小さきものが紡ぐ、しなやかな未来~「more trees トリエンナーレ2026」で見えた、森と建物の新しい物語~

2026年1月25日、和歌山県田辺市は雪が舞い、冷え込んでいました。
しかし、一般社団法人more treesが主催する「more treesトリエンナーレ2026」の会場は、全国から集まった人々の熱気で満ちていました。

テーマは「小さきものは何を変えるのか~森と建築の新しい未来~」。
パネリストの方々の熱い言葉、そして次世代へとつながる確かな希望。

会場で私が肌で感じたワクワク感を、皆さんにお伝えしたいと思います。

more trees TRIENNALE 2026 IN TANABE

■ 建築家 隈研吾氏が植えた「希望の苗」

シンポジウムの冒頭、一般社団法人more trees事務局長の水谷伸吉さんが、これまでの歩みを熱く語ってくれました。水谷さんは、「第2回コモンズ社会起業家フォーラム」の登壇者で、「第8回コモンズSEEDCap」の応援先(寄付先)としても、コモンズ投信とご縁の深い方です。

more treesは約20年前に音楽家 坂本龍一氏が、音楽活動の傍ら取り組んでいた様々な社会活動の一環として創設した、森づくりの団体です。故・坂本龍一氏が闘病生活の末に他界し、その後を継ぐ形で隈研吾氏が代表理事に就任されました。
現在、more treesは国内外27カ所で森づくりを展開しています。植林・育林活動、木材利用を促進するものづくり、森林由来のカーボン・オフセット、イベントやワークショップという4つの柱で活動を続けています。

シンポジウム当日の午前中、雪が舞うなか隈研吾氏が自ら、ウバメガシの苗木を植えられたそうです。ウバメガシは和歌山県の県木であり、田辺市の市木。そして、紀州備長炭の原木として地域の文化と産業を支えてきた木です。

坂本氏が生前、北海道に植えた白樺が大きく育ったように、坂本氏が遺した「都市と森をつなぐ」という願いの種が、水谷さんのような想いを持った人々の手で大切に育てられ、隈研吾氏へとしっかり手渡されている。このエピソードに、これから新しい物語が始まる息吹を感じました。

そして、コモンズ投信が取り組む長期的な視野で未来を育む「投資」の原点にも通じる思いがしました。

 

■ 隈研吾氏が語る「小さきものの力」

隈研吾氏が基調講演で語られた「小さきものの力」という言葉は、今でも私をワクワクさせています。

隈さん自身の転換点となったのが、バブル崩壊時に仕事がなくなったタイミングで、縁あって訪れた高知県梼原町(ゆすはらちょう)との出会いです。梼原町は、四国カルストや坂本龍馬脱藩の道で知られる町ですが、今では隈研吾建築が世界で最も集まる町としても知られています。

隈さんが設計した梼原町の「雲の上の図書館」は、こどもたちが裸足になって木の床のぬくもりを感じることができ、各々が気に入った場所に寝転んで本を読むこともできる。そして、図書館と向かい合う福祉施設では、梼原の木の皮を漉き込んだ和紙が多用され、あたたかく、まるで家にいるような福祉施設になっているそうです。

このエピソードから、小さなものが集まることで生まれるひとの温もりが、生き生きと伝わってきました。20世紀の大きくて排除的(エクスクルーシブ)な建築から、細い木材を組み合わせた、小さくて包摂的(インクルーシブ)な建築への転換。大きな力で自然をねじ伏せるのではなく、小さな木組みのように、しなやかに寄り添い合う社会。

それはまさに、私たちが思い描く「誰も取り残さない共生社会」の姿そのものではないでしょうか。

■ 林業のイメージを覆す自由な働き方

会場の空気をガラッと変え、大きな笑いと驚きをもたらしたのが、株式会社中川の中川雅也さんの講演でした。お話を聴いているだけで痛快な気持ちになりました。

「息子に、遊んでほしいと言われました。話しているうちに、3歳の息子に論破されてしまったんです。お父さんが3歳の息子に論破されると、お父さんを辞めるか、仕事を辞めるかの選択を迫られる。さすがに3歳の息子と1歳の娘がいる状態で、お父さんを辞めるわけにはいかない。必然的に辞めるのは仕事しかありませんでした。」

