投信での資産づくりをメインにしつつ、株式投資のこともちゃんと理解したい人向けコラム

「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」


前回の第2回では日経平均のPERについてお話をしました。
第3回は個別銘柄のPERについて、、と思いましたが、その前に業種別のPERもみておくことにします。

業種別のPERは、例えば小売業であれば、小売業に分類される企業全部を対象として、1株当たり利益の平均と時価総額加重平均株価から算出します。

東証1部の銘柄は33業種に分けられますが、業種ごとのPERはその業種の「利益成長率」や「リスクの大きさ」で異なってきます。

再度確認しましょう。
「PER=株価÷1株当たりの純利益」です。

その業種の「利益成長率」が大きいと予想されれば、その業種の株式も相対的に買われて株価も高くなりPERは高くなります。逆に利益成長率が小さいと予想されれば、その業種の株式を積極的に買う気にもなれず、株価も上がらずPERは低く抑えられがちです。

もう一つ、「リスクの大きさ」はどう見たらいいのでしょう?

会社が最終的に純利益を稼ぐまでには様々のリスクがあります。ものをつくる会社なら、原材料を仕入れて、それを加工して売るわけですが、原材料を安く仕入れて、ものが高く、たくさん売れれば利益は大きくなります。原材料が高くなったために高く仕入れたものの、思ったより売れなかったとか、売れ残ったとなれば純利益は小さくなります。
また、自動車や電機などの輸出企業は海外で売って外貨を稼ぎ、それを円に換えます。為替が円高になれば外貨を円に換えた場合、手取りの円が少なくなって、最終的な純利益は小さくなります。
このように商品市況の変動為替の変動によって最終的な純利益は増えたり減ったりします。

リスクの大きい業種の株式は積極的に買いたくないなと思えば、株価も上がらずPERは低くなりがちです。
つまり、PERの要素の一つである「純利益」には各業種ならではの固有の特徴があるということです。

このような理由から、単純に「PERが高い業種は割高」「PERが低い業種は割安」という判断はしない方がよさそうです。業種別の利益成長率やリスクの大小を考えたうえで割高なのか割安なのかを判断する必要がありそうです。

では、具体的にPERが高い業種はどんな業種なのか、また、PERが低い業種はどんな業種かをみてみましょう。

市場全体の標準的なPERを15倍とすると、それよりも高い業種は、食品、医薬品、電気機器、精密機器、小売などです。
食品業界は、景気の変動にあまり左右されず安定した収益が見込めるし、日本食などは海外でも利益成長が期待できます。医薬品業界も食品業界と同様に景気の変動にあまり左右されませんし、さらには新薬開発のためには大きなお金が必要で、そのために手元資金も豊富なことからリスクも大きくないとみられることで高いPERにつながっています。
電気機器や精密機器業界のPERも比較的に高いのですが、これは電気機器の中に国際的に競争力をもった電子部品メーカーが多くあり将来の利益成長が見込めるからです。また、精密機器も高品質な医療機器が海外で大きなシェアをもち、さらに新興国向けに大きく伸びていることで成長率も高く、高いPERになっています。
小売業界やサービス業界も、独自の新しいビジネスモデルで売上を伸ばしている企業が多いことから高いPERの企業が多くみられます。

一方、PERが低い業種はどんな業種かというと、輸送用機器(これは自動車のことですが)や、卸売(これは主に総合商社)ですが、そのほかに石油や鉱業などの市況関連の業種や銀行のPERは標準的なPERを15倍からすると低くなっています。

自動車業界は、国内では乗り換え年数が長くなり、さらにカーシェアリングなどの利用が増えたことで販売台数が伸び悩んでいることや、新興国でも自動車の普及が一巡したことで成長期待が低下したことに加え、為替変動によるリスクも大きいことから低いPERになっています。
卸売業、総合商社は、利益は出ているけれども手元資金や借入金が大きい割には利益率はそんなに高くない。また、石油や鉱業などの市況関連と同様にビジネスが多いことから商品市況に利益が左右されることや、海外での売上げ比率が大きいことで為替リスクも大きいことからPERも低くなりがちです。
銀行は、バブル崩壊以降で長期にわたる低金利が続いているために将来的な収益期待が低いことが低いPERの根拠となっています。

こうやって個別にみていくと、業種ごとに「PERの傾向」があるので、単純に「PERが高い業種は割高」「PERが低い業種は割安」という判断はしない方がいいと言った意味がわかっていただけたと思います。

PERが高いから割高と思って売る、逆にPERが低いから買うというような、単純にPERの水準だけを見て投資をしてはいけません。この業種は今後利益成長が高まりそうだから株価も上がってPERの水準が上がっていく、とか逆に、この業種は今後利益成長が伸び悩みそうだから株価が下がってPERの水準自体が切り下がっていく、というような見通しの方が大事とも言えます。

先の見通しまでわかるようになれば、もはやプロの領域ですが、大事なのは、なぜPERが高いのか、なぜ低いのか、その理由を考えること業界全体を俯瞰してみることができるようになるし、「なぜ」の視点で個々の企業をみることができるようになればPERという指標をうまく使えるようになると思います。

コモンズ30ファンドは投資先企業を公開しています。投資先企業のPERをみると、さまざまです。でも、それぞれの投資先企業が属する業種をみて、さらにその中身を調べてみると、その業界のなかでも優れた点がみえてくるはずですし、逆に、あまりよくない点もみえてくるに違いありません。

ただ、トレーダーふっちーは、投資指標だけが投資のための判断基準になるとは思っていません
投資指標は目に見える、足元の数字をもとに割り出した数値です。コモンズ30ファンドの運用は、長期目線で、なおかつ企業の対話をもとに見えない価値を見出していこうとするファンドです。投資指標の数値の意味を理解することは必要だけれども、大切なのは目先の数値に惑わされないことかな。

第3回は業種別のPERのお話をするだけで終わってしまいました。
次回こそは個別銘柄のPERについてお話をしたいと思います。

ちょこっと前振り。
あなたはPER10倍の割安と思われる株と、PER100倍の超割高と思われる株、どっちを買いますか?
トレーダーふっちーは、PER100倍の超割高の株のほうが好きだな~・・・そんなお話をしたいと思います。

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トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

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