投信での資産づくりをメインにしつつ、株式投資のこともちゃんと理解したい人向けコラム

「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」


第4回は個別銘柄のPERについてです。
前回の最後は、

「あなたはPER10倍の割安と思われる株と、PER100倍の超割高と思われる株、どっちを買いますか?トレーダーふっちーは、PER100倍の超割高の株のほうが好きだな~」

という前振りで終わりました。

そう、結論から言うと、PERが100倍でも買えるよ!という話を今回はしたいと思います。

その前におさらい。
何度も出てきますが、「PER=株価÷1株当たりの純利益」です。それはわかるんだけど・・・でも、それが実際に投資をするときに何の役に立つの?です。
(ここから、PERについて詳しく解説してきます。ちょっと難しいなあ~と感じても、そういうものなのね、程度の理解で問題ないです。読むのもつらい!って方は途中飛ばして最後の結論だけ読むでも、もちろん大丈夫です!)
◇◇◇
まず、純利益の説明をしておきます。純利益とは、1年の間に、その企業の本来の事業から得た営業利益と、事業以外で得た利息や配当、資産売却などの利益を加えた経常利益から、法人税などの税金を支払った後の最終的に残る「株主の利益」です。PERを考える場合、この純利益というものが、最も大切なものになります。
「PER=株価÷1株当たりの純利益」ですが、計算式を書き換えると「株価=1株当たりの純利益×PER」になります。
第2回で、標準的なPERは15倍くらいですとお話しをしましたが、いま、株価が1,500円で、株式の1株当たりの純利益が100円とすれば、PERは1,500円÷100円で15倍です。計算式を書き換えると1,500円=100円×15となりますが、この式の意味は、1,500円を投資した株式は、その企業が毎年100円の純利益を稼ぐとして、その株式を15年間持ち続ければ、最初に投資をした1,500円を、その企業の毎年の純利益で回収できる見込みがあるということになります。

こう説明すると、えっ?15年も持ち続けないといけないの?と思われるかもしれませんが、実際の投資となるとそうではないです。これはあくまでもPERの計算上の話で、実際の株価は投資環境の変化で上がったりも下がったりもします。最終的な純利益も為替の変動や市況の変動など様々な要因で増えたりも減ったりもします。ただ今の株価が、その企業の概ね何年先の利益をみているのか(もしくは、何年先の利益まで織り込んでいるのか)を市場と照らし合わせてみる場合、PERは将来を予測するのに興味深い指標だと思っています。

先ほどお話をした計算式ですが、1株当たりの100円の純利益が15年間、ずっと続くわけもありません。先の計算式の場合はその企業の利益成長率が0(ゼロ)の場合です。それ以上の利益成長率があれば、最初に投資をした1,500円はもっと早い時間で回収できるはずです。利益成長率が大きくなればなるほど回収できる時間は早くなるはずです。逆に、利益成長率がマイナスになって100円の純利益を稼ぐことができなくなったとすれば、回収するにはもっと長い時間がかかります。利益成長に変化があれば、投資を回収するまでの時間も当然変わってきます。

1回目のブログで、PERは「過去の1株純利益」を分母に使うのではなく、「将来の予想1株純利益」を使うことにあるとお話ししました。
株価は前年に実現した利益をもとに決まるのではなく、次の年はこれくらい、さらに次の年はこれくらいと、将来に予想される利益をもとに決まります。

話はちょっとそれますが、今年の夏、7月初めの日経新聞のスクランブルという欄に、「成長株、割高でも資金流入」「エムスリーなどに集中」という記事がありました。気になった記事だったので記憶に残っていたのですが、ここで紹介されたエムスリーはコモンズで運用するザ・2020ビジョンの主要銘柄の一つです。その時の株価はまだ4,000円台でしたが、今はさらに値上がりをして7,000円台の株価になっています。エムスリーは医療従事者向け情報サイトで製薬会社の情報提供を支援する会社ですが、海外向けも含めてそのサービスは年率で20%~30%の伸び率が予想されています。記事の中で、あるファンドマネージャーは「強いビジネスモデルを保ち、高成長が続く可能性が高い銘柄はPERを気にしていない」と言っていました。キーワードは「高成長が続く」ということだと思いました。

市場では通常、将来の利益は1年先、もしくは2年先くらいの利益をみています。それよりももっと先を予想したとしても、その予想から大きく外れる場合もあるのでリスクを抑えるためです。
では先のファンドマネージャーは、どれくらい先の将来を予想しているのでしょう。
5年先?いやもっと先の10年先?それくらい先の将来を予想しているとすれば、たとえPERが100倍を超えようとも投資できる、はず。そう思います。1年先、2年先じゃない、もっともっと先をみる長期投資は、見えない将来を「未来を信じる力」をもってみることに投資妙味があると思うわけです。

そんなこといわれてもね・・・と思われるかもしれませんが、実際に、将来に予想される利益の変化率が変わると、最初に投資したお金が何年で回収できるか数字で表すことができるのでみてみましょう。

で計算できます。EPSとは1株当たりの純利益のことです。
この計算式をもとに、100円の1株当たりの純利益が、10%、20%・・・の利益成長率だとして、1年後、2年後、3年後、10年後の1株当たりの純利益がいくらになっているかをみたのが下の表です。

これをもとに、最初に投資した1,000円が何年で回収できるかを計算したのが下の表です。

1株当たりの純利益が100円で10年間投資を続けたとすれば、1,000円を回収するのに10年かかります。1株当たりの利益成長率が10%だと約7年、20%だと約6年、30%だと5年、50%だと4年もかかりません。
そうなるとすれば、PERは何倍くらいが妥当なのか?
株価が1,000円で、1株当たりの純利益が100円で利益成長率が0(ゼロ)とする株式のPERが10倍だとすれば、3年後をみた場合、利益成長率が10%だと12倍、20%だと15倍、30%だと17倍になります。
では、さらに先の5年後をみる場合はどうか。利益成長率が10%だと13倍、20%だと18倍、30%だと24倍になります。さらにもっと先の10年後は、利益成長率が10%だと18倍、20%だと31倍、30%だと55倍です。利益成長率が50%だったら、なんと170倍です。

さきほどのファンドマネージャーはエムスリーに投資する際、「PERを気にしていない」と言っていましたが、そのマネージャーはきっと10年先くらいのエムスリーを想像しているかもしれません。だって40%を超えるような利益成長が続くとすれば、今のPERの100倍なんて気にならないわけですから。

トレーダーふっちーもそう思っています。
今のPERが高くても5年先、10年先を見据えて投資をすれば、今は割高だといわれる株式も、将来的には十分な投資成果が得られると信じています。
だからこそ、長期投資家は、PER100倍の株も平気で買える、というわけです。

*本記事は、特定銘柄の売買などの推奨、また価格などの 上昇や下落を示唆するものではありません。

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トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

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