リモートワーク時代に社員の結びつきを強める ミッション・ビジョン・バリューの制定

「コモンズ30塾企業との対話」、今回は「ザ・2020ビジョン」の投資先企業である、株式会社鎌倉新書の代表取締役会長CEOである清水祐孝さんをお招きして、昨年制定したミッション・ビジョン・バリューの狙い、ESG企業としての在り方などを伺いました。


ミッション・ビジョン・バリューの浸透度

伊井  弊社が運用している「ザ・2020ビジョン」というファンドは、「2020年に日本は大きく変わる」というコンセプトのもと、そのリーダー的な企業に投資する目的で運用を開始しました。
なぜ2020年なのか、ということですが、実は2020年に東京は4人に1人が60歳になるくらい、世界で最も速いスピードで高齢化が進んでいく都市として認識されていました。

ただ、高齢化の加速は東京だけでなく、ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、ソウルなど、世界中で進んでいます。折しも2020年は「東京オリンピック・パラリンピック」の年だったわけですが、とりわけパラリンピックについては「共生社会」がテーマに掲げられていて、そこには障がい者と健常者の共生だけでなく、高齢者と現役世代の共生も含まれた概念であると考えています。

投資先である鎌倉新書は、社名を目にすると出版社か書店のイメージですが、仏具の業界向け書籍を出されていた出版社を出自とし、現在は供養に関わる情報提供や相続サービス、終活サービスなどを手掛けるポータルサイト運営会社となりました。まさに高齢社会における共生を事業化したような会社ということで、これからの社会に必須であるという想いから投資させていただいています。

では、ここから先の質問は、弊社のアナリストである原嶋亮介に進めてもらいます。

鎌倉新書HPトップページ

原嶋  ありがとうございます。まず御社が昨年、制定した「ミッション・ビジョン・バリュー」ですが、これは確か以前、企業理念として制定されていたものを「ミッション・ビジョン・バリュー」として再定義したものと記憶しています。なぜその変更を行ったのか、制定から1年が経過して、社内的にはどの程度浸透したのかといった点について教えていただけますか。

株式会社鎌倉新書代表取締役会長CEO  清水祐孝さま

清水  私たちの仕事は具体的な店舗があるわけではなく、ましてや工場や在庫もありません。だから、何よりも人を活性化させることが大事なのですが、事業に追われているうちに、大事なことだと頭で理解はしていても、どうしても二の次にしてしまう傾向がありました。

それに加えて昨今のコロナ禍において、日常業務についてはフルリモートに近い状態になりました。そうなった時、社員の結びつきを何によって担保すれば良いのかを考慮した末に、従来の企業理念を見直して、これからの時代に合ったものを作り上げようということになり、新しく制定しました。

ただ、ミッション・ビジョン・バリューを考えて言語化するのは、それほど困難を伴うものではないのですが、大変なのはそれを全社的にどうやって浸透させるかです。ここは本当に苦労しましたし、今も苦労している最中です。

伊井  具体的に、どのような方法で全社的な浸透を図っているのですか。

清水  これは本当に地道な努力を続けるしかないですね。毎朝行う会議で唱和してみたり、ミッション・ビジョン・バリューに即して行動できた社員を皆の前で称えたり、とにかくこうすれば良いという決定的なことは何もありませんから、愚直に手数を増やして、少しずつ浸透させる努力を行っています。

ですから、今も社内に浸透させている途上ですし、恐らく終わりはないのだと思います。

ただ、こういうことは得てして忘れられがちですし、いつか私もこの会社を去ることになるわけですが、私がいなくなって時間が経った時、この会社の創業時の想いがすべて遠くに忘れ去られて、たとえば単なる儲け主義の会社になっていたりしたら、やはり悲しいと思うのです。だから、今のうちにしっかりとミッション・ビジョン・バリューを浸透させたいと考えています。

収益が上がりにくい事業でも手掛ける本当の理由とは

原嶋  以前、清水会長は、自分にとって大事な任務は採用とIRだとおっしゃっていました。実際、採用面接には清水会長も立ち会われるとのことですが、採用にあたってどういう点に注意されるのですか。

清水  たとえばエンジニアの採用に際して、私自身はエンジニアのスキルやノウハウを正しく評価できるだけの知識は持ち合わせていないので、ある程度、エンジニアを束ねている責任者の面接を通った人に会うので、その段階でスキルやノウハウについては一定基準を満たしているという前提になります。したがって、私が面接で見るのは人柄の部分が非常に大きくなります。

とはいえ、採用面接の場とは私たちが一方的に選ぶものではなく、面接に来てくれた人たちもいくつか内定を持っているなかで、弊社を選ぶかどうするかを判断する、そういう場です。ですから、もちろん私たちが選ぶ部分もあるのですが、同時に私たちにジョインしていただき、あなたが持っている能力を存分に生かしながら、会社の成長に寄与して欲しいなどと、何とか弊社に入ってもらえるように口説いたりもします。

