今回は、中間反騰のあとにくる、逆業績相場について考えていきたいと思います。

ちょうどこれを書いているのが2022年9月の頭なのですが、日米の株価指数は8月半ばの高値から足下の9月第1週までで下落基調にあります。
日経平均は5.4%の下落、米国の代表的な株式指数のS&P500指数は8.8%の下落となっています。

背景はこうです。
8月半ばまでのマーケットの見方は、米国のインフレも今年6月、7月をピークに落ち着くんじゃないか、年内、あと数回の利上げがあるとしても、今までみたいに大幅利上げはなさそうだし、足下の景気も悪くはない。仮に景気が悪くなったとしてもその後に利下げだって期待できるし、景気後退に陥ることもなさそうだなとマーケットは楽観的でした。
ところが8月末に行われた世界中の金融当局者が集うジャクソンホールのシンポジウムで、FRBのパウエル議長が、「歴史は時期尚早な金融緩和を戒めている」「インフレとの戦いでは、家計と企業は痛みを伴なうだろう。インフレ退治をやり遂げるまでやり続ける」と発言しました。これにびっくりしたのが株式市場です。それまでの楽観論の修正を余儀なくされ、長期金利は上昇、株価下落とそれまでの流れが一変しました。

さて、この先は?
以前ご紹介した相場の4つのサイクルを思い出してください(下図)。

ふっちーは今、こう考えています。どうやらマーケットは「中間反騰」を終えて「逆業績相場」に入ったのかもしれない。そうであれば、しばらくは下落相場が続きそうだな、です。
前回、第1回のふっちーのマーケットの見方で、『「逆金融相場」の後の「中間反騰」の後はどうなるのか。サイクル論から言えば次は「逆業績相場」になります。金利は「低下」、株価は「下落」、業績は「(さらに)悪化」となります。』とお話をしました。下の図の相場の4つのサイクルでみると、右下の「中間反騰」→「逆業績相場」の部分になります。

では、なぜそう考えるのか。ふっちーは、マーケットを考えるにあたって、テクニカル面マーケットの循環論的な面からアプローチをしています。テクニカルも循環論も、決して将来を予測するものではありませんが、過去の動きがそうであったことから、この先もそうなるかもしれないということで次のマーケットの展開を考えていきます。

先ずはテクニカルからみていきます。
ふっちーのテクニカル分析、第3回の移動平均線の活用で、「ファンドの運用報告は四半期、年次ごとで、インデックスとの比較は50日と200日がベース」なので50日移動平均線と200日移動平均線が重要ということをお話しました。
ここで、足下の日米主要株価指数の200日移動平均線をみていきましょう。



出所:QUICKよりコモンズ投信作成

日経平均株価は年初以降、200日移動平均線が上値抵抗線でしたが、7月末にそれを超えて強気相場に入ったように見えました(上図赤丸)。S&P500は200日移動平均線を超えきれず、再び上値抵抗線となり弱気相場のまま(下図赤丸)です。それでは、日経平均は強気相場入り?と考えたいところですが、グローバル経済の中で日本だけが景気拡大を続けるということも考えづらく、日経平均株価だけが上昇することもなさそうです。年初来、海外投資家は日本株を大きく売り越していますが、円安が進んだこともあって、日経平均株価をドル円相場で割ったドル建ての日経平均は200日移動平均線を下回ったままです。海外投資家にしてみれば、日本株は米国株に対して下回っている状態ですが、割安だからといって日本株を買い越す理由がないとすれば日本株もこれまでと同様に米国株と同様のトレンドになるのではないかと考えています。
次に景気の動向をみていきましょう。前回、第1回のふっちーのマーケットの見方で、米経済について、「マイナス成長が2四半期続くとテクニカルリセッションと呼ばれ、機械的に景気後退局面とみなされます」というお話をしましたが、足下で発表される経済指標はいいもの、悪いものがまだら模様で、そのことがマーケットのかく乱要因になっているのも事実です。
経済指標そのものから景気を判断すると同時に、債券市場から将来の景気を予想するテクニカルな手法もあります。債券市場では「逆イールドが発生すると、その後に景気後退になる」ということが過去の経験則からいわれますが、このことが今、実際に起きているということもみておかなければなりません。
通常ならば、債券利回りは長期が高く、短期が低い「順イールド」となりますが、足下では、短期が高く長期が低い「逆イールド」となっています。
下の図は、米国の10年債利回りと2年債利回り差(10年債-2年債)とS&P500ですが、赤マルで示したところが「逆イールド」が起きているところで、グレーの部分が米国の景気後退局面です。

出所:QUICKよりコモンズ投信作成

図からもみてとれるように過去3回、逆イールドが起きた後に、株価が下落し、その後実際に景気後退局面になったということがわかります。
下の表に、米国の景気後退局面と逆イールドの関係をまとめましたが、逆イールドの発生月から景気後退局面入りまでの期間は1990年以降、過去3回の平均で17.7カ月です。

