(2023年8月11日更新)
年初から6月末まで堅調だった日本株も、7月1日の日経平均の高値をピークに往ったり来たりの足踏み状態が続きました。日経平均は7月末こそ今年の最高値に迫る上昇となりましたが、さらに上値を追うにはまだチカラ不足のようです。この酷暑に、少しバテ気味なのでしょうか?もう少しのお休みが要りそうです。一方で米国の株価はダウ平均の13連騰にみられるように、サマーラリーの真っただ中。ディスインフレの流れと経済のソフトランディングへの期待からこのところの株価はすこぶる堅調です。
とはいえ、年初から7月末までの主要国の株価上昇率をみると、米国のダウ平均が7.0%、S&P500が19.3%、英国のFTSEが3.3%、ドイツのDAXが18.3%に対して、日本の日経平均は25.5%で突出しています。
そこで今、なぜこれほどまでに日本株は高いパフォーマンスを実現したのか、その要因を考えてみることにします。
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日本株はなぜ高いパフォーマンスを実現したのか、その要因
その要因は大きく3つ考えられます。
1つは、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して、資本効率の悪さや収益性の低さについて、その是正を求めたこと。
2つめは、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏による日本株の追加投資表明に触発された欧米投資家の日本株の見直し買いが大きく膨らんだこと。
3つめは、米欧の中央銀行が金融引き締めを行うなか、日銀が大規模金融緩和の維持を決めたことで日本の実質政策金利が低下したことが考えられます。
ただ、足下、株価上昇が一服し足踏み状態となった中、ここで今一度考えておかなければならないことは、上記の3つの要因のうち、1つめと2つめは、そうなるであろう、そうなるかもしれないとの期待や、バフェットさんが買うんだったら(株価も)上がるに違いないとかの思惑から、株式の需給が変わったことで株価が上昇したという事実は頭においておく必要があると思っています。
それともう一つ。3つめの、日本の実質政策金利が低下したこととしていますが、これについても変化が見られます。7月最終週に、米欧の中央銀行が金融引き締めで利上げをしましたが、日銀もこれまでの長短金利の操作を柔軟化するということを表明しました。このことは、現在の大規模金融緩和策から金融の正常化に向けて動き出したということで、将来的に日本でも実質金利が上昇していくということを頭においておく必要がありそうです。
PBR(株価純資産倍率)とPER(株価収益率)とマーケットの関係
ここで、1つめと2つめについて、PBR(株価純資産倍率)とPER(株価収益率)を用いてこれまでのマーケットをみていきましょう。
株価=一株当たり純資産×PBR(倍)
株価=一株当たり純利益×PER(倍)
で説明されます。
一株当たり純資産が一定、または一株当たり純利益が一定とした場合、株価はPBRが上がれば上がります。また株価はPERが上がれば上がるということになります。
下のグラフは日経平均の値動きですが、年初の25,700円から7月初めの高値33,700円までほぼ右肩上がりとなっていますが、その間の日経平均のPBRとPERの動きをみてみましょう。
まず、日経平均のPBRです。日経平均採用銘柄を一つの銘柄としてみた場合の日経平均の一株純資産の倍率として計算していますが、年初の日経平均の一株純資産は約23,600円、その時の日経平均が25,700円ですからPBRは1.09倍でした。
7月初めに日経平均が高値を付けたときの日経平均の一株純資産は約24,200円で、これは今年の2月末、3月末に決算を終えた企業が前年度に利益をあげて資産を積み増した結果、その分、純資産がふえたことで増加となっていますが、7月初めの日経平均が33,700円で、その時のPBRは1.39倍で、年初から大きくジャンプアップしています。
個別銘柄で見てみましょう。下の表は年初から7月初めまでに株価上昇が大きく、その中でもPBRのジャンプアップが大きかった代表的な銘柄です。
これらの銘柄についてPBRが大きく変化した背景は、年初に東京証券取引所がPBR1倍割れの企業に対して、資本効率の悪さや収益性の低さについて、その是正を求めたことに始まるのですが、マーケットはそれを先取りしてPBR1倍割れの企業をはじめ、多くの低PBR企業の株式を買うことになります。とりわけ上昇率が大きかったのが、三菱商事や丸紅、三井物産などの総合商社株ですが、これは、いうまでもなく、米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が6月半ばに、総合商社株の買い増しを表明したことから、まだまだ商社株は買えるぞということで株価上昇に弾みがついたわけです。
(前回記事参照 この株価上昇、これまでの戻り相場とは何か違うんじゃないかな?)
