投信での資産づくりをメインにしつつ、株式投資のこともちゃんと理解したい人向けコラム

「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」


前回は、「今のPERが高くても5年先、10年先を見据えて投資をすれば、今は割高だといわれる株式も、将来的には十分な投資成果が得られるはず。PER100倍の株だって平気で買える」なんてことをお話ししましたが、その前提は「高成長が続く」ということです。

でも、20%や30%の高成長が3年とか5年とか、ましてや10年も続くということって実際にあるの?です。これだけ世界的に競争が激しい市場では、きわめて困難なことだと思います。

今、世界中の市場を席巻しているGAFA(ガーファ、以下の4社の頭文字をとってこの4社をそのように呼びます)。グーグルだって、アマゾンだって、フェイスブックだって、そしてアップルだって、一本調子で利益を伸ばし続けて今の巨人にたどり着いたわけじゃないはずです。ただ言えるのは、競合他社を寄せ付けない圧倒的なサービスや商品が顧客に愛され、そしてそれを提供し続けることができたことの結果なんだろうと思います。

<企業の成長サイクルとPER>

マーケティングの世界で「企業の成長サイクル」という概念があります。企業の成長にはライフサイクルという成長段階があって、ライフサイクルのそれぞれのタイミングで、それに適した事業計画を立てなければならないというものです。

大きく4つのサイクルに分けられますが、最初は起業間もない「幼年期」。次は事業がどんどん拡大して利益もどんどん積みあがっていく「成長期」。その次は業務改善や生産性向上で利益を伸ばしていく「成熟期」。そして最後は、成長が止まってしまい、これまでの事業の縮小や撤退を行ったり、新規事業を行ったりするなどの「衰退期」です。

 

株式市場でも、そのサイクルと合わせるようにして、その企業の評価が変わってくる傾向がありますし、またその評価についても投資指標の使い方も変わってきます

PERについてもそうで、「企業の成長サイクル」のなかで利益成長率が変わってくれば、それに応じてPERの標準的な水準は違ってきます

これまで、PERについては、日経平均とかTOPIXなど、の市場全体を表す指数のPERや、業種別のPERについてお話をしましたが、今回は上場後、まだ間もない新興企業市場のPERや、企業の時価総額でみた規模別のPERもみておきたいと思います。

 

<企業の時価総額でみた規模別のPER >

TOPIXの来期予想PERは先週末(2020/11/6時点)で25倍、新興市場の来期予想PERは58倍です。新興市場の中でも東証マザーズ734倍と想像を絶する倍率です。ではなぜ、こんなに高い倍率まで株価が買われているのか?その背景を考えてみたいと思います。

 

今、上場企業は現在の株式市場は新型コロナの感染拡大で企業収益はが未曽有の落ち込みとなっています。しかし、そんな中にあって、アフターコロナを見据えた新しいサービスや、DX(デジタルトランスフォーメーション)といわれる次世代を担う新しい商品やソフトウェアを開発する新興企業がここ数年の間に数多く新規上場してきました。その市場が東証マザーズJASDAQなどの新興市場なのですが、その新興市場にある企業が、先の「企業の成長サイクル」で、事業がどんどん拡大して利益もどんどん積みあがっていく「成長期」の企業群す。

開発した商品やサービスの認知度が高くなり、新規のお客さんもどんどんでき、さらにはその多くがリピーターとなったり、また新たなお客さんも紹介してもらったりなどで売上がどんどん伸びていく時期「成長期」ですが、この時期は売上が伸びれば伸びるほど(損益分岐点が下がるなどして)利益が上がります。また企業の売上もまだ大きくないので、その変化率も大きなものになります。それゆえに、こういった新興企業の株価の評価も、20%増とか30%増とか、さらには倍増などと、利益の伸び率に応じて高いPERで評価されるようになります。