前出のミッション・ビジョン・バリューについては、実際にお会いした時に私の口で、それを制定した想いなどについてお話させていただいております。

原嶋  御社の事業モデルを考えるにあたって、お客様にとってコンタクトを取る窓口になるコールセンターは非常に重要な位置づけになると思いますが、何かこだわりのようなものはありますか。

清水  通販会社のコールセンターとはかなりカラーが違います。モノを買うだけの通信販売であれば、すでにお客様は買うものを決めているので、電話でその注文を受け付けるだけで済みますが、弊社の場合、お客様が電話をするのは、自分のなかで消化できていない、何かモヤモヤしたものを抱えていて、それを解決するのが目的だったりします。当然、課題はお客様によって違いますし、最初にお客様がおっしゃっていたことと、ゴールが全く違ったものになることもざらです。

ですから、何よりも大事なのはお客様にどれだけ寄り添えるか、ということですね。この点についてはコールセンターの担当者とも常に考え方を共有するようにしています。

ただ、私たちは民間企業ですから、お客様のご要望を無限にお引き受けすることは出来ません。その一方で、やはりお客様に満足感を得ていただくことも追及しなければなりませんから、両者のバランスをどこで取るかが、事業を継続させていくうえで大切です。

現実問題として、お客様からいただくお話の中には、収益になりにくいものもあります。私たちは葬祭、お墓、仏壇、相続、介護など、ありとあらゆる終活のサポートをするインフラ事業を目指していますが、インフラになるためには儲かる事業だけをやれば良いというものではないと思います。

 

たとえば鉄道会社は、線路を敷いて鉄道を走らせるだけでなく、住宅地や公園、百貨店などの流通施設、エンターテインメントなど、人々の暮らしに必要なあらゆる事業を展開して初めてインフラとして認められています。

それと同じで、収益化しにくい事業であっても、それが人々の終活に必要であれば、私たちはそれを事業にします。そのうえで事業を継続させるためにも、収益化できるところではしっかり利益を確保することに努めています

企業は人材を育成するための器

伊井  新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化して1年半、間もなく2年になろうとしています。人との接触が制限されるなか、お葬式の形も大きく変わりました。そのなかで、御社はここをこう変えた、あるいはここだけは変えなかったなど、緊急事態下における対応力について教えていただけますか。

清水  正直なところ、試行錯誤を繰り返しているのが現状です。新型コロナウイルスの影響で友人・知人を集めたお葬式が出来なくなり、家族葬が中心になりました。もちろん大勢の人を集めたお葬式が良いなどと言うつもりはありませんが、実はお葬式に人を呼ぶことには意味があります。

亡くなった本人からすれば、自分のお葬式に大勢の人が集まることも、友人の誰かが弔辞を読み上げることも、預かり知らぬことです。では、なぜお葬式を挙げるのかというと、参加する人たちが人の死を見て自分のこの先の人生を考えるきっかけになるからです。なかには誓いを立てる方もいらっしゃるでしょう。

確かに時節柄、人が大勢集まるのは難しい局面ではありますが、お葬式が持つ意味をしっかり伝えられるようにしたいと思います。そこをなかなか伝えられないところに、ある種もどかしさを感じるのも事実です。

 

原嶋  コロナ禍の対応のひとつとして、コールセンターの在宅化を進めていらっしゃいました。働き方の多様化が世間で言われるなか、リモートワークは今後も進めていかれるのですか。

清水  現在は原則としてフルリモートになっているのですが、これはあくまでもコロナ対応です。とはいえ、コロナ禍の問題が解決に向かったとしても、新しい働き方として週2回のリモートワークは維持していく予定です。

正直、家で出来る仕事をわざわざ満員電車に揺られて出社してやる必要はどこにもありません。

ただ、そうは言っても仕事を進めるうえで、人と人が顔を合わせて、リアルなコミュニケーションを図るところから生まれるものもあります。ですから、フルリモートにすることはありませんが、かといって毎日出社にするつもりもなく、ちょうど良い落し処を今後も探っていくことになるでしょう。

伊井  御社のミッション・ビジョン・バリューを拝読すると、まさにESGそのものという印象を受けるのですが、会長のESGに対する考えをお聞かせください。

清水  企業は人材を成長させるための器だと考えています。したがって、その器のなかで社員が皆、成長していくことが大事であり、それをもって社会に貢献していくことが、企業の目的であると考えています。

確かにESGは話題ですが、だからといって組織の枠組みをそこに無理やり押し込むのではなく、自然体でそうなっているという流れに持っていくことが大事だと考えます。

たとえばE(環境)を満たすためにコピー用紙の裏側も使うとか、S(社会的公正)のために女性管理職の枠を無理やり増やす、あるいはG(ガバナンス)のために形だけの社外取締役を設置するなど、外面を整えるだけのESGでは意味がありません。

事業をサスティナブルなものにするために必要だからこそ、女性管理職を登用し、社外取締役を設置する。地球環境にも配慮する。それを全社員が無意識のうちに自然体で出来るようになって初めてESGが成り立つし、そういう器のなかで働くことによって、社員一人一人が成長し、社会に貢献していく。そういう循環を作っていきたいと思います。

伊井・原嶋  ありがとうございました。


2021年9月15日に開催したオンラインイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

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