米国景気後退局面 逆イールド発生月 逆イールド発生月から景気後退局面入りまでの期間 逆イールド期間
1990年7月~
1991年3月
1989年1月~
1989年9月
18カ月 9カ月
2001年3月~
2001年11月
2000年2月~
2000年12月
13カ月 11カ月
2007年12月~
2009年6月
2006年2月~
2007年5月
22カ月 16カ月
3回平均 17.7カ月 12.0カ月

出所:QUICKよりコモンズ投信作成

足下(2022年9月5日)の米10年債利回りは3.19%、2年債利回りは3.39%で「逆イールド」状態です。「逆イールド」が実際に発生した月が今年2022年1月ですから、過去の経験則からすると、約17.7カ年後の来年2023年の6月、7月頃には景気後退局面に入るということが経験則から予想されます。
足下の株価は半年から1年先くらいを予想して動くと言われますが、来年2023年の6月、7月頃に景気後退局面に入ると予想されるならば、今後のマーケットはどう動くのかを考えてみましょう。
冒頭に、マーケットは「中間反騰」を終えて「逆業績相場」に入ったのかも…そうであれば、しばらくは下落相場が続きそうだとお話をしました。
まとめたのが下の表ですが、「逆業績相場」では、金利は「低下」、株価は「下落」、業績は「(さらに)悪化」ということになります。


金利は、米国の利上げは年内であと数回、FF金利(米国の政策金利ー金融政策の誘導目標金利)が3%台半ばに達したあたりで終了ともいわれていますし、景気次第でその後の利下げも考えられます。ただFRBのパウエル議長は先に紹介したジャクソンホール講演で「歴史は時期尚早な金融緩和を戒めている」「インフレ退治をやり遂げるまでやり続ける」と発言しているだけに、インフレが収まらないとなれば金利は横ばいなることも考えられます。
そして資金量ですが、これは増えるよりも減らす方向にあることに注意が必要と思われます。FRBをはじめ各国の中央銀行はリーマンショック以降、さらにはコロナショック以降に実施された量的緩和策で市場に大量の資金供給を行ったため、その資金を回収する量的緩和の縮小を余儀なくされており、金利の引き上げと併せてマーケットにとっては引き締めの方向にあります。
そうなると、逆業績相場に入ったと思われるマーケットは、金融面からの支援はかなり限定的で、景気が悪くなる、業績が悪くなる、株価が下がる状況は従来よりも加速することが想定されます。
そしてPER(株価収益率ー利益に対して株価が何倍まで買われているかを示す、相場や株価の過熱感を表す指標のひとつ)ですが、逆業績相場で気をつけなければならないのが、PERが下がって割安と思って買った株がさらに下落するということがあるといことです。マーケットでいういわゆる「バリュートラップ」ですが、これはPERの分母のEPS(一株当たり利益)が業績悪化で下がることによって、分子の株価が下がってもPERは下がらないという悪循環にはまってしまうということをいいますが、テクニカル的には注意が必要かもしれません。

こうやって「逆業績相場」の局面を見ていくと、株式を保有する投資家にとって資産は目減りするし、下落する株価をみると精神的にもつらい状況になります。ただ、ここで考えておきたいのが、長期投資ならば、それをポジティブにとらえることができるということです。
前回にもお話をしましたが、株価が下がるのをみて、ただただ不安になるのではなく、株価が下がる理由やその時間軸が概ねわかっていれば、その不安も和らぐということです。
循環論からすると、ひとつの株価サイクルが中期の景気循環に対応するものとすれば、その期間は経験的に長ければ5~6年、短ければ2~3年ということになります。ということは、「逆業績相場」はむしろ次の「金融相場」にむけて絶好の買い場となるわけです。株価は安くなるわけですし、積立投資でやっているならば、今まで買っていた株数よりもさらに多くの株数を買い増しできるチャンスでもあるわけです。
コモンズ投信の基本方針は「長期」「厳選」そして「対話」です。30年先を見据えて、持続的成長を続ける「質」の高い企業に集中投資をし、企業と対話をしながら豊かな社会をつくることを目標としています。
だからこそ、マーケットが「逆業績相場」に入り、投資先の企業の株価が下落することがあれば、その局面はむしろ絶好の買い場ととらえることができると思っています。

実際の景気や相場状況に照らして、中間反騰から逆業績相場への移行局面を見てきました。
もちろん、中間反騰局面や逆業績局面も、後講釈で「こうだった」と結論付けられるものですから、その渦中にいる間はあくまで予測にすぎません。けれども、現象面を客観的に捉え、大局的に相場を捉えたときに今どの位置にあるのかを冷静に判断していくと長期投資道を軽やかに歩んでいけるのではないでしょうか。

トレーディング部/部長
渕上 幸男Yukio Fuchigami

国内証券会社で営業職4年。外資系証券会社に転じ委託取引や自己取引のセルサイド・トレーダーとして10年。国内投信委託会社に転じ、証券会社への売買発注にともなうバイサイド・トレーダーとして3年。その後、国内証券会社や株式投資情報会社でヘッジファンド調査や株式市場調査に従事。2015年10月にコモンズ投信に入社。

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