15年間投資し続けてわかる楽天グループの強み|楽天グループ株式会社との対話

(伊井) 2009年1月、コモンズ投信は「コモンズ30ファンド」の運用を開始しました。
当時、i-Phoneが世に出て半年くらいです。運用チームでは、運用開始時から「インターネット関連に投資するとしたらどの会社が良いか」を議論していました。
その時の1社が楽天グループです。投資するに際して、三木谷会長兼社長にお会いして話を伺ったところ、「うちはIFRSで財務を見て下さい」と言われました。その時、「ああ、この会社はこれから積極的にM&Aを行っていくのだな」と思いました。
また、当時、楽天グループはインターネット関連企業と注目を浴びていましたので、PERは100倍超というように高いバリュエーションが付いていました。高いバリュエーションで資金調達を行うのと同時に、三木谷さんが得意な金融業である楽天銀行や楽天証券といった、バリュエーションが低い金融ビジネスに積極的に投資していました。
高いバリュエーションで資金調達を行い、バリュエーションの低いビジネスに積極投資する。典型的なアービトラージです。そのビジネスモデルの特徴を理解した私たちは楽天グループへの投資を決めました。2009年10月のことです。
以来、15年間にわたって同社に投資し続けています。一般に、企業も人も調子がいい時期と悪い時期があります。10年以上にわたって絶好調などということはあり得ません。楽天グループも同様です。
楽天グループがモバイル事業に参入し、業績が極めて厳しい状況にある時、お客様から「楽天に投資していて大丈夫なのですか?」と度々聞かれました。
私の答えは、「大丈夫です。もう15年も前から投資していますから、このくらいのことではへこたれません」。
さて、日本におけるアマゾンプライムの会費が、他の国に比べてかなり安いことをご存じでしょうか。世界標準の値段に上げることはできないのは、楽天グループの存在があるからです。
同様に携帯電話の料金も、楽天モバイルの登場によって下がりました。このように楽天グループの存在が、私たちの生活に、とても良い影響をもたらしてくれているのです。
こうしたことを頭の片隅に置いていただきつつ、弊社シニアアナリストである上野武昭と、楽天グループIR部の方のトークセッションをお楽しみ下さい。


【トークセッション】
楽天グループ株式会社IR部ヴァイスジェネラルマネージャー  大野亜樹子氏
楽天グループ株式会社IR部ヴァイスマネージャー       松浦健太郎氏

聞き手:コモンズ投信株式会社運用部シニアアナリスト  上野武昭

「楽天主義」の浸透をはかる

上野  まず、御社のミッション&ビジョンから伺いたいと思います。ミッションとして「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」、そしてビジョンとして「グローバル イノベーション カンパニー」を掲げておられます。さらに大切にしている価値観として「楽天主義」ということですが、この楽天主義とはどういうものなのでしょうか。またミッション、ビジョンを社内に共有・浸透させるうえで、どのような工夫をしていらっしゃるのでしょうか。
松浦  楽天主義とは、楽天グループの在り方を明確にするのと共に、すべての従業員が理解・実行する価値観、行動指針のことです。楽天主義はブランドコンセプトと成功のコンセプトから成っていて、社員証にも書かれていますし、エレベーターの中や、廊下にもポスターが貼ってあります。常に社員の目に触れるよう工夫することで、自然と意識するようになっています。ブランドコンセプトは、「大義名分」、「品性高潔」、「用意周到」、「信念不抜」、「一致団結」の5点で、社内を見回しても大勢の社員が実際にそれを体現していると実感しています。たとえば過去に話題になった社内公用語を英語にするというのは、代表的な事例です。その目標は、TOEICの全社員平均点を800点にするというものでした。取り組みを始めた2012年当初の平均点は500点程だったのですが、2015年には800点を超えるまでになりました。まさに信念不抜です。
あとは「一致団結プロジェクト」と呼んでいる楽天モバイルの従業員紹介キャンペーンですが、誰よりもまず率先して行ったのが会長の三木谷です。それこそタクシーに乗れば運転手の方に、ゴルフに行けばキャディの方に、楽天モバイルを紹介していました。トップ自らが率先垂範で実践し、聖域を設けない。これこそ楽天主義がしっかりと浸透していく理由の一つのなのだと思います。

常にチャレンジする企業文化

上野  社内公用語を英語にすると発表した2010年当時、まだ御社は国内でのビジネスがメインでしたが、なぜ英語を社内公用語にしたのでしょうか。
松浦  2005年から米国企業を子会社化して米国のアフィリエイト市場に参入したり、2008年からは台湾での事業展開も行ったりしていたので、少しずつ海外に視野を向けていたのですが、やはり社内公用語を英語にしたからこそ、たとえば楽天モバイルのネットワーク開発も極めて短期間で実現できました。
特に技術開発という点において今、日本国内の理系人材は年々減少傾向をたどっており、そのなかで競争力を保つためには、海外人材に目を向ける必要があります。現在、インドをはじめ世界中から常時エンジニアを採用していますが、それを実現できるのも、社内公用語の英語化が鍵になっていると思います。日本は食事が美味しいし、治安も良く、物価も安いのですが、そうであるにも関わらず米国はじめ周辺国に人材が流れるのは、言語の問題が大きいと考えています。それが分かれば、やるべきことは一つで、それが社内公用語を英語にすることだったのです。
現在、楽天グループで働く従業員の22%が外国籍で、とりわけエンジニア含むテックコミュニティに限れば80%が外国籍です。
あとは、常にチャレンジする会社であることも、外国籍従業員からは魅力的に映るようです。すでに2兆円もの売上を持っていながら、赤字覚悟でモバイルビジネスに参入する企業は、海外でもそうないと思います。こうした果敢に挑戦する姿勢も、魅力的に捉えてもらっているようです。

