デンソーとの対話
<パネルディスカッション>「社内のコンセンサスづくりに統合報告書を活用する」
■粕谷知恵子様(株式会社デンソー広報部担当課長)
■渋澤健(コモンズ投信取締役会長)
■上野武昭(コモンズ投信シニアアナリスト)
渋澤 統合報告書の肝は、最初にめくるページにあると思うんですね。そこでどういうメッセージを伝えてくれるのかということですね。デンソーさんの統合報告書の場合、「クラフティング・ザ・コア」という言葉が、まず目に入ってきます。すごくシンプルで伝わりやすい言葉ですが、想像するに、デンソーのような大きな会社だと、社内にいろいろな部署があり、そこにはさまざまな想いを持っている人が大勢いますから、この言葉にまとめるのかなり大変だったのではないかと思います。
粕谷様 私自身、直接関わったわけではないのですが、社内調整にはかなり手間がかかったようです。特に、この「クラフティング」という言葉をなぜ使うのかということだけでも、ずいぶんと議論があったと聞いています。未来を創る、価値を創造するという意味で、「クリエイティング」という言葉もありますが、敢えて「クラフティング」という言葉を使ったのはなぜか。それは、私たちがモノづくりの会社であり、技術を伝承していくという観点では、クリエイトよりもクラフトの方が、手作り感のようなものが伝わるという考え方です。
渋澤 上野さん、デンソーってどんな会社ですか。上野さんが、担当アナリストとして、デンソーにどういう印象を持っていて、なぜコモンズ30ファンドに組み入れるべきだと考えたのか、そこを教えてください。
上野 コモンズ30ファンドは長期投資の投資信託です。だから、長期的に価値を創造し続けられる会社かどうかをまず考えるのですが、自動車のマーケットは、新興国を中心にこれからも成長していくのは分かっています。そのマーケットの中で、トヨタを中心に、それ以外の世界の自動車メーカーを含めて、グローバルにビジネスを展開できる会社だということに注目しました。
渋澤 今、自動車業界を取り巻く環境を見ると、動力が内燃機関から電気に変わりつつあり、そのなかで自動運転の可能性が模索されるなど、一大変革期を迎えています。ただ、自動運転になろうと、電気自動車になろうと、絶対に必要なのは、体で言えば神経部分です。デンソーのビジネスは、まさにこの神経部分に深く関わっており、普遍性があります。それだけに成長性が期待される事業だと思います。
渋澤 この手のレポートもそうですが、広報の仕事は、なるべく会社の良いところを見せたい、伝えたいという意識が強く働くと思うのですが、過去にこういう過ちがあったとか、もう少しこういう工夫をすればよかったということを謙虚に認められる企業の方が、環境の変化に対応できるのではないでしょうか。投資家としても、その方が逆に安心感を得られると思います。そういう意味では、統合報告書にある社長メッセージはとても大事ですね。「第二の創業」というキーワードを使っていらっしゃいますが、それは自動車業界が、昔のビジネスモデルの延長にこだわっていると、もう未来がないという危機感の表れではないかと私は理解しました。それが現場で働いている方々に、どういう形で伝わっているのでしょうか。
粕谷様 実務的な話で恐縮ですが、広報という枠組みの中で、経営者の理念、考え方などを、社内にどう浸透させるかというのは、とても重要な課題だと思います。なので、紙では伝わりにくいものがあれば、社長自ら動画で、グローバルに発信するなど、試行錯誤しています。
渋澤 そうですね。御社の統合報告書を見ると、社外に使うだけではなく、社内にも使えるコンテンツがたくさんあるように思いました。バランスシートや損益計算書のような数値情報ではなく、数値には表れないけれども、企業が成長していくうえで必要な情報を把握するうえでも、統合報告書は大切ですね。今日はどうもありがとうございました。
粕谷様 こちらこそ。
-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-
このあと、先進安全装置などを製造する大安工場(三重県いなべ市)にバスで移動し、デンソーのものづくりの現場を見学させていただきました。ここは安全製品を製造している工場で、帽子・安全メガネ・静電服の着用、上靴の履き替えをして入ります。直接その空気に触れ、同社のものづくりにかける情熱とエネルギーを肌で感じることができました。
デンソーの皆さまどうもありがとうございました。