「長年ESGに取り組んできた堀場製作所が考える ガバナンスと多様性の在り方」

コモンズ投信が「コモンズ30ファンド」を立ち上げた2009年1月。
その年の6月から投資を始め、今も保有し続けている会社のひとつが、株式会社堀場製作所です。

「おもしろおかしく」を社是にした同社が、最近話題になっているESGに対してどのような取り組みを行っているのかなどを、IRの現場で見ている経営企画室経営企画・IRチームのチームリーダー、鈴木美波子に伺いました。


運用当初から投資している会社

伊井  「コモンズ30塾企業との対話~統合レポートを読み解く」、今回は株式会社堀場製作所から経営企画室経営企画・IRチームの鈴木美波子様にご参加いただき、対話を進めてまいりたいと思います。

コモンズ投信が堀場製作所に投資させていただいたのは2009年6月からで、それ以来、13年にわたって保有し、時々、買い増しも行わせてもらっています。この間、堀場製作所の成長と共に、コモンズ投信も成長させてもらいました。

投資を始める時、堀場会長にお会いしたのですが、ベンチャー精神の固まりのような方で、これからどんどん会社を成長させていこうという、とても熱いパッションが感じられ、カッコいい経営者だと思ったことを覚えています。

今回、取り上げさせてもらう統合レポートにもありますように、コーポレート・ガバナンスについては「情報開示を適切に行うほか、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、オーナー(株主)との建設的な対話を積極的に進めます」ということですので、私どものファンドに資金を出して下さっている受益者の皆さまを代表し、これからも堀場製作所とは対話を続けながら、より良い関係を築き、さらに企業価値の向上に少しでもお役に立てればと考えております。

さて、ここから先は弊社運用部シニア・アナリストの末山仁から、堀場製作所にいくつか質問をさせていただきたいと思います。

3人の役割分担

末山  コモンズ投信運用部シニア・アナリストの末山です。今回の統合レポートを見てひとつ驚いたのが、事業概要の部分で、クローズアップのコーナーで半導体が取り上げられ、事業概要でもトップが半導体でした。堀場製作所というと、自動車のエンジン排ガス測定装置というイメージがあるので、常に事業紹介のトップは自動車セグメントだったと思うのですが、今回、半導体セグメントをトップに持ってきたのは、何か理由があるのでしょうか。

鈴木美波子さま

鈴木  会長の堀場をはじめとする経営トップの判断によるところが大きいですね。半導体セグメントの社員たちは比較的奥ゆかしい方が多いので、自分からトップページに載せてくれなどとは言ってこないのですが、経営トップは半導体セグメントが本当に厳しい時期を経て、今、花咲くという経緯を見てきていますから、彼らのモチベーションを引き上げるという意味もあり、今回の統合レポートでは冒頭で半導体セグメントの事業説明を行う形にしました。

末山  御社の場合、堀場厚代表取締役会長兼グループCEOと齊藤壽一代表取締役副会長兼グループCOO、足立正之代表取締役社長の3名が代表権を持っていらっしゃいます。半導体セグメントを軌道に乗せたのは、齊藤副会長と認識していますが、今回の統合レポートで半導体セグメントをクローズアップするというのは、この三人のうち誰から言い出されたのですか。

鈴木  社長の足立です。半導体セグメントを冒頭に持ってきたらどうか、堀場会長と齊藤副会長に聞いてごらんと言われました。二人に確認したところ、堀場が「足立社長が言うならそうしてみたら」と言いまして、今回の仕様になったという経緯です。

末山  何となくですが、御社の意思決定の流れが垣間見られたような気がします。

鈴木  そうですね。機関投資家向けのIR面談などでも、「代表権を持っている、この3人のバランスはどうなっているのか」、「棲み分けはどうなっているのか」というご質問を受けることが多いのですが、現状では堀場が会社全体の精神的な支柱になっていて、それを齊藤が番頭として支え、現場で旗を振るのが足立という役回りかと思います。

現体制がスタートしたのは2018年1月からですが、それ以前からもずっとこの3人が経営の中核だったので、3人体制になって何か大きく変わったかというと、それはほとんどありません。細部は変わったのかも知れませんが、社内の雰囲気はほとんど同じです。

SRI銘柄からESG銘柄へ

末山  ESGという言葉が2、3年くらい前から株式市場で話題に上るようになり、2020年10月、当時の菅政権が2050年のカーボンニュートラル実現を宣言したことから一気にESGに対する関心が高まったと思うのですが、ESGの取り組みで御社が最もアピールしたいのは、どういうことですか。

鈴木  弊社がESG銘柄と言われて随分経ちます。自動車のエンジン排ガス測定装置や大気汚染監視用分析装置、水質計測装置などを製造しているため、環境関連銘柄という位置づけでした。

かつてSRI(社会責任投資)という言葉があって、それが今でいうESGにつながってきたのですが、弊社はSRIという言葉が世に出てきた2000年初頭から、SRI銘柄という位置づけで認知されてきたと思います。ですから、SRIに代わってESGという言葉が世の中の主流になったからといって、何か体制を大きく変えるというわけでもなく、今までどおり社として取り組んできたことを続けていくだけです。