やり遂げる力

上野  率直に伺います。三木谷会長はどのような方なのでしょうか。
大野  まず申し上げたいのは、楽天グループはマネジメントと従業員の距離が非常に近い、フラットな組織であることです。そのなかで会長の三木谷は、とても強いリーダーシップで組織を引っ張っています。まさに信念不抜で、やり遂げる力を持っています。
コロナ禍で、ワクチンプロジェクトを推進したのですが、その時も部門の垣根を超えて役職員が一致団結し、オフィスの4階を開放してワクチン接種会場にしました。
また最近だと、今年2月の決算発表の3日前に突然、AIのアバターを使って決算発表のプレゼンを行うことはできないか?と打診されたことがありました。AIの動画作成は初めての経験でしたが、最先端の技術を活用し、何とか仕上げて、無事、決算発表日にアバターを使ったプレゼンを行うことができました。
このように時折、非常に高い球が投げられてくるのですが、周囲を巻き込んで、一致団結のもと、ハードルの高いプロジェクトでも実現させていく力を持っていると思います。
松浦  三木谷の著書「成功の法則100ヶ条」にも書かれていますが、常に右脳と左脳でキャッチボールしている印象を受けます。左脳をフル回転させて各事業から報告される業績や経営指標データを把握し策を練る一方で、右脳を駆使してロゴやデザインなどクリエイティブについて考えている。
データを基に議論を交わした後に、大枠について概念図を描き共有するということもしばしばあり、楽天グループが今、どこの位置にいるのか、どのようなビジネスチャンスがあり、グループの成長余地がどのくらい見込まれるのかについて常に細かく思考が張り巡らされているのだと実感させられます。こうした思考から生まれてくる指示は、当然ながら一筋縄ではいかず高いハードルを乗り越えなければなりませんが、どれも的確・明確で、それがスピード感のある事業運営に繋がっていくのだと思っています。

常に学び続ける組織を目指す

上野  さまざまな国籍の社員がいて、かつ若い方も大勢いらっしゃいます。人材育成で大事にしていることは何ですか。
大野  常に学び続ける組織を目指しています。これは統合報告書にも記載されていますが、新入社員を対象にしたオンボーディングに始まり、ビジネス基礎、グレード・役割別、文化&言語など、さまざまな研修体制を敷いています。こうした研修が行われた後は、必ず参加者を対象にしてアンケートが取られ、フィードバックを行って常に改善をしていきます。
また毎週月曜日の朝8時から、社長とマネジメント、社員全員が集まった朝会が開催され、情報を共有するのと同時に、ベストプラクティスを発表しています。社内公用語の英語化についても、ハーバード大学のビジネスケースで取り上げられるなど注目が集まっていますので、引き続き力を入れてまいります。

上野  「グローバル イノベーション カンパニーとして 世界中の人々が夢を持って幸せに生きられる社会を創る」ことを価値創造プロセスに掲げています。これはどういうイメージですか。何かKPIはあるのでしょうか。
松浦  大きく2つの例が挙げられます。まずビジネス面では、メンバーシップバリューという指標を設け、私たちが提供しているエコシステムの上で、お客様や、楽天市場の出店者等のパートナーの方々が、どのくらいの規模の経済活動を行っているのかを計る指標です。
そしてもうひとつが、これは次年度の統合報告書にも組み込めたらと考えていますが、「オンライン関係人口」というデータを計測しています。これは各都道府県の定住人口1人あたりが、地域外の人たちと、どのくらいのつながりを持っているのかを算出する指標です。
楽天グループでは、楽天市場、楽天トラベル、楽天ふるさと納税など、さまざまなサービスを提供していますが、利用者はこれらのサービスを使うことによって、何らかの形で居住地とは異なる地域と関りを持つことになります。そのデータを用いることによって、地方の事業者の収入増など地域の稼ぐ力を強化し、地域創生の取り組みを活性化するための支援を行っていきます。

拡大する「楽天エコシステム」

上野  最後の質問です。楽天グループといえば楽天エコシステム(経済圏)などと言われていますが、こうした経済圏を構築しようと考えた経緯は何ですか。
松浦  もともと楽天市場というマーケットプレイスから立ち上がった会社ですが、当時から目的は世界一のインターネット・カンパニーになることでした。インターネットというインフラを活用すれば、リアル取引について回るさまざまなコストが排除でき、かつスケーラビリティに富むビジネスが展開できます。そして、こうしたインターネットの特性に当時、最も親和性の高かったのが、楽天市場というビジネスだったのです。
そして、2000年の上場からM&Aを積極的に行い、銀行や証券、ブックス、トラベル、カードへと事業領域を拡大して、マーケットプレイスから会員ビジネスに転換を図っていきました。
2001年からは各サービスの会員データベースを統合し、2006年には楽天エコシステム戦略を打ち出しています。
楽天エコシステムでは、会員データベースを重要なビジネス資産として、ネットとリアルのクロスユースを高めました。たとえば、今では当たり前になっていますが、リアル店舗で行った買い物を楽天カードで決済し、付与されたポイントを活用して、楽天市場など楽天グループのオンラインサービスを利用できるなど、リアルとネットを有機的につなげたのです。
インターネットというインフラの特性を最大限に活かし、人々のお役に立てるサービスを徹底的に考えた結果として出来上がったのが、楽天エコシステムとご理解いただけると幸いです。
上野  ありがとうございました。


統合レポートワークショップの様子

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