<10周年イベントレポート> -対談- 堀場製作所堀場厚氏 × コモンズ投信会長渋澤健

<トークセッション>
堀場厚氏(堀場製作所代表取締役会長兼グループCEO)
渋澤健(コモンズ投信取締役会長)
「一人ひとりの力を合わせてスーパードリームチームをつくる」

渋澤  企業を買収する時、数字に現れる価値と、現れない価値があるということですが、御社の価値で外から見えていない、理解されていないものとは何ですか

堀場様  ホリバリアンですね。日本の従業員は3000名なのですが、5つのマーケットで世界一のシェアの製品を供給しようとすると、開発、エンジニアリング、生産、営業、サービスにおいて、従業員1人あたりの生産性が高くないと、絶対にカバーできません
また自動車、半導体、医療用、工業用、研究開発など、堀場製作所が製品を供給している様々な分野において、それぞれ要求されることや言葉や価値観が違います。そのため、自動車なら自動車、半導体なら半導体という、それぞれの分野の言語でコミュニケーションを取らなければなりません
たとえば20数年前ですが、フランスの医療用関係の会社を買収しました。すると次の日、私はフランスの医療用関係企業のトップになるわけです。お医者さんのところに行った時、ちゃんとその業界の言葉で話をしないと、「トップのくせに何もしらない」と思われてしまい、製品を買ってもらえなくなる恐れがあります。
ただ、人間はひとつ柱をしっかり持つと、他の分野について話をする時も、その柱を応用して話が出来ます。だから、自分の柱をしっかり持つようにと、ホリバリアンには常に言っています。
そうして育ってきた人財(人材のざいはホリバでは財産の財といっています)の優秀さは、なかなか外部からは分かってもらえるような、分かってもらえないような部分だと思います。

コモンズ投信取締役会長 渋澤健

渋澤  私たちも、企業の見えない価値で最大のものは何かいうと、勤めている人なのではないかと思います。
堀場製作所の例では、堀場さんのお姿は見ますが、そこで働いている従業員一人ひとりの人物像はなかなか見えてきません。どの企業も「最大の財産は人です」と言うのですが、企業のバランスシート上に、人はどこにも載っていません。xxxxxz

堀場様  そこで働いている人の礼儀を見ると、分かります。従業員の礼儀がピシッとしている時は士気が上がっていますから、業績も良くなります。
ところが、会社の業績が良くなると慢心が出るのでしょう。徐々に礼儀が悪くなり、それが業績の悪化につながっていきます。M&Aをする時、相手先がどういう会社なのかを見るわけですが、設備やオフィスを見るのではなく、そこで働いている人が、どのような応対をしているのかを見るようにしています
まあ、海外企業の場合、日本のように礼儀云々という話はあまりしないのですが、職場の空気感にそのようなものが滲み出てきます。この“空気”を読むことが大事ですし、これからの時代は空気を読むというか、肌感覚のセンスが重要になってきます。
このことは経営だけにとどまらず、たとえばこの技術は本物かどうかを見分ける時にも有効です。そして、これは決して知識があるからどうにかなるというものでもありません。もちろん知識は必要ですが、それを使って何を新たに生み出すかが大事なのです。何かを生み出そうとする創造力、クリエイティビティを養う教育が行われていないところに、日本が弱体化する原因があると思います。現に堀場製作所でも、日本に比べてフランス、イギリス、ドイツの子会社の方が、新たなアイデアによる製品が生まれやすくなっています。日本人は、すでにあるものを改良したり、製品の質を高めたりすることには強いのですが、全く新しいアプローチになると途端に弱くなります。日本全体が地盤沈下しているのは、ここに最大の原因があり、それを悪化させないようにするためにも、京都における教育システムを変えていこうと考えています

渋澤  以前、御社に対話をお願いした時、ダイバーシティ担当の方が「ステンドグラスプロジェクト」のお話をされていて、感動した記憶があるのですが、もう一度、それを話していただけませんか。

