機器、食料品、水産・農林業が10%です。
逆に低い業種は海運がマイナス、鉄鋼、鉱業が2%、パルプ・紙、金属製品、非鉄金属が4~5%、銀行業が5%です。
ROEを業種でみる場合、設備投資が多くいらない情報・通信業、建設業、食料品、水産・農林業などのROEは高い傾向にあり、逆に鉄鋼業や金属製品、非鉄金属、輸送用機器など、工場などの大きな設備投資が必要になるため低くなりがちです。
上記で挙げた空運や海運は市況に大きく左右された結果と思われますし、また、ROEが高い情報・通信業でも、今後は携帯電話料金の値下げや、5G投資が大きくなっていくことを考えれば、将来的にも高いROEの水準が続くと考えられないところです。

ではROEを使って、実際の投資をどう考えるか?です。トレーダーふっちー流の投資指標の見方としては、その企業の事業の持続性を見極めることが重要だと考えます。
先にROEが高い業種として精密機器、食料品を上げましたが、精密機器には海外でも高シェアを保ち競争力の高い医療機器を販売するメーカーがありますし、食料品は景気動向にもあまり左右されませんし、なおかつ高収益のブランドは海外展開も進んでいて利益率も高い商品を多くもっています。こういった業種は持続性の面からも、長期的な投資であれば安定したリターンを得ることが可能と思います。

一方で、一時的な売上げの増加で収益が急増したような企業への投資は注意が必要です。小売業やサービス業の中には、一時的にある商品がヒットして売上げが急増したものの、その後はその商品も飽きられて売れなくなった。なおかつ店舗拡大の新規投資や新規採用で人件費が膨らみその後の収益が悪化するということだってあります。最近は新型コロナウィルスの感染拡大の影響から「巣ごもり」でゲーム関連などが買われていますが、それが一時的なヒットである場合だってありえます。そういった投資は短期的にリターンを上げることはできても、長期的な投資でリターンを上げるには難しいものがありそうです。

そういったことからROEをみて投資をする際は、過去3年くらいの平均のROEを確認したうえで、その企業の持続性をみるというのが大切だと思います。
ROEって、なるほどそういった投資指標なんだ、ということはおわかりいただけたと思いますが、次回以降で、以前にお話をしたPERとPBRをからめてROEの見方を深めていきたいと思っています。

では。

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トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

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