<講演抄録>日立製作所「経営戦略としてのダイバーシティ推進~成熟社会だからこそ求められる多様性」

コモンズ30ファンドの投資先企業をお招きし、定期的に開催している「コモンズ30塾」。今回は、ダイバーシティをテーマにして、日立製作所の取組みについてお話いただきました。
カリキュラムの内容は、コモンズ投信会長渋澤健による開会の挨拶から始まり、運用部シニアアナリストの末山仁から、「5つの軸」と「コモンズの視点」について説明させていただきました。5つの軸とは、「収益力」「競争力」「経営力」「対話力」「企業文化」のことで、コモンズ投信が投資先企業を選ぶ時に、常に重視していることです。
そして、今回のメインテーマであるダイバーシティへの取組みについて、日立製作所人財統括本部ダイバーシティ推進センタ部長代理の武内和子さんが登壇。渋澤健とのトークセッションを挟んで、参加していただいた方からも時間いっぱいまで、たくさんの質問を頂戴しました。その内容をまとめました。
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日立製作所
人財統括本部ダイバーシティ推進センタ部長代理 武内 和子 様
「経営戦略としてのダイバーシティ推進~成熟社会だからこそ求められる多様性」

日立製作所の創業は1910年ですから、すでに100年企業としての歴史を積み重ねてきました。
恐らく、皆さんのイメージとしては、家電メーカーだと思いますが、実はセグメント別に見ると、家電は売上全体の6%に過ぎません。最も大きなのは情報・通信システムの20%、社会・産業システムの23%で、この2つのセグメントで売上の43%を占めています。また、2016年度の連結ベースの売上は9兆1622億円、会社数864社、従業員30万3000人で、売上全体に占める海外比率は48%です。これらの数字を見てもお分かりいただけるように、世界中でビジネスを展開している大企業です。

さて、その日立製作所がなぜ今、ダイバーシティなのでしょうか。それは、経済構造が大きく変わってきたからです。
1980年代までの日本経済は右肩上がりで成長していました。作ったモノが作っただけ売れる時代で、生産効率を上げるために、「モノカルチャー」、「同質」な環境でモノを大量に作りました。それが事業の強みだったのです。
でも、今は日本経済の成長も止まり、企業は成長を求めて海外に積極展開しています。海外市場は変化が激しく、同質のモノばかり作っていたら、立ちどころに売上は低迷してしまいます。また海外展開を行うなかで、日立グループ全体で従業員の多国籍化が進んでまいりました。こうした人財をマネジメントしていくうえでも、多様性を強みに変える必要があります。つまりダイバーシティは、日立グループが変化の激しいグローバル競争の中、成長していくための経営戦略なのです。

日立製作所のダイバーシティは、女性活躍支援からスタートしました。1990年代のことです。女性の採用数拡大にともない、仕事と家庭の両立支援をはじめ、女性が職場で活躍できるような環境を整えることから、社員の意識改革を進めていったのです。
2006年には「ダイバーシティ推進プロジェクト」が活動を開始し、2009年に「ダイバーシティ推進センタ」を設立。長時間残業削減やメリハリのある働き方推進など、働き方の見直しが行われました。それと同時に、女性活躍支援の強化が検討されました。
そして2012年からは、いよいよ経営戦略としてのダイバーシティ推進を掲げ、女性のキャリア形成支援強化が推進されると共に、ダイバーシティに関する経営トップのコミットメント強化や、政府の働き方改革に合わせて、タイム&ロケーションフリーワークの推進、仕事と生活双方の質を高めるための取組みなどを、まさに今、行っています。

このように、多様な人財を活用していくため、制度や仕組みを作ってきたわけですが、本当のダイバーシティを実現させるには、これだけでは不十分です。大事なことは、多様な人財が、自分の能力を思う存分発揮できる環境をつくることです。そのためには、経営トップから多様化を図っていく必要があります。現在、日立製作所には13人の取締役がいますが、このうち9人が社外取締役であり、さらにこの9人のうち5人が外国人、2人が女性です。

こうして経営トップに多様性を導入すると同時に、多様な人財が活躍できる柔軟な働き方を実現させるため、人財マネジメントシステムの転換も行っています。具体的には、メンバーシップ型雇用システムから、ジョブ型雇用システムへの転換です。
日本企業の雇用システムは、終身雇用制だったことからもイメージできると思いますが、一種のメンバーシップです。メンバーとして会社に入っていただき、いるメンバーに仕事を割り振っていくのが、これまでの雇用システムでした。
これに対して今の日立製作所は、仕事に人を割り当てています。やるべき仕事に適した人を配置するのです。そうすることによって働き方の多様化、柔軟化をはかり、公正かつ透明な評価・処遇を実現しています。
そのうえで、人財ミックスの促進ということで、日本企業における少数派の人々、つまり外国人、高齢者、障がい者、女性、LGBTの方々が働きやすい環境整備を進めています。

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