ただ、ひとつだけ新たな取り組みを挙げるとしたら、「Code of Ethics」を制定したことでしょうか。これは既存の倫理綱領をベースにして、グローバル企業として取り組むべきことを取り上げているもので、たとえばトップマネジメント主導による「良き企業市民」としての行動規範であるとか、コンプライアンスの徹底、あるいはすべての人々の人権の尊重といったことが明記されています。従来、弊社が掲げていた倫理綱領は日本語であり、海外では英語や各国語に訳して用いていたのですが、「Code of Ethics」はもともとが英語で作成されており、日本語版はローカルの位置づけになっています。つまりご本尊はあくまでも英語版なのですね。これは外国人従業員比率が高い弊社ならではの、ESGへの取り組みのひとつであると認識しています。

末山  将来的には英語を社内公用語にする方向で進んでいらっしゃるのですか。

鈴木  すでにそうなっていると思います。弊社は年2回、海外拠点の幹部が集まってミーティングを行います。6月のストラテジーミーティングで経営の方向性を確認し、12月のバジェットミーティングで来年度の予算を話し合うという内容なのですが、いずれも3日間、すべて英語で行われています。もちろん、日本の発表者も英語で話しますし、フランスや中国などからの参加者もすべて英語でコミュニケーションを取ります。

これは最近そうなったという話ではなく、もう大分昔からそうだと聞いております。ですから、社内公用語が英語というのは暗黙の了解ですし、グローバルなIR活動を行う時も、弊社の経営トップは皆、英語で投資家に対する説明を行っています。

末山  そうなると採用する際には語学力をかなり重視されるのですか。

鈴木  これは社内の共通認識でもあるのですが、英語は単なるツールであって、大事なのは何を話すか、つまり中身であると考えています。英語を上手に話せるというだけではダメで、やはり中身が伴ったことをちゃんと英語で話せることが大事だと思います。

左上から時計回りに鈴木さま、伊井、末山、後藤さま

新卒で入ってきて「これから頑張って英語をマスターします」という社員もしますし、いきなり海外駐在に出されて、努力して話せるようになったという社員もいます。ですから入社試験の段階で、英語だけで足切りをすることはありません。

これから追求するガバナンスと多様性の在り方

末山  この1年半、新型コロナウイルスの感染拡大によって多くの企業が厳しい状況に直面しました。こういう危機的な状況だからこそ御社の際立った強さを再認識したこと、あるいは課題などはありましたか。

鈴木  今回のコロナ禍では在宅勤務を取り入れたり、ZOOMのようなオンラインコミュニケーションツールを導入したりした企業が多数ありましたが、実は弊社の場合、2019年に在宅勤務制度を大幅に見直しており、その際に社員間のコミュニケーションをスムーズに行うため、各種コミュニケーションツールも導入していました。そこは、どのような時でも先手を打って、柔軟に対応する弊社の強さを再認識しました。

とはいえ、弊社は社員が皆、寄り集まるのが好きなので、在宅勤務が出来る体制は整えていましたが、コロナ禍前は制度はあまり使われず、出社する社員が多かったのは事実です。

困ったことと言えば、弊社は日本一呑み会が多い会社と言われているのですが、このコロナ禍でそれが出来なくなったことですね。経営トップや管理職が、従業員との意思疎通が図りにくくなったと、真剣に悩んでいました。

伊井  私からもいくつか質問させて下さい。御社のようにグローバル展開をしていて、従業員の7割が外国人という状況になると、そもそも多様性が日常的に存在しているでしょうし、ガバナンスについても諸外国と同水準のものを実現する努力をされていると思います。社外取締役を入れたのも1953年からなので、非常に先進的な考え方を持った会社であると認識していますが、ガバナンスや多様性でこれから先、ここをもう少し推し進めたいということはありますか。

鈴木  多様性は弊社の持ち味のひとつですし、ガバナンスについてもここから先、何か新たに大きく推し進めることはほとんどないように思えるのですが、ひとつあるとしたら取締役クラスに外国人をどれだけ登用できるかということです。

ただ、女性の役員にしても外国人の役員にしても、恐らくは属性というよりも本人のスキルや能力、知見によって登用されるかどうかが決まるので、それをクリアできる人材をどれだけ育てられるかにかかっていると思います。

正直、女性として働いていて、この会社にガラスの天井があることを実感したことは、一度もありません。それは研究開発や事業系のセクションに部長クラスの女性が結構多いことからも、そうだと認識しています。

伊井  コモンズ投信が学生向けにセミナーを行う時、学生に対してよく言うのは、就職活動をする際には統合レポートなどに目を通しましょうということです。恐らく学生のなかにも、統合レポートなどIR関連の資料に関心を持っている人はいると思いますが、実際に作成されていて、学生が読むことも意識されたりしますか。

鈴木  基本的にIRの一環として制作していますので、幅広くステークホルダー全体を意識しながらも、やはり一番の対象は投資家の方々です。

そこがコンテンツを制作するうえでの軸になるのですが、就職活動をする学生の皆さんも、この会社に自分の人生を投じても良いのかどうかを判断しているわけですから、その意味においては長期目線の投資家に近い存在ですし、弊社と長いお取引をして下さるお取引先も、同じです。

「HORIBA REPORT2020-2021」 (画像をクリックするとレポートに飛びます)

つまり投資家の目線は、さまざまなステークホルダーが会社を見る時の視点と同じなのです、ということを、この統合レポートを通じて、一人でも多くの方にお伝えできればと思います。

伊井  ありがとうございました。


2021年9月10日に開催したオンラインイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

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