「命を支えるプラットフォーマーとして地球に無くてはならない存在を目指す」

2020年に創業130周年を迎えた株式会社クボタ
2020年1月に社長に就任した北尾裕一社長のもと、新しい長期ビジョンを掲げて、新時代に向けた第一歩を踏み出しました。その中で掲げられた「命を支えるプラットフォーマー」が持つ意味は何なのか。

2030年に向けてクボタが目指す地平はどこなのかなどについて、総務部 株式課 課長 中俊尚さまと経営企画部 IR課 課長 中林輝彦さまにお話しを伺いました。


130年前のコレラ大流行を食い止めたクボタ

伊井  今回は、株式会社クボタから総務部株式課の中俊尚課長、経営企画部 IR課 中林輝彦課長にお越しいただき、弊社運用部シニア・アナリストの上野武昭からクボタの長期的な経営戦略、SDGsへの取り組みなどについて質問させていただきます。

その前に私から、株式会社クボタとコモンズ投信の関わりについて、簡単にご紹介したいと思います。

弊社がクボタに投資したのは、「コモンズ30ファンド」の設定時ですから2009年の話です。
それ以来、ファンドの残高が増えた時には買い増しなどもさせていただきながら、かれこれ13年間保有し続けています。株価も、投資した時は500円を割り込んでいましたが、この13年間で株価は5倍になりました。

現在、日本はコロナ禍の最中ですが、世界的に見れば感染者数も重篤者数も、それほど多くはありません。
この理由のひとつとして、私は水道の普及が大きいのではないかと考えています。

日本の水道普及率は100%に近く、いつでも手を洗うことができ、蛇口をひねればいつでも水道の水を飲むことができます。アジアで水道から出てくる水をそのまま飲める国は日本など限られた国だけです。
こうした水道施設を核とした公衆衛生の確立が、感染症の拡大を抑制しているのではないでしょうか。

さて、クボタの歴史を見てみたいのですが、創業者である久保田権四郎翁は、この日本の水道施設普及に大きな貢献をしました。
参考:クボタTVCM クボタの原点 水篇

 

1893年、コレラという伝染病が広がりを見せ、日本においても水道施設の整備が進められたのですが、この時、水道用鋳鉄管の製造に着手し、量産化に成功したのが、クボタの前身である大出鋳物だったのです。
これにより、大勢の人が簡単に手を洗えるようになり、公衆衛生に対する意識も高まりました。

ところでコレラは産業革命のイギリスで大流行し、大勢の方が亡くなられました。
なぜなら大勢の労働者が働き口を求めてイギリスに集まった結果、衛生問題が深刻化したからです。
当時のイギリスには水道も普及していませんでしたし、トイレなどの整備も進んでいませんでした。

そこでイギリス政府は都市部に集中していた労働者を郊外に分散させようとして郊外に町をつくり、都市部との間を鉄道で結んで、生活拠点の分散を進めました。これが田園都市構想と呼ばれるもので、日本では渋沢栄一がこれに目をつけて、日本における田園都市構想を実現しようと声をかけたのが、東急グループの総帥である五島慶太氏でした。

確かにコレラの感染拡大は悲劇をもたらしましたが、同時に日本においては水道の普及と都市開発、鉄道の整備につながっていったのです。

さて、クボタの歴史はこういうことなのですが、130年にも及ぶ社歴のなかでは、成長につながった局面、苦境に直面した局面など、さまざまなターニングポイントがあったと思います。それらは今のクボタにどのように生きているのですか。

   130年ですから、ターニングポイントはいろいろあったと思うのですが、今、伊井さんからご紹介があったように、水道用鋳鉄管の量産化に成功して久保田鉄工所の礎を築いたこと。
終戦直後は食糧不足、人手不足のなかでトラクターや耕うん機を造って農業に貢献したこと。
高度経済成長期に深刻化した環境問題を解決するために環境分野に参入したことが大きなターニングポイントです。
いずれもその時々の社会的な課題を解決するために行った事業が、会社の成長につながりました。

中林  あとは海外展開が早かったことも成長要因のひとつです。
1970年代には米国に販売会社を立ち上げ、自社ブランドでマーケットを開拓していきました。
アジアでもアセアン地域には早い時期に参入していて、トラクターなど乗用型機械が普及していなかった時期から、小型の扱いやすい農業機器を販売してマーケットを開拓していきました。

伊井  逆に苦しかった時期はどうでしたか。

   1990年代の後半ですね。鉄管分野の売り上げが大きく落ち込む一方、米国やアジアに進出していたトラクターなどの農業機械の販売がに乗ったのが2000年あたりからでしたから、その間は辛抱が続きました。

伊井  クボタの株式に投資するのに2008年あたりから調査を始めたのですが、その当時の世界人口は確か67億人くらいでした。それが今では77億人になり、いずれ100億人になります。そのなかで食の問題がクローズアップされているわけですが、農家に直接ヒアリングしたところ、クボタの農機具に対する信頼感、憧れが非常に強かったことを覚えています。あるいは中国でも、経済が発展していくなかで所得が増え、食に対する関心が高まるのは確実でしたし、ものすごい面積の田畑を耕すには耐久性のある農機具が必要になるということで、クボタへの投資を決断したのです。

クボタ資料より

「On Your Side」、「One Kubota」

上野  コモンズ投信アナリストの上野です。クボタは長期ビジョンである「GMB(グローバル・メジャー・ブランド)2030」で目指す、クボタのあるべき姿として、
「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」を掲げていらっしゃいます。
私、この言葉がとても好きなのですが、まずは2020年1月に社長に就任された北尾裕一社長の人物像について教えていただけますか。

