教育機会格差を無くし社会の生産性向上に寄与する~すららネット~

「教育に変革を、子どもたちに生きる力を」という企業理念のもと、株式会社すららネットは2008年に設立されました。世の中には学力や所得、地域格差などによって十分な教育を受けられない子供たちが大勢います。その結果として生じる教育格差は非常に残酷で、自分だけでなく、子々孫々まで教育格差の底辺から抜け出られない状況になりかねません。対話型ICT教材「すらら」は教育格差を根絶できるのでしょうか。株式会社すららネット代表取締役社長の湯野川孝彦さまに、コモンズ投信アナリストの原嶋がお話を伺います(2020年9月16日にオンラインイベントを開催。アーカイブ動画はこちら)。


原嶋 すららネットを創業するに至った原体験について教えていただけますか。

すららネット代表取締役社長 湯野川孝彦さま

湯野川様  従来型の個別指導塾は学生アルバイトを講師として雇うわけですが、そうすると提供する教務サービスの品質にどうしてもバラツキが出ることに気付きました。もちろん一定の質をクリアしてもらうために、学生アルバイト講師を対象にして教育するという手もあるのですが、あくまでも学生なので数年すると就職などで辞めてしまいます。どうしても定着率が悪くなってしまうというのが第一の問題点です。

それに加えて、これがすららネットを創業した大きな原体験なのですが、東京の下町で塾チェーンを開業したところ、成績の低い子供ばかりが集まってきました。所得水準と学力の間には相関があります。所得が低い家庭が多いその地域では、小学校3、4年生でも1年生くらいまで遡って教えないと学習についていけない子供が大勢いたのです。

そうなると毎日通ってきてもらわないと、今の学年に求められる学力を取り戻すことが出来ません。でも、個別指導塾は一般の塾に比べて単価が高くなるので、月謝が10万円くらいになってしまいます。当然、それを払えるほど裕福ではない家庭の子供は、永久に学力が追い付かなくなってしまいます。それがまず問題意識の根底にありました。なので私たちが、すららだけで教える塾を世田谷の駒沢につくった時は、「通い放題」というコースを設けて、個別指導塾に週2、3回通うくらいの月謝で通い放題が出来るようにしたところ、十分に子供の学力を引き上げられることも分かりました。

具体的には、このときこの教室に通っていた成績がオール1の女の子が「生まれて初めて英語の勉強が楽しいと思った」と言ってくれたんです。この体験はこれまでの自身のキャリアで感じてきた価値とは別次元のものでした。

原嶋 学習塾ですららを導入するというのは、家庭では学習出来ない子供への対応という意味もあったりするのですか。

湯野川様 どれだけ素晴らしい学習ソフトも、子供たちが自発的にパソコンを立ち上げてログインしなければどうにもなりません。塾や学校といった学びの場というのは、そこに先生がいて、一種の強制力で勉強をしなければならない状態がつくられています。そういう強制力のもとで学ぶ習慣を身に付けていくうちに、徐々に理解できるようになります。なので、弊社のBtoCチャネルにおいても、なかなか学習習慣が身に付かない子供を念頭に置いて、すららコーチを一人一人の子どもにつけて、励ましたり、あるいは導いたりするというサービスも提供しております。

原嶋  一般的に的に個別指導塾というと、学力の高い子供を有名校に入れることを目的とするのが教育業界のセオリーですが、低学力の子供を対象にしたのは、そこがブルーオーシャンだという判断ですか。

湯野川様 塾の商品力はどういう先生が教えているのかということに加えて、どれだけ優秀な生徒がいるのかということも重要です。だから、大半の塾は優秀な生徒を集めようとする一方で、オール1を取るような子供を入れると塾の商品力が落ちるということで、大半の塾はそこに取組みませんでした。

でも、すららのような形で教えると、結構学力がアップします。学力の低い子供が集まってきて、その学力が上がっていくと、今度は塾の高評価につながっていきます。もちろん、そのためにはコンテンツの内容やアフターフォローなどをどうするのかという別の課題があるので、どの塾でも簡単に真似できるものではないと思います。

原嶋 つまり、そこがすららネットさんの競争優位性というわけですね。

湯野川様  最近の教育業界では、やはりeラーニングが注目されていて、競合他社でもカリスマ講師の講義を映像化して流したりするのですが、優秀な子供たちであれば何の問題もなく付いていける内容でも、低学力の子供だと集中力が続かず、途中で寝てしまったりするわけです。

ですから私たちは、そういう子供でも楽しんで学べるように、ゲーミフィケーションの要素を盛り込み、たとえばある程度学習が進むと、アニメキャラが出てきて、その質問に答えて正解だとキャラが喜び、不正解だと悲しむということが画面上で行えるようになっています。そうすると子供たちは寝ないし、集中力も続きます。

もちろん、このインタラクティブなやりとりをアニメーションで教える動画をつくるコストが割高で、だからこそ多くの進学塾はやらないのですが、私たちは基本的な絵コンテとシナリオは日本のスタッフで考え、プログラムの入ったアニメーションはインドで制作します。