転職活動の最終面接で、「朝起きて子どもが遊んでほしいと言ったら、会社を休んでいいですか」と質問した中川さん。どの会社からも良い返事はもらえませんでした。
そして、「都会に行っても働きたい会社がないなら、作るしかない。そう思って林業の会社を作ることを決めました。」

中川さんが行っている造林事業のビジネスモデルのヒントは、なんと「となりのトトロ」だといいます。

「トトロは夜になったら猫バスと一緒にお酒を飲みに行き、翌日は夕方まで二日酔いで寝ている。メイちゃんが空から降ってきても目が覚めない。やっているのは、どんぐりを集めて山をつくること。」
「トトロがやっていることを経営学的に分析しよう。そう思ったのが、弊社のビジネスモデルの原点です。」

トトロのストーリーにヒントを得て、株式会社中川では、地域の子どもたちやお年寄りが拾ってきたどんぐりを苗木に育て、広葉樹植栽を行っています。また、ドローンを使用して荷物を運ぶなど作業方法を見直すことで、夏場には朝5時から働き、午前11時に仕事を終えるという、これまでの林業のイメージを覆す自由な働き方を実践しているそうです。

ここ田辺市の山で、持続可能な新しい価値が創造され、誰もが笑顔になり、地域も自然も豊かになる「ウェルビーイング」な循環が生まれている。まるでその光景が目の前に広がっているようで、私自身たまらなくワクワクしました。

働き改革で取り残さない雇用環境をつくる(中川さん)

■ 都市と地方が「ダブル」になる未来

最後のパネルディスカッションで、田辺市の真砂市長が語った「熊野のインクルーシブな精神」にハッとさせられました。

「実は熊野そのものが、もともとインクルーシブな地。誰も排除しない、全てのひとを受け入れる聖地であり、女人禁制もなく、身体に障がいのある方も詣でることができる。小栗判官伝説がまさにそれを象徴している。」

それは、隈さんが語った小さな建築のあり方や、中川さんが描く多様なひとが関わる林業と見事に重なり合っていました。

現在、国のモデル事業として7道県・58市町村で導入された「ふるさと住民登録制度」は、実際にその地域に住んでいなくても出身地や応援したい自治体に「第2の住民」として登録できる新しい仕組みです。都市に住みながら地方にも拠点を持つことで二地域居住のハードルを下げ、将来的な移住のきっかけになることも期待されています。政府は、モデル事業での検証を経て、2027年度末までに全国での制度開始を目指しています。

この制度を利用すれば、都市と地方で「友だちもダブル」になるかもしれません。都市と地方の境界線が溶け合い、人と人が豊かに関わり合う未来は、決して遠い夢物語ではないと確信しました。

左から水谷さん、隈さん、中川さん、真砂さん(田辺市長)

■ 小さきものから世界を変える

今回のシンポジウムの舞台となった田辺市は、世界的博物学者である南方熊楠が愛し、生涯を過ごした地でもあります。熊楠が夢中になって研究した粘菌もまた、森に生きる「小さきもの」の代表格でした。

熊楠がミクロの粘菌から壮大な自然のつながりを見出したように、この田辺の地で、一本の苗木から、あるいは一個のどんぐりから始まる変革の風を、私は登壇者の方々の力強い言葉から受け取りました。

気候変動や人口減少など、私たちの前に立ちはだかる社会課題は決して小さくありません。しかし、私たちひとりひとりの「小さきもの」の力や想いが集まれば、世界はきっとしなやかに、良い方向へと変えていけるはずです。

冷たい雪の記憶とは裏腹に、未来への確信のような、心に温かい火がぽっと灯った素敵な一日でした。

 

【参考】
一般社団法人more trees 事務局長 水谷伸吉さん
第8回コモンズSEEDCap応援先(第2回コモンズ社会起業家フォーラム登壇者)
社会起業家フォーラム動画:https://youtu.be/ZmIC6OTNMCA?si=csCkV-UjWSbUBVRd
一般社団法人more trees公式サイト:https://www.more-trees.org/