ところが、ある時期を過ぎると従来のように売上が伸びない時期が訪れます。これまでに提供してきた商品やサービスが市場に行き渡り、しかもそこには競合他社の同じような商品やサービスが出てきて売上げの伸びも小さくなっていく。この時期が「成熟期」になりますが、この時期に、企業は競合他社との差別化や、新たな販売戦略で新規のお客さんを開拓したりするなどして、これまでになかったコストをかけながら売上を伸ばしていく時期に入っていきます。

こういった企業は、すでに新興市場から東証1部に移行していることが多いのですが、まだ時価総額での規模でいえばまだ小さく、東証1部の規模別でいえばTOPIX Mid400や、TOPIX Smallの部類に入ります。先週末(2020/11/6時点)のTOPIX Mid400のPERが33倍、TOPIX Smallが28倍と、新興市場のPERよりもかなり低くなる傾向があります。

ただ「成熟期」にありながら、その企業の商品やサービスの競争力が強く、さらに売上を伸ばしながら高い市場シェアを獲得して成長を続けていく企業も多くあります。企業の時価総額も1兆円を超えるような大企業でありながら、規模別でいえば東証1部のTOPIX Large70にこういった企業が多いのですが、新規事業も含めて既存の事業の安定性も評価されてPERも先週末(2020/11/6時点)で36倍と高く評価されています。

さらにTOPIX Core30という、時価総額が3兆円を超えるような超大型の企業がありますが、確固たる経営基盤の上に、数兆~数十兆円の売上げ規模を維持しながら、確固たる市場シェアを譲らない強い企業があります。ただ、売上げ規模がそれだけ数兆円と大きいだけにと、仮にその中の一部の事業での売上が伸びたとしても企業全体からすると、その変化率はさほど大きくはなりません。そういった理由から、超大型株で構成するTOPIX Core30の先週末(2020/11/6時点)のPERは17倍と市場平均よりも低くなりがちです。

こうやって見てくると、「企業の成長サイクル」という概念と、企業の規模とを照らしてみると、PERでの評価が変わるのを見て取れると思います。

 

<コモンズ30ファンドとザ・2020ビジョンの投資先企業のPERの傾向>

コモンズで運用するファンドはコモンズ30ファンドザ・2020ビジョンの2本があります。

コモンズ30ファンドは、「世界で成長し続けられる真のグローバル企業で、「質」の高い”強い”企業に集中投資する」という投資方針のもとに運用されていますが、時価総額も大きく、PERでいえば先ほどお話をしたように、高いPERで株価が評価されるような投資先は多くありません。こういった企業の場合は、むしろ資金効率を重視するPCFR(株価キャッシュフロー倍率)というようなキャッシュフローの安定性をみていったほうがいいのかもしれません。

 

もう一つのザ・2020ビジョンは、「変化しはじめた企業、変化にチャレンジする企業を中心に中長期の視点で厳選する」という投資方針のもとに運用されていますが、キーワードは「変化」です。投資先の企業は、時価総額でいえば大小さまざまで、上場する市場も、新興市場の東証マザーズから、東証1部のTOPIX Core30やTOPIX Large70に属する企業もあって、それぞれの成長のサイクルの中で「変化」にチャレンジする企業ばかりです。周りの企業と比べてその変化が大きいだけに高いPERで株価が評価されるような企業が多くあります。

<まとめ>

PERという投資指標を通してコモンズ30ファンドとザ・2020ビジョンを眺めてみると、それぞれどんなステージにある企業に投資しているのか見えてくるということに気づいていただければこれまで長々と企業の成長サイクルについてお話をした甲斐があります。

第2回から今回の第5回までPERについてトレーダーふっちー流にみてきましたが、こうやってみてくると、教科書的にいう「PERが高いから割高」、「PERが低いから割安」という見方が、少しは違って見えてきたのではないでしょうか。

では、次回からまた違った投資指標について、トレーダーふっちー流にお話をしたいと思います。

PBRでもやろうかな。ではまた。

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トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

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