豊田合成株式会社は、「ザ・2020ビジョン」の投資先です。トヨタグループにおける非金属部門の中核を担っている企業で、「合成ゴム」や「合成樹脂」をベースに、さまざまな製品を提供しています。
2021年12月14日、トヨタ自動車は2030年までに、グローバルで30車種のBEVをリリースすることを発表しました。大変革期を迎える自動車業界で豊田合成が目指すポジションなどについて、豊田合成株式会社総合戦略本部副本部長経営企画部部長の大谷勝文さんと、経営企画部サスティナビリティ・IR室室長の橋村昌樹さんに伺いました。
伊井 先日、発表されたトヨタ自動車のBEV戦略に見られるように、内燃機関から完全な電動化に向けて、自動車業界が大きな変革期を迎えています。自動車にはさまざまな部品が用いられていますが、BEVをはじめとするEV化への流れの中で、各種部品や素材などがどのように変わっていくのか、注目度は今後ますます高まっていくでしょう。
豊田合成株式会社は、トヨタグループのなかで唯一、創業家である「豊田(とよだ)」家の名前をそのまま使っていらっしゃる、グループのなかでも伝統ある企業のひとつです。まずはその業務内容からお話し下さい。
大谷 1949年に、トヨタ自動車工業のゴム研究部門が独立し、「名古屋ゴム株式会社」として創業されました。1973年に豊田合成株式会社に改称されたのですが、これは日本の発明王と言われた豊田佐吉、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎のゆかりを大事にしようということで付けた社名です。トヨタグループの中で「豊田」を使っているのは当社だけです。
また豊田合成の「合成」は、合成ゴムやプラスティック、その他の材料を用いて新しいものを生み出すという意味です。「限りない創造 社会への奉仕」を社是として、ゴムや樹脂分野における独自のモノづくりを展開しています。
具体的には、自動車に搭載されているエアバッグなどのセーフティシステム製品、フューエルホースやブレーキホースなどの機能部品、ラジエータグリルやインストルメンタルパネル、コンソールボックスなどの内外装製品、そしてドア枠にはめるウェザストリップというように幅広く自動車関連のパーツを製造、供給しています。また新技術としては、高分子技術や青色LED分野で培った技術を用いて、FCEV(燃料電池車)向けの高圧水素タンク、除菌用の深紫外LED、電気と力で機能する次世代ゴムe-Rubberなども開発しています。
上野 近年、投資の世界ではESGが非常に注目を集めていて、多くの企業がそこへの対応を進めているわけですが、御社としてはどのような取り組みを行っているのですか?
橋村 まずE(環境)についてはCO2排出削減だけでなく、廃棄物削減、水リスクへの対応、自然共生活動など幅広い取り組みを行っています。国際的な環境非営利団体であるCDPが実施している企業調査において、「気候変動」と「水セキュリティ」の2分野で「A-」という高い評価を3年連続で獲得しています。
S(社会性)では人材育成や人材開発、多様な人材登用などに取り組んでいますが、なかでも健康経営には力を入れており、敷地内禁煙や社員食堂で野菜中心のメニュー作りを行ってもらったり、各部署において社員の肥満度などを測定してもらったりしています。
そしてG(ガバナンス)については、常に誠実な企業運営を目指すということに尽きます。当たり前のことを当たり前に出来る組織づくりを目指しています。
上野 CDPの企業調査は「A」が最高評価ですが、「A-」はそのひとつ下で、そもそもAが付く評価を獲得している企業はとても少ないと記憶しています。「A-」を3年連続、2分野で獲得しているという点で、環境配慮がもの凄く進んでいる企業だという印象を受けますし、加えてユニークなのが健康経営の推進ですね。
大谷 全社的な取り組みだけではなく、職場単位での健康づくりにも取り組んでおります。
上野 社員の健康維持はそのまま企業価値に直結するので大切なことだと思います。
橋村 ハンドボール部は先日、日本選手権で3回目の優勝を果たしました。私の所属する部門には、ハンドボール日本一の選手が在籍しておりますが、彼が健康経営を推進し、お昼休みなどにストレッチの指導をしてくれています。
大谷 ハンドボールについては近年活躍ぶりが目立っていますが、歴史は結構古く、1975年に部が設立されました。当初なかなか成績が芳しくなかったのですが、トップのマネジメントが変わってから成績が上がるようになりました。ですので、急に良くなったというよりも、地道な努力というベースの部分を長年にわたって培い、そこに新しいリーダーシップが加わることによって、昨今の成果につながっています。
これは弊社の事業にもあてはまります。エアバッグについても1970年代から研究開発が行われていたものの、当初はエアバッグを搭載する車が無く、採算に乗らなかったものの、時代の変化であらゆる車に搭載されるようになったことから、一気に事業の柱として成長してきました。今後も地道な研究開発の努力を続け、時代の流れの変化で花開くという流れを作りながら、事業を拡大したいと思います。
上野 2021年10月に「豊田合成レポート2021」という統合報告書を発行しました。2000年の「環境報告書」から数えて21年になりますが、特に昨年発行したものとの比較で今回、特に苦労した点、改善点、強調したいことはありますか。