さらには、その動きに触発された海外投資家は、日本の代表的な大型株で割安に放置されていたトヨタや日産、ホンダなどの自動車株や、パナソニック、三菱電、NECなどの総合電機株を大量に買い増しました。
ただ、ここで気になるのが、過去のPBRの水準との比較です。2008年のリーマンショックや、2020年のコロナショックで起きた株価急落の時を除いて、過去15年間の平時の日経平均のPBRは、概ね、低いところで1.0倍、高いところで1.4倍と、そのレンジの中で動いています。そうなると7月初めの日経平均のPBRが1.39倍は、過去の経験則からするとほぼ上限にあり、マーケットでは株価は割高な水準にあると判断をしたことで、それまでの買いの勢いが止まったように思われます。
2つめは日経平均のPERです。PBRと同様に、日経平均採用銘柄を一つの銘柄としてみた場合の日経平均の一株純利益(来期予想、以下省略)の倍率として計算していますが、年初の日経平均の一株純利益は約2,140円、その時の日経平均が25,700円ですからPERは12.0倍でした。
7月初めに日経平均が高値を付けたときの日経平均の一株純利益は約2,180円で、7月初めの日経平均が33,700円ですから、その時のPERは15.5倍で、PBRと同様に年初から大きくジャンプアップしています。
個別銘柄で見てみましょう。下の表は年初から7月初めまでに株価上昇が大きく、その中でもPERのジャンプアップが大きかった代表的な銘柄です。
これらの銘柄で株価の上昇率が大きく、PERが大きくジャンプアップした背景は、5月末に米半導体大手のエヌビディアが、今期第1四半期の決算発表で、前期第4四半期を大きく上回る好決算を発表したことを機に、一斉に半導体関連株が急伸したことことにあります。
エヌビディアは、今年初めから話題になっていたマイクロソフトが出資するオープンAI社の「チャットGPT」に、グラフィック半導体を独占的に供給している会社ですが、その決算発表を機に、将来的に生成AI向けに半導体の需要が大きく膨らむという期待から、半導体関連株が買われました。
中でも、エヌビディア向けに5割超のシェアを持つ検査装置会社のアドバンテストや、集積回路基板を供給するイビデン、切削加工のディスコや前工程装置を供給する東京エレクトロンの株価急伸は目をみはるものがありました。
これらの企業は、生成AI関連株としてテーマ化しましたが、これらについても将来への期待から買われたわけで、実際に今の収益に表れているわけではありません。
そういった動きがあったことから、これらの銘柄で構成する日経平均のPERも大きくジャンプアップしました、PBRと同じ期間で、2008年のリーマンショックや、2020年のコロナショックを除いた過去15年間の平時の日経平均のPERは、概ね、低いところで12倍、高いところで16倍と、そのレンジの中で動いています。そうなると7月初めの日経平均のPERが15.5倍は、過去の経験則からするとほぼ上限にあり、PBRと同様にPERについても過去の経験則から株価は割高な水準にあるとマーケットは警戒をしたようです。
3つめの日本の実質政策金利が低下した米欧株に対して日本株が相対的に優位になったということも確認しておきましょう。
下のチャートは、日米の政策金利から、食品、エネルギーを除くコアCPIを差し引いた日米の実質金利とその差(グレーで示した部分)です。7月末に米連邦準備制度理事会(FRB)は0.25%の利上げを行い5.5%としたことで、米国の実質金利はほぼ0%になりましたが、日本の実質金利はマイナスのままです。
実質政策金利の低下は株式のバリュエーションに対してプラスの効果となり、株価上昇が期待できますので、日本と米国との実質政策金利差が拡大する局面では、日本株の相対的なパフォーマンスも好調になる可能性がありますが、ただ、先にお話をしたとおり、日銀の金融政策の変更が将来に起きることが予想されるならば、それについても変化への対応が求められることになります。
これまでに、年初から7月までに日本株が高いパフォーマンスを実現した要因の3つを考えてみました。3つめの実質金利の低下は今、マーケットで実際に起きていることなので事実としてとらえることができますが、1つめの東京証券取引所が求めるPBR1倍割れの企業に対する資本効率や収益性の低さについての是正や、ウォーレン・バフェット氏による日本株の追加投資表明に触発された海外資家の日本株買いはあくまでも将来への期待であることは今一度考えておく必要があります。
特に2つめと3つめについては、PBRやPERの投資指標からも、今の株価水準は割高に買われていることから注意が必要と思われます。
この先にも右肩上がりの株価上昇が継続するには何が必要なのか
では、この先にも右肩上がりの株価上昇が継続するには何が必要なのか。
そのことが最も重要なのですが、答えは一つ、将来的に企業収益が改善していくことに尽きます。
ここで、ROE(自己資本利益率)について考えてみます。
ROEは株主の自己資本に対して企業がどれだけの利益を得たかという指標ですが、PERとPBRと密接な関係をもっていて、PBR=PER×ROEという式で表すことが出来ます。
PER、PBR、ROEの3つのうち、2つが分かればもう1つを計算によって出すことが出来ますが、先の式の逆数をとれば、PER=PBR÷ROEで表すことができます。この式から、ROEが高くなればPERが低くなることがわかります。
先に、今のマーケットでは、過去の経験則からするとPERで割高に買われているということをお話しましたが、その割高を解消するには、その答えは一つ、ROEを高くすることになります。
過去15年間の日経平均のROE(実績)は概ね9.5%が上限で、それ以上は伸び悩んでいることがうかがえます。
もし、ROEがこれまでの9.5%を超えて10%を超えていくとすれば、割高と思われるPERの15~16倍も、米S&P500並みの18倍台まで買われても決して割高ではないということになります。
PBRについても同様です。PBR=PER×ROEですから、ROEが上がって、PERが上がればPBRは上がります。何が何でもPBRを上げようとして、「自社株買い」をすることだけがその方法だけじゃないということになります。
先にお話をしたPBRの上昇や、PERの上昇で株価が急伸した代表的な銘柄の中に、コモンズ30ファンドやザ・2020ビジョンの投資先企業で、PBRが大きくジャンプアップした企業に三菱商事、丸紅、豊田通商、ホンダが、PERが大きくジャンプアップした企業にアドバンテスト、ディスコ、東京エレクトロン、ダイキン、シスメックスなどの多くの企業が含まれています。
コモンズ投信は、長期投資を前提に、世界で持続的に成長し続けられる真のグローバル企業、そして質の高い企業に集中投資することで高い運用成果を目指しています。
その結果が、年初からの株価上昇で、上記の企業のほか、多くの投資先企業の株価が上昇したことがファンドパフォーマンスの上昇に大きく貢献したと思われます。
トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami
国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。