   北尾がよく言っているのは、「On Your Side」、つまり皆さんに寄り添うということと、「One Kubota」、皆がひとつになって頑張ろう、ということです。
この言葉からもイメージしていただけるかと思いますが、社長として先陣を切って皆を引っ張っていくだけでなく、皆一緒になって頑張っていこうと盛り上げていくタイプですね。とても温和なタイプだと思います。

上野  社長に就任される前は、クボタをどのように評価していらっしゃったのですか。

中林  北尾は社長就任前、機械事業本部の本部長を務めておりまして、その当時、イノベーションセンターを立ち上げるなどクボタを変革していこうという意識を強く持っていました。これまでの延長線ではいずれ立ち行かなくなるという危機感を持っていたのだと思います。

それがさまざまなスタートアップへの出資やコラボレーションという形で結実してきました。
弊社の業績が急拡大し、社員全員が目先のことで精一杯になっていた時期に、北尾としては社員にもっと広い視野を持たせなければという想いもあり、こうしたビジネス連携をスタートさせたのです。

上野  ここ数年で米国のアグリテックスタートアップへの出資や、オランダの大学内にサテライトオフィスを設けてスマート農業を研究したり、マイクロソフトとDXの戦略的提携を結んだりと、短期間でさまざまな連携を実現させていますが、新興企業などとの事業連携で考えさせられることなどはありますか。

   先日、北尾と話をする機会があって、その時の言葉で印象に残ったことがありました。今までのクボタは2年後、3年後のことを考えた技術開発を行ってきたが、それではだめで、やはり10年先、20年先のことを考えた技術開発が必要だということです。

米国のアグリテックスタートアップへの出資は、果樹の収穫作業の自動化を目指したもので、この技術を実用化するには、2年、3年では無理ですが、10年後、20年後の世の中を考えた時、必要とされる技術です。
北尾としては自分が社長に就任している時のクボタではなく、10年先、20年先という未来のクボタのための種まきをしているのだと思います。

 

トークセッションの様子。左上からクボタ中さま、右上クボタ中林さま、 左下コモンズ投信上野、右下コモンズ投信伊井

 

地球に無くてはならない存在を目指す

伊井  今年からスタートした長期ビジョン「GMB2030」ですが、なぜ今、この長期ビジョンを打ち出したのかについて教えてください。

中林  これまでも弊社は食料、水、環境に関連した事業領域を運営してきたわけですが、それぞれがバラバラに動くのではなく、3つの輪をひとつにする取り組みを行い、総合的なソリューションを提供できるようにするという長期的な方向性を、社内外に向けて発信していく必要がある、と北尾自身が判断したためです。社内に向けてメッセージを発信して一丸となって取り組む環境を作るのと同時に、これまであまり積極的に行ってこなかった中期計画や長期ビジョンの社外向けの情報発信にも力を入れることで、私たちの事業に賛同していただき、参画していただくことも目指しています。

上野  「命を支えるプラットフォーマー」を目指されるということですが、ここでおっしゃるプラットフォーマーのイメージを教えていただけますか。

   プラットフォーマーというと、グーグルやアマゾンのイメージが強いと思います。何かを検索しようと思ったら、今やグーグルは必要不可欠ですし、買い物をするに際しても、今ではアマゾンを日常使いしている人が増えています。いずれも、人々にとって「無くてはならない」存在になっています。

それと同じで、食料、水、環境に関連する事業を行う時、クボタの製品やサービスを使わなければならないというくらいに、必要不可欠な存在になりたいというのが、プラットフォームという言葉に込めた想いです。

上野  長期的に企業価値を高めていくうえでは、やはり従業員のモチベーション向上が必要だと思います。この点について、どのような施策を考えていらっしゃいますか。

   今年からK-ESG推進部を立ち上げました。今、中林が言ったように、弊社はこれまで何かを発信することが不得意でした。それは社外向け、社内向けの両方においてそうだったのですが、これからは2030年、2050年に向けて、クボタが無ければ世の中が成り立たないというくらいのことをやっていきますし、それを社内に浸透させていきます
社員一人一人に、自分の会社は何をやっているのかをしっかり把握してもらい、さまざまな事業における自分の立ち位置を認識できるようにしてまいります。
そのために、世界中の社員に弊社が世の中にこれだけ役立っているということを伝え、クボタで働けて良かったと思ってもらえるようにするのが、社員のモチベーションを高めていくうえで有効だと考えています。

上野  自動車の世界では、CO2削減問題で内燃機関のエンジンからバッテリーとモーターで動くEVへと切り替わってきていますが、農業機械、建設機械におけるEV化の動きはどうなっているのでしょうか。

中林  農業機械や建設機械のような大型の機械類を、リチウムイオンバッテリーやモーターで動かすとなると、バッテリーの稼働時間の問題がどうしても生じてきます。特に建設機械などは大きな力を必要とするので、これをバッテリーだけで駆動させるとなったら、相当巨大なバッテリーを使わなければなりません。
当然、機械もそれに合わせて大きくなります。ここはまだ課題が多いのですが、とはいえフランスのパリ市内では内燃機関の乗り入れ禁止が予定されているので、それに対応した小型トラクターや小型建機のEV化は、まさに今、開発の途上にあります。

この分野についてはまだまだ技術革新が必要ですし、さまざまなソリューションもあるでしょうから、それらを幅広く研究し、有効なものを取り入れながら開発を進めていきます。

伊井  130年前にコレラという危機の中でイノベーションを起こされたのがクボタでした。そして今、我々はコロナという危機の中で自然との共生という課題を改めて突き付けられています。そうした中で御社はこれからも様々な社会課題の解決に貢献されていかれることと思います。本日は有益なお話をありがとうございました。


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