大谷 今までは広報誌的な要素をメインにしてきたのですが、もう少し弊社の事業を多くの人に知ってもらいたいと考えて、今まで以上に幅広い部署の人たちに手伝ってもらいました。特に2022年は東京証券取引所が新市場区分を導入するので、それを前提にして内容の充実を図っています。なかでも環境については、菅前首相のカーボンニュートラル発言を踏まえ、環境面については目標値だけでなく、それを実現するための体制、取組事例など具体的な内容も盛り込んでいます。
上野 今回の統合報告書で、小山社長は「環境変化を成長の糧とし、スピード感をもって成長し続ける」とおっしゃっていますが、具体的にどういう組織にしていこうと考えているのでしょうか。
大谷 昨今、非常に大きな環境変化に直面しているのは事実です。たとえば小山が社長に就任した直後、新型コロナウイルスの感染拡大が進み、働き方もそうですが、世の中のさまざまなところで変容を余儀なくされました。まさに未曾有の状況です。
加えて自動車業界においても、百年に一度と言われるような大変革期に直面しています。こうしたなかで生き残っていくためには、スピーディーに打ち手を決め、社員が一丸となって仕事に取り組めるようにするのが経営者の役目であると、小山は考えています。
上野 小山社長は、トヨタグループでは珍しいプロパー経営者です。なぜトヨタ自動車から社長を迎えるのではなく、プロパーから社長を選んだのですか。
大谷 やはり自動車業界を取り巻く環境が大きく変化しているからです。そのなかで全社員が一丸となって邁進するためには、同じ釜の飯を食った仲間という意識が非常に大切です。慣れあうという意味ではなく、叱咤激励できる人間関係が重要であり、それによって大きな環境変化に対してスピーディーに対応できるということで、小山体制になったと思います。
上野 企業風土改革にも取り組んでいらっしゃいます。社員のモチベーションを向上させるうえで何を重視しているのですか。
大谷 制度としては、社員をサポートするものとして子育て支援などいくつかありますが、何よりも重視しているのがエンゲージメントです。そのひとつが、2021年で6年目の取組みになるのが、「役員宣言5箇条」です。これは役員が、1)私は、笑顔で挨拶します、2)私は、メンバーの話を最後まで聞きます、3)私は、メンバーからの良い情報には「ご苦労さま」、悪い情報には「ありがとう」と言います、4)私は、メンバーの挑戦を後押しし、責任を持ちます、5)私は、自分のことをもっともっと、知ってもらいます、という5つのことを宣言することによって、社員が役員と何でも話し合える企業風土を培っていくためのものです。
上野 御社は積極的に企業決算説明会や技術説明会、ESG説明会、社外取締役とのミーティングなど、さまざまな形で株式市場や投資家との対話を行っていますいが、こうした対外的なコミュニケーションだけでなく、対内的にもさまざまな取り組みを行っているということですね。
大谷 そうですね。対内的には先ほど申し上げた「役員宣言5箇条」で、社員と役員とのコミュニケーションを図っています。また、社員と社外取締役がコミュニケーションを図れるような場もつくっています。その場で事業の課題、状況などについて、社員と社外取締役の間で意見を交換できるようにしていますし、社外取締役に対しては、海外出張で現地視察なども行ってもらい、私たちをより深く理解していただけるようにしています。
上野 先ほどもお話に出てきましたが、今の自動車業界は百年に一度の変革期にあります。その中における御社の立ち位置について教えて下さい。最近はスタートアップ企業との協業にも積極的ですが、それによってどのようなことが得られていますか。
大谷 自動車関連技術の開発には、やはりある程度の時間を必要とします。これに対してスタートアップ企業はとにかくスピードが速い。アイデアが浮かんだら、まずやってみる。このカルチャーの違いから学べる部分は非常に大きいと思います。
伊井 DXの取組みについても教えて下さい。御社の場合、2020年度のDX人材育成が10名で、これを2025年には270名にするとしています。豊田合成としてはDX人材も含めて、どのような人材育成を考えているのですか。
大谷 DXについては、今までの仕事のやり方を根本から変えていく必要があります。それこそ組織、マネジメント体制も含めて変革し、そのレベルを引き上げていく必要があると考えています。DXを社内に浸透させるためのデジタル人材がまだ不十分なので、部門ごとにデジタルに関心の高い人材を募り、育成していくための取組みを始めたところです。
また人材の多様性という点においては、樹脂、ゴムに関連したメーカーですので、化学系、機械系の人材採用がメインでしたし、仕事の性質上、どうしても男性がメインにならざるを得なかったのですが、最近は女性の採用も増えていますし、内装関連の製品を開発するには照明の技術も必要なので、このような分野に強い人材を採用するなど、求める技術者の幅も広がってきています。
伊井 トヨタグループにはたくさんのグループ企業があります。そのなかで御社が最もイニシアチブを取れる分野は何ですか。
大谷 我々は樹脂・ゴムの専門メーカーです。歴史的にも、トヨタ自動車工業の中でゴムの研究を行っていた部門が独立したのが祖業ですから、樹脂・ゴムを使いこなして製品に落とし込める技術を持っているのが強みですし、そこを今後も徹底的に追及していきたいと思います。
伊井・上野 ありがとうございました。
2021年12月17日に開催したオンラインイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。