コモンズ投信が設定・運用する投資信託、コモンズ30ファンドの信託報酬におけるコモンズ投信収益分の1%相当を社 会起業家に対して寄付する、「コモンズSEEDCap」という仕組みが誕生して、15周年を迎え、15人目の応援先も決まりました。その節目に、「SEEDCap15周年記念寄付インパクトレポート」を公開。そ の制作秘話を、コモンズ投信代表取締役社長の伊井哲朗、会長の渋澤健、そして実際の制作に携わって下さったICHI COMMONS株式会社CEO/Founderである伏見崇宏氏をお迎えし、コモンズ投信ソーシャル・エンゲージメント・リーダーの馬越裕子が、さまざまな角度から質問してみました。
寄付先の解像度が高まった
―――まず、どうしてこのレポートを制作しようと思ったのですか。
伊井 コモンズ投信は2008年に設立され、2009年1月から「コモンズ30ファンド」の運用を開始し、同時に、「コモンズSEEDCap」という寄付のプログラムをスタートさせました。
それから15年が経ち、コモンズ30ファンドの運用資産は620億円ま で拡大し、コモンズSEEDCapの寄付先も15人目が確定しました。
私たちは運用をしながら寄付もしていますが、運用については定期的に投資先企業の現状を受益者であるお仲間の皆さんにお伝えするレポートを制作しています。ところが、過去に行った分も含めて、寄付先が今、どのような活動をしているのか、またコモンズSEEDCapを通じて行ってきた寄付が、寄付先に対してどのようなインパクトを与えることができたのかについては、報告としてまとまったものがありませんでした 。
そこでこのたび発行した「SEEDCap15周年記念寄付インパクトレポート」を通じて、寄付先の解像度を高めようと考えたのです。
―――そもそも、コモンズSEEDCapには、どのような意味が込められているのですか。
渋澤 コモンズ投信のコモンズは、「コモングラウンド」から来ています。要は、今日よりも、より良い明日になることを目指したい人が集まり、新たな価値を生み出す場です。
新たな価値を生み出すためには、「課題解決」が重要なキーワードになってきます。企業がさまざまな事業を創出するのも課題解決のためですが、それは寄付も同じです。「寄付」というと、何か良いことをしましょう、というイメージが先行しますが、根底にあるのは、「より良い明日を一緒につくる」ことです。この「一緒につくる」がとても大事なことで、コモンズ投信の理念の真ん中に、これがあります。
コモンズSEEDCapの応援先を決めるには、ファンドを保有して下さっているお仲間の皆さんと一緒に行うのですが、そもそもファンドを保有して下さるお仲間がいなかったら、私たちはファンドの運用が出来ませんし、コモンズSEEDCapの運営費も出ません 。お仲間がいるから 、そこから得られる収益の一部を寄付に回して社会に還元し、新しい価値を創造することが出来ます。だからこそ、寄付先の選考プロセスには、お仲間の皆さんにも参加していただきます。
また寄付という行為は、その成果が直接、自分に返ってくるものではないものの、自分の子供、孫など次世代を担う人たちにとって、より良い社会を築くための先行投資です。より良い明日を築くという点において、投資と寄付は相反するものではなく、むしろ車の両輪であると考えています。
ステークホルダーのつながりを強めるコモンズSEEDCap
―――実際に制作に関わられた伏見さんに、レポートのポイントをお聞きしたいと思います。
伏見 インパクトを追及するとなると、数値や金額換算の話になりますが、そういうことではなく、なるべく分かりやすく、お仲間であるファンドの受益者、社会起業家、そしてコモンズ投信の社員といったステークホルダーが、どのように関わり合っているのか、その構造を明らかにすることに専念しました。
ページで申し上げると、まず6ページが全体図です。投資ファンドと寄付プログラムが両輪であることと、ステークホルダーの関係がひと目で分かります。
7ページは、寄付先の候補を選ぶための「社会起業家フォーラム」について。10-11ページは、このレポートのハイライトともいうべきページで、寄付件数や寄付金額、社会起業家フォーラムの登壇人数などを定量的に可視化したものと、その寄付によってどのような成果が現れたのかというアウトカムを表示しました。
さらに、寄付を受けた後、受賞者がどのような活動を行ってきているのかを12ページに示し、さらに13-14ページで、社会起業家がコモンズSEEDCapをどのように見ているのか、さらにお仲間であるファンド受益者が、寄付の仕組みについてどう考えているのか、などについてヒアリングした内容が記されています。
全体を通じて、コモンズ投信と、コモンズSEEDCapのアイデンティティが見えるような構成にしました。
―――レポートの制作を通じて、伏見さんはコモンズSEEDCapのどこにユニークさを感じましたか。
伏見 やはりお仲間、社会起業家、そしてコモンズ投信の社員というステークホルダーのコミュニティがしっかり構築されていることです。社員が運営に深く関わり、コモンズSEEDCapを通じて、普通ならあまり接点を持たないと思われるお仲間と社員、そして社会起業家がしっかりつながっている点は、とてもユニークだと思います。
また、これはレポートを制作するうえでハードルになると思ったことなのですが、15年間の歴史があるなかで、過去の受賞者が寄付をどのような活動に使ったのかについて回答をいただくのに、どこまで協力してもらえるだろうか、という点です。いささか不安だったのですが、皆さん、本当に快く協力して下さいました。
―――制作していて、難しいと思った点はありましたか。
伏見 社会起業家の方々にヒアリングをするなかで、やはり定量的な評価では計り知れないインパクト があることです。これを世間に伝えるためには、コモンズSEEDCapやレポートの存在も大事ですが、同時にメディアに社会起業家の声を伝えられる環境をいかに整えるか、寄付が実行された時点から今に至るところで、何がどう変わったのかについてフォローできる体制をどう整備するか、といったことの重要性を実感しました。
アクティビティ、アウトプット、アウトカムまで考える段階に
―――寄付というと、これまでは、どちらかといえばエモーショナルな部分に訴える部分が大きかったのですが、敢えて今回、このレポートで定量的な面を打ち出したことの効果は、どうでしたか。
伊井 私たちはもともと金融業を営んでおり、投資先がどのような価値を生み出しているのかを常にウォッチしているわけですが、このレポートでは寄付に関しても、どのような価値を生み出しているのかを定量化したことで、より解像度を上げることが出来ましたし、コモングラウンドに集まって下さっているお仲間、そして社会起業家といった人たちの共感も得られやすくなったと思います。
ただ、これはまだまだ第一歩を踏み出したに