投信での資産づくりをメインにしつつ、株式投資のこともちゃんと理解したい人向けコラム

「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」


前回まではPERのお話でした。
今回からはPBR(ピービーアール:株価純資産倍率)の話をします。
教科書には、「PBR=株価÷1株当たりの純資産」とあります。
さて、この数値が実際の投資でどんな役に立つのか、そこのところをお話ししたいと思います。

ちょっと面倒くさい説明ですがとりあえずナナメ読みでもついてきてください。
貸借対照表といって、T字の左側に「資産」、右側に「負債」と「純資産」と書かれた表を見たことがあると思います。
この表はその企業の財政状態を表すもので、左側の「資産」は、その企業が事業活動をするために調達した資金をどのように使っているのかを表します。
右側の「負債」は、その資金をどのようにして調達したのか、銀行から借入れをしたのか、社債を発行したのか表します。その下にあるのが「純資産」で、細かく分けると株主が出資した「資本金」と「資本剰余金」、そして、その企業が稼いだ「利益剰余金」になります。この「純資産」は外ならぬ株主のものです。
「純資産」は「自己資本」とも言われますが、もし、その企業がいまの財政状態で解散した場合、全ての「資産」を売って、全ての「負債」を返済した後に残るのが「純資産(自己資本)」で、その「純資産」は株主が最終的に受け取ることができるお金になります。

貸借対照表全体でいうと、「PBR=時価総額(株価×総発行株式数)÷純資産(自己資本)」です。
1株当たりになおすと「PBR=株価÷1株当たりの純資産」です。
分母の1株当たりの純資産に対して、株価が何倍まで買われているのか、これを表すのが「PBR」になります。言い換えれば、企業の資産価値に対して、株価が何倍まで買われているか、を表しています。

ではこの指標が、実際の投資でどのように役に立つのか?
そこのところを見ていきましょう。
教科書では、PBRが低ければ割安、高ければ割高とされています。数値でいうと、PBRが1倍を下回ると割安、1倍を上回れば割高とされています。では、なぜ1倍が基準になるの?ですよね。

株主は企業の資産を間接的に保有していることになりますが、「PBR」は、株主がその資産を保有するために、いくらお金が必要なのかをみることができます。

ある企業のPBRが1倍を下回って0.8倍だったとします。これは、純資産を保有するのにその8割のお金で済むという状況です。2割も安くその企業の資産を買えるわけです。ということで、保有する資産と、それを保有するために必要なお金が同じになるのが1倍ですから、PBRは1倍を基準に割安、割高とみています。

では実際のマーケットではどうか。
再度、日経新聞朝刊のマーケット総合面の「市場体温計」のページの中の「投資指標」を見ます。
今回は、日経平均採用銘柄のPBRを見ていきます。
今年のマーケットは、2月以降に世界的な新型コロナの感染拡大で3月以降に急落しましたが、その後は各国政府と金融当局の緊急的な財政支援と超金融緩和でマーケットは春先から落ち着きを取り戻し株価も回復基調になりました。今月に入ってからは新型コロナのワクチン開発のニュースで足元の株価は急騰しています。

さて、PBRはどうなっているかというと、昨日(11月26日)の日経平均採用銘柄のPBRは1.20倍です。
では、今年3月の急落時のPBRは何倍だったのか?
3月19日が今年の日経平均の安値ですが、その時の日経平均のPBRは0.83倍でした。新型コロナの感染拡大防止で世界中の人やものの動きが止まる、経済が回らなくなる、「この先どうなんの・・・お先真っ暗だ!」と投資家が恐怖に脅えていたとき、なんと日経平均採用銘柄のPBRは1倍を下回って0.83倍と、超割安なところまで売られていたのです。
日本を代表するような企業が多く採用されている日経平均採用銘柄の全資産を約15%もディスカウントで買えたのです。
それがいまはどうなっているか?PBRは1.20倍ですから、資産の1.2倍のお金を出さないと買えなくなっています。超割安な水準から約4割強の値上がりです。

過去にも同じような状況がありました。
2008年11月に起きたリーマンショックで、世界中の投資家が、すべてのリスク商品は売りとばかりに投げ売り状態になりました。日経平均も同じで、それ以降、株価は急落し日経平均が安値をつけたのが翌年3月。
その時の日経平均のPBRは0.81倍でした。その後は世界的な各国の財政支援と金融緩和策もあってPBRは2010年4月に1.45倍まで拡大しています。

さらにもう一度。2011年3月に起きた東日本大震災で日本経済は再び閉塞状況に向かっていきました。
その後の日経平均の安値は2012年6月で、その時の日経平均のPBRは0.87倍でした。
その後に第2次安倍政権が発足し、アベノミクスがスタート。日銀黒田総裁のバズーカ砲で超金融緩和政策がとられ、日経平均は急上昇を始め2015年4月にPBRは1.55倍まで拡大しました。
今年も同じようなことが起きていますが、ここ10年ちょっとの間に3回も、日本経済を代表するような企業が、マーケットでディスカウントで売られる様な状況に陥りました。

この経験から学べることは、教科書が教える「PBRが1倍を下回ると割安」です。その企業の資産をディスカウントで買うことができる状況なんです。
企業は「負債」と「純資産(自己資本)」で調達した資金をもとに「資産」を使って利益を稼ぐ経済活動をしています。そして、そこで得られた利益はさらに増えて、「純資産(自己資本)」は増えていきます。その経済活動が毎年続くのならば、「純資産(自己資本)」は毎年増えていくはずです。PBRが1倍を下回った割安な水準で株式を買っておけば、純資産も増えるわけだし、いずれは1倍を超えるならば買った株式も値上がりが期待できるということになりそうです。
ということで、PBRは、株価が大きく下がった時など、「え~~~~ここまで売る?うっそ~~~!!!」と、下値の目途を計るのに大変重宝する指標としてトレーダーふっちーはPBRという指標をみています。

次回以降で、個別株式のPBRについてお話をしていきたいと思います。
でもPBRの1倍割れに怖~~~い話もあるんですよ。万年割安放置株とか・・・そんなところもお話していきたいと思います。
では。

前の記事 | 「トレーダーふっちー流」の投資指標の見方 | 次の記事

トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

最新情報をチェックしよう!