原嶋 世界的にもこの手の教育プログラムは無いと。

湯野川様  そうですね。単純にアニメーションが出てくる教材はありますが、インタラクティブなやりとりが出来る教材は見かけません。

原嶋 国語、数学、英語以外に、取り扱う科目を増やす予定はありますか。

湯野川様  小中学生を対象とした理科と社会は2020年4月1日からサービスを提供しております。これで国語、数学、英語、理科、社会という5教科になったわけですが、美術や音楽、体育までこれを広げていく予定は、とりあえず現在の中期経営計画のスコープではありません。

ただ、たとえば英語については読む、書く、聞く、話すという4技能があって、このうち読む、書く、聞くについては提供出来ているのですが、話すがありません。これについてはスカイプなどを使った英会話レッスンがありますが、それなりのコストがかかります。そこで、今年中に音声認識のエンジンを導入することによって、生徒が話すとその発音をAIが解析し、「君のLの発音はRだよ」といったようにフィードバックしてくれるシステムをリリースする予定です。

また算数や数学、国語なども、常に今の時代に応じて求められる能力が変わっていきますから、教科は変わらなくても、その時代に即した内容に変えていくため、そこには投資をしていきたいと考えています。

原嶋 日本でも小学校から英語教育が始まりましたが、日本人の語学力はここからアップするとお考えですか。あるいはどのような学習法が望ましいのでしょうか。

湯野川様  これはもう臆せずに話すということに限るのではないでしょうか。私は語学の専門家ではないので、それほど大したことは言えないのですが、たとえばスリランカやインド、インドネシアなどに行くと、発音や文法は適当でも、堂々と英語で話していたりします。しかも、それでちゃんと通じているのです。それを見ると、やはり日本人は英語のアウトプットが不足しているのではないでしょうか。別にアメリカ人やイギリス人の発音で話す必要は全く無くて、とにかく通じれば良い。それが一番大事なことだと思います。

しっかり英文法を教えるという点で、日本の英語教育は決して悪くはありません。ただ、これにアウトプットが加われば、かなり変わるのではないでしょうか。

ただ、一方でちょっと気になるのが国語力ですね。英語を使う前に、頭の中で正しく日本語が理解できるのかという点について、少し懸念することがあります。ですから英語は大事ですが、その前にまず母国語である日本語をしっかり学ぶことも大事ではないでしょうか。

原嶋 将来的には社会人教育や資格取得教育といった分野にも進出される予定はありますか。あるいは生徒さんの興味ある分野などのデータから適職をアドバイスするといった分野はいかがでしょうか。

湯野川様  適職探しという点には興味があります。日本の教育はレベルの高い大学に行くことが目的化されています。どんな仕事に就きたいのか、どのような形で社会貢献したいのかという点が置き去りになっているのですね。

でも、それでは目的の大学に合格した時点で終わってしまいます。これでは人生の選択肢が狭くなってしまいます。ここは教育産業に関わっている者として、何とかしたいところですね。

あと社会人教育についても、これをあまり言ってしまうと戦略をばらしてしまうことになるのですが、少しそれに向けて動いているところはあります。たとえば企業内研修でeラーニングを活用しているところはあるのですが、あまり内容が面白くありません。昇進のために必要だから嫌々やっている方が大半ではないでしょうか。

これについては今、ある大手企業の社内資格試験などにちょっと導入してもらってトライアルをしているのですが、なかなか凄い成果が出ていまして、人事部が色めき立っています。

原嶋 地方の小中学校にすららを導入する場合、各地方の教育委員会の判断が鍵を握ってくるかと思うのですが、教育委員会でもすららを知らないところはあります。そのような地域にはどのようなアプローチを考えていますか。

湯野川様  私どもはこれまで私立校ばかりにアプローチしてきました。私立学校の数は日本全国で1500校程度なのですが、公立になると小学校が2万、中学校が1万、高校が5000で合計3万5000校にものぼります。今まで公立校には何もアプローチをして来なかったので、地方の自治体、公立校の知名度はほとんどありません。それをどうするかは、今後の我々の課題であると思っています。

これまで塾や私立校については直販でした。直接営業をして、説得してすららを導入していただくという流れでしたが、公立校を対象にした場合は、このやり方を変えていかないと、校数が多いので追いつかないと考えています。だから、公立校については代理店制度をとって、学校営業に強いNECさんとか大塚商会さんのようなところと組んで、全国展開させることも視野に入れています。

原嶋 教育格差を無くすことが将来的に国をどのように変えると考えていますか

湯野川様  日本の場合、全体的に識字率が高く、その意味では学力が高い方なのですが、それでも冒頭で申し上げたように、所得格差が学力の差につながり、将来の選択肢を狭めている現実もあります。その部分を少しでも縮めることによって、全体の生産性が向上したり、所得が増えたりすることにつながっていけばいいなと思います。

よく言われていることですが、AIの進化によっていずれシンギュラリティが訪れます。その時、人間はAIに仕事を奪われないように、今以上に頭を使っていく必要があります。だからこそ、教育のボトムアップが求められますし、そこに関わることによって、私たちも社会に貢献していきたいと思います。

原嶋 ありがとうございました。


2020年9月16日に開催したオンラインイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

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