この株価上昇、これまでの戻り相場とは何か違うんじゃないかな?

日本株の活況が続いています。5月連休明け以降に日経平均は急速に下値を切り上げ先週は7営業日続伸で、その週末の終値は3万808円、一昨年9月に付けた戻り高値を抜いてバブル経済崩壊後の高値を更新しました。厚い雲間を抜けて遥か遠くをふと見渡すと、今から34年前の1989年12月に付けた史上最高値の3万8915円の頂がおぼろげながらみえるような気がします。

ひさびさ、トレーダーふっちーのマーケットコラムです。

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今年に入ってからのグローバルのマーケットと日本株高の背景

今年に入ってからのグローバルのマーケットは、日米欧とまちまちの動きとなっています。米国はインフレ抑制のための利上げと、それにともなう景気後退懸念、さらにはシリコンバレー銀行の破綻をきっかけとした金融不安からもみ合いとなっています。欧州は天然ガスをはじめエネルギー価格が下落したことから、年初に想定されていたほど景気の落ち込みも大きくないだろうとの見方から比較的堅調な動きです。
ひとり気を吐いているのが日本株です。とりわけ連休明け以降の日本株の上昇は目をみはるのもがあります。

日本株高の背景はこうです。先ずは、東証が進めるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄への改善要求から、日本企業が変化するのではないかという期待から海外投資家の日本株の見直し買いが入っていること。経済動向も、相次ぐ賃上げで個人消費も回復基調で、しかも植田日銀新総裁による大規模金融緩和の継続でデフレ脱却が期待できること。また新型コロナウイルスの5類移行経済活動も「脱コロナ」で正常化に向かうなか、落ち込んでいたインバウンド需要も回復に向かっていること。などなど、日本株を買う環境が整いつつあるということでしょう。

ただ、国内投資家のほとんどは、この動きにまだまだ疑心暗鬼のようです。実際に、足下の内外の投資家動向を見てみると、買っているのは海外投資家ばかりで、国内の個人も、法人も、金融機関も、今の日本株上昇のなかで、「やれやれ、ここまで戻れば一度売っておくか」のいわゆる利益確定売りに回っているのが実情のようです。

今のマーケットで何が起きているんだろう?

株価が上がったから売る。さて、それだけでいいのかな?と、トレーダーふっちーは今一度、考えてみることにしました。

今のマーケットで何が起きているんだろう?買っている投資家はどんな理由で買っているんだろう?
そこからの結論は、マーケットは常に変化をする、しかも循環をしながら、そして成長していくということを前提に、「この株価上昇、これまでの戻り相場とは何か違うんじゃないかな?」ってことになりました。

景気局面と相場サイクルが変わりつつある

そう考えた理由は、先ずは、景気局面が変わりつつあるということ。くわえて相場サイクルも変わりつつあるということです。

一昨年来、現在に至るまでのマーケットを見てみましょう。

日経平均という指数だけをみると、一昨年9月に付けた戻り高値を抜いたという事実はチャートでみると一目瞭然ですが、その採用銘柄の中で何が起きているのかその中身は見えません。指数だと、単純な数値しか見えないので、上がった、下がったしか見ることができないのですが、日経平均の個々の銘柄をみてみるとその中身が変わっているのが見て取れます。

一昨年9月の戻り高値をつけた時点と、先週末に高値更新をした時点の株価を比較すると、大きく上昇した銘柄はINPEXや日揮などの資源関連、丸紅、住友商事、三菱商事などの総合商社も同様です。ほかには三越伊勢丹や高島屋の百貨店、日本製鉄や神戸製鋼所などの鉄鋼株の上昇が大きいです。

逆に下落した銘柄は、エムスリーやZホールディングス、サイバーエージェント、楽天などのネット関連、ニデック(旧日本電産)やシャープ、太陽誘電などの電機、電子部品関連です。

コモンズ30ファンドの銘柄についてもみてみましょう。日経平均採用銘柄と同様に、一昨年9月の戻り高値をつけた時点と、先週末に高値更新をした時点の株価を比較すると、大きく上昇した銘柄は日揮ホールディングス、丸紅、三菱商事、味の素、セブン&アイなど。逆に下落した銘柄は、エムスリー、楽天グループ、カカクコム、マキタ、リンナイなど。日経平均採用銘柄とほぼ似たような銘柄となっています。

前回から今回の高値の間にマーケットで何が起きたのか

この間に、マーケットで何が起きたのかを振り返ってみます。

先ずは世界的に金融環境が変わりました。新型コロナの収束にともなう世界経済全体の正常化。そこに起きたロシアによるウクライナ侵攻で原油価格をはじめとする資源価格の高騰で、米欧の中央銀行はインフレを抑えこむためにそろって急ピッチで利上げを行いました。

そして経済環境も変わりました。企業収益はインフレによる原材料高と、さらには物価高による個人消費の落ち込みで売上が減少し業績は低迷しました。また急激な金利上昇で、借入れコストも上昇し、収益を圧迫しました。

そしてインフレに落着きの兆しが見えてきたところに、米欧の中央銀行の利上げ打ち止め。さらには気の早い話しで、今年後半の利下げ期待まででてきているなか、景気後退懸念も払しょくされつつあります。

 

