ROEが高けりゃいいってもんじゃない。市場にそっぽを向かれないためにはPBRとPERの見方が大事。

投信での資産づくりをメインにしつつ、株式投資のこともちゃんと理解したい人向けコラム

「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」


前回、「ROE(%)=当期純利益 ÷ 自己資本(純資産)×100です。ROE(自己資本利益率)は、自己資本(純資産)に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す指標です」というお話をしました。そして「次回以降で、PERとPBRをからめてROEの見方を深めていきたい」としました。

前回のブログを書いている際に気になる記事がありました。12月18日付の日経新聞朝刊2面の「真相深層」にあった「バリュー株、市場そっぽ―ROEの低さに課題」という記事です。今年の春先から秋口まではコロナ渦でも成長が見込めるグロース株(成長株)が買われましたが、新型コロナワクチンの開発で経済の正常化が期待されるようになったことから、景気敏感株のバリュー株(割安株)が世界的に買われ、反発に転じました。しかし、日本株のバリュー株の反応は鈍く「我関せず」だったと。あるアナリストは「日本の低PBR株はクオリティーが低い銘柄の比率が高く、安くても買われない」と分析していました。
クオリティーとは企業の「質」のことをいいます。多くの機関投資家は、利益水準が高く、資本を上手に活用し、なおかつそれが長期的に安定しているという「質」の高さを投資先の企業に求めますが、それを見極めるのがROEです。
では先のアナリストが「日本の低PBR株はクオリティーが低い銘柄の比率が高く、安くても買われない」というのはどういうことなんでしょう。

ここでPBRとROEの関係を考えてみます。
株式運用の現場では、クオリティーを考慮したうえで株価の割高・割安を評価する場合、「PBR=PER×ROE」という関係をもとに考えていきます。

前回までにお話をした通り、
「PBR=時価総額÷自己資本(株価÷1株当たり純資産)」です。
「PER=時価総額÷純利益(株価÷1株当たり利益)」です。
「ROE=純利益÷自己資本」です。

計算式から、右辺のPERの純利益と、ROEの純利益は相殺できるので、時価総額÷自己資本になります。これはPBRの計算式と同じになります。つまり、ROEとPBRは正比例の関係にあり、その係数がPERということになります。縦軸にPBR、横軸にROEをとってグラフにすると下のようなグラフになりますが、PERはその傾きになります。

PBRが低くて、ROEが高ければ、将来的な高収益が期待できるわけですから、グラフの矢印で示したように、足下で株価は低くても、将来への期待が高まり、PERが上昇して株価も上がるだろうとするのが基本的な考え方です。投資判断をする際、どんな企業が割安に放置されているのか投資指標を使ってスクリーニングをしますが、そこに低PBRで高ROEの企業があれば、その企業は割安とみて積極的な投資対象として考えてみたいです。

では、先のファンドマネージャーが言ったPBRが低くて、ROEが低い場合はどうでしょう。将来的な収益が期待できないわけですからPERも上昇せず、株価は低いままに放置されることになります。PBRのお話をしたときに、PBRは1倍が基準ですというお話をしましたが、株価は一株当たりの自己資本(=解散価値)で下げ止まることが多いです。ということは、ROEが低ければ株価は上昇しないままPBRのほぼ1倍の水準に放置され、万年割安株になりかねないということになります。PBRが低ければ低いほど割安と判断するのには「罠」がある場合もあるので注意したいです。

では、PERとROEの関係はどうでしょう。
前回、「ROEをみて投資をする際は、その企業の持続性をみるというのが大切」というお話をしました。この持続性をROEとPERでみようということです。
ある年のROEが高ければその年の利益は大きいはずです(ROEは利益が増えるか、自己資本が減少すれば上がるので)。
ではその利益はどこへ行くんでしょう? 増配などで社外に出さなければ、次の年は利益剰余金として自己資本に入ります。ということは、次の年の自己資本は大きくなります。次の年も今年と同じ利益なら、ROEの分子の利益は変わらないのに分母の自己資本が大きくなり、次の年のROEは低くなってしまいます。したがって、高いROEを維持するためには、単年ではなく、次の年も、そしてその次の年も、一定の割合で利益を伸ばしていくことが必要になります。

ではその時にPERはどうなるでしょう。PERは、分子の株価が下がるか、分母の利益が増えれば低くなります。株価が下がってPERが低くなり、割安と思って買ったら、実は業績も芳しくなく、その年の決算は減益だったということはよくあります結果としてPERは低いまま、株価は下がったままでそのまま塩漬けになってしまうということが起きるのです。
利益が増えるときは、株価はそれに先行して上がることが多いため、結局はPERも高くなりがちです。高いPERで株価が維持されているということは、それだけ業績が好調だとみることができますし、結果として期待通りのいい投資成果が得られると思っています。

これまでに、ROEというクオリティーの面で投資を判断する際に、PBRとPERの見方についてお話しをしてきました。トレーダーふっちー流の投資指標の見方でいうなら、投資判断の際にクオリティーが高い企業を選ぼうとするなら、先ずはその企業の利益の継続性、持続性を見る。その上で、期間は最低でも3年、できれば5年くらいの中長期目線で見る。そしてPBRでみるならば高PBR、PERで見るならば高PERの企業を、それについても過去3年くらいの推移をみて選ぶことがより確かな投資成果を得られやすいということになると思います。そして、実際に投資をした際、株価の短期的なブレに対して過度に反応をすることなく、さらに時間軸をずらすことなく、その企業の業績動向をみながら株価とお付き合いするということが大切だと思っています。

第1回から今回の第9回まで、「投信での資産づくりをメインにしつつ、株式投資のこともちゃんと理解したい人向けコラム」として「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」をお話してきました。PER、PBRとROE。まだまだ他にも様々の投資指標がありますが、先ずはこの3つが使えるようになることが大切だと思っています。他の投資指標は、この3つの指標の補完するものも多くあり、さらに投資指標の見方を深めたいということであれば、さらにご自身で多くを学んで前に進んでいただきたいと思います。また、コモンズ30ファンド、ザ・2020ビジョンで投資している銘柄を投資指標の観点から眺めていただくのも面白いかもしれません。このコラムが、ファンドへの理解や投資への興味につながっていただけたらふっちーは大変嬉しいです。

では。

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トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

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