堀場製作所代表取締役会長兼グループCEO 堀場厚氏

堀場様  ステンドグラスは、恐らく皆さん、教会の壁を飾っている、さまざまな彩を持った綺麗なガラスというイメージだと思います。ところが、ステンドグラスに顔を近づけてじっと見ると、意外と歪で、あまり磨かれていないことに気付くと思います。そういうものの集合体がステンドグラスなんですね。いろいろなガラスが組み合わされていて、どれかひとつが抜けると、おかしなステンドグラスになってしまう。これを堀場製作所の人財に当てはめて話すのです。一人ひとりのホリバリアンが大事であり、ダイバーシティなどさまざまな活動をするにあたって、一枚一枚のガラス、一人ひとりのホリバリアンが、ステンドグラスというチームの一員でさえあれば光ることができる、そういう組織にしたいと思います
また、スーパーマンやスーパーウーマンはいらないという話もしますね。社会はそれらを求めてしまいがちですが、皆がそうなるのはまず不可能です。でも会社の良いところは、何かひとつ良いものを持っていれば、一人ひとりが組み合わされることによって、スーパードリームチームが作れます。まさに多様性なのですが、堀場製作所は昔から海外の人たちと一緒に仕事をしてきたこともあり、肌に沁み込んでいます。

渋澤  堀場さんが創業者で御父上の堀場雅夫さんの後を継いで社長になられたのが、1992年でした。社長になった時の苦労話はありますか。

堀場様  社長になる2、3年前から2代目社長をサポートする専務として会社全体をみるようになっていたのですが、やはり社長とそれ以外は全然違います。
私が社長になった途端、減収減益になりました。で、3年目に偏頭痛になったのです。針に行っても整形外科に行っても全然治らない。どちらかというと私、楽天家だと思っていたのですが、社長になって3年も減収減益が続くと、知らずしらずのうちに精神的に追い込まれたのだなと思い、創業者だった自分の父に、「意外と僕デリケートやった。減収減益で偏頭痛になったみたいだし、これは何かせんとアカンかな」と言ったら、「だいたい物事を改革しようと思ったら、そんなもんや。目先の成績は落ちる。でも、信念があって続けられるなら、いつか結果が出るだろう」と言ってくれたのです。
ああ、そうかなと思って続けていたら、95年から上向き始めました。まあ、偏頭痛の原因は、実は精神的ストレスではなく、スキーで転び、軽いむち打ちのようになっていたからというのが真相だったのですが。

渋澤  事業を進めていくうえで、どういう点を重視していますか。

堀場様  経営者で一番大事なことは、自分の実力だけで事業が成り立つなどとは思わないことです。
誰も同じですが、人間は24時間365日しか時間がありません。もし私一人で仕事をしていたら、こんな業績は絶対に出せません。それでも会社はきちんと数字を出してくれます。
昨年買収した、フューエルコンというドイツの会社は、燃料電池の試験装置をドイツで開発し、ドイツ国内では8割のシェアを持っているのですが、私たちの傘下に入ってきてくれました。これによって今、最も脚光を浴びている技術を持った会社が、堀場製作所に入ってきてくれました。今から2年前、フューエルコンという会社の名前など、私は知らなかったのですが、フューエルコンはすでに堀場製作所を知っていて、自分たちが持っている技術を世界一にするためには、堀場製作所の傘下に入った方が良いという判断を下しました。
これ、絶対に私の実力ではありません。それでも彼らは来てくれました。持っていなかった技術を、M&Aによって手に入れられたのです。
なぜ、M&Aによって得た技術を日本に持ってこないかというと、企業体の裏にアカデミア、つまり大学があるからです。産学連携がきちんと出来ていて、かつワークしています。日本では一時期、アカデミアの独立という点で、企業と一緒に研究するのは良くないことだという風潮があり、結果的にアカデミアの力が失われていきました。
それに対して危機感を持っている大学も多く、そういうところと一緒に研究開発をしたり、中国の大学とも産学連携を行ったりしています。この動きは今後も続けていきたいですね。

渋澤 ありがとうございました。

対談終了後、こどもトラストセミナーに参加したこどもたちから
「しゃちょうさんへのてがみ」を受け取る堀場氏

-講演抄録- 株式会社堀場製作所 代表取締役会長兼グループCEO 堀場厚氏「惚れられることで組織の求心力を高める」

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