「トレーダーふっちー流の投資指標の見方」でもお話をしましたが、マーケットは経済環境や金融環境が変わることで、株価は上昇と下落を繰り返しながら循環し、またその物色対象も変わっていくことをお話ししました。先ほど見た、日経平均の採用銘柄の変化がそれになります。マーケットの循環でいえば、今のマーケットは、21年9月の戻り高値から、今に至るまでに、逆金融相場から逆業績相場を経て、さらには次の金融相場まで織り込みにいこうかという流れです。

「PBR1倍割れ銘柄」への改善要求

そしてもう一つが、東証が進めるいわゆる「PBR1倍割れ銘柄」への改善要求がきっかけとなっていますが、東証に上場する企業が大きく変わっていく予感がするからです。

東証は昨年の市場区分の変更に続き、今年に入って市場改革を前に進めるために新たにフォローアップ会議をはじめ、東証の上場企業に対し改善要求を出しました。

その内容は、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る上場企業に対し、資本効率の現状を把握し、改善に向けた計画を策定、開示し、計画に基づいて実行しなさい、そして、その進捗状況を年1回以上報告しなさいというものです。

これまで、株価は市場任せにしていたPBR1倍割れ企業は、さぞ驚いたに違いありません。

PBRを上昇させるためには、株主資本コストを下げるか、利益を上げて株主資本利益率を上げるかですが、すぐさま利益を上げて、利益率を上げることは非常に難しいことです。そこで、もう一つの方法として株主資本コストを下げることから取り組む企業が多く出てきました。いわゆる「自社株買い」です。今年に入ってから5月の決算発表が一巡する時点で、東証全体で5兆円超の自己株式取得が発表されています。例年に比べてかなり速いピッチで、しかも大きい金額が発表されています。企業がこれまでに貯め込んだ現金を自己株式取得に充てると、株主への利益還元はもちろんですが、結果的に一株当たりの利益率も上昇し、市場の評価からもPBRは上昇することになります。

 

コモンズ30の組入れ銘柄の中でも、東証の他の企業に先駆け、投資先企業30社のうち半数にのぼる16社が自己株式取得を発表していますし、中でも三菱商事、ホンダ、東京エレクトロン、日立は1,000億円以上と金額も大きなものとなっています。

中でもホンダが、決算発表と同時に「創出したキャッシュは電動化の推進と株主還元に投入する」と強調し、株主資本コストを下げと同時に、利益を上げて株主資本利益率も上げていくという決意表明をしたことは頼もしいばかりです。

東証の他の企業もコモンズ30ファンドの企業に続けとばかり、これからは多くの日本企業が企業統治の改革や株主還元の拡充について取り組んでいくはずですし、それによって投資家の信頼感も高まっていくはずだと思っています。

マーケットの売買動向

そして3つ目がマーケットの売買動向です。

今年4月以降の投資主体別の売買動向をみると、海外投資家は現物と指数先物と併せて4月に2兆9,800億円の買い越し、5月に入ってかららはその勢いを増し、5月第2週目までに1兆2,000億円の買い越しとなっています。ここで注目をしたいのが、現物での買い越しが4月で2兆1,500億円、5月第2週目までで7,300億円と買い越し額の大半を占めていることです。

日本株のマーケットは、これまでに多くは海外投資家の売買動向に左右されてきました。海外投資家が大きく買えば株価は上がる、また海外投資家が売れば株価は下がると構図は今も大きくは変わっていないと思いますが、その大半は指数先物を中心とした短期筋でしたので、マーケットは、上げては下げ、下げては上げのいわゆる「ボックス相場」となっていました。

ところが、今回は少し違う。海外投資家が現物で日本株を買っている様子が見えるのです。

日本株を現物で買う海外投資家の大半は、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)をはじめとする公的年金や保険会社のほか、ブラックロックやバンガードなどの機関投資家と思われます。そういったところが、今回は現物で日本株を買っているようです。しかもそういった投資家の資金の足が長いのが特徴です。

ウォーレン・バフェット氏が来日したことで、これまで日本株を買ってこなかった海外の機関投資家が、あらためて「日本株はいい投資先」であることに気が付いたのかもしれません。

もちろん、日本株買いの動機付けは、今、まさに起こっている東証での市場改革だろうと思います。その期待が、今の海外投資家の買いにつながっているではないかと思うのです。

 

かつて、2012年11月に始まったアベノミクス相場のときがそうでした。第3次安倍内閣が発足した直後1年間で海外投資家が16兆円の日本株を買い越したのですが、いま、なんとなくそれに似ているような気がするのです。今の動きは、まだ始まったばっかりじゃないのかと。

まとめ

話は長くなりましたが、トレーダーふっちーはが「今この株価上昇、これまでの戻り相場とは何か違うんじゃないかな?」と考えた理由は、以上の3つの点からです。そんなことから思いを巡らすと、また新しいマーケットがみえてくるような気がするのです。

先週の「コモンズ投信メールマガジン」で、コモンズは、ひとつひとつの企業について、短期的な業績の良し悪しや株価の動向を見るのではなく、長期的に企業価値を高め続けることができるかどうかを、丁寧な調査と対話によって見極めています。そして、相場動向に応じて売買する投資ではなく、持続的に価値を高められる企業に資金を置き続ける長期投資手段を合理的と考えていますとお話をさせていただいています。

投資は未来を信じるちから。これこそが原動力になるはずです。

マーケットは様々の要因で日々、変化をしていきます。そして長い時間をかけながら、次の新しい世界を作っていきます。だからこそ、日々マーケットをみる事は楽しいし、将来を創造することも楽しくなると思うのです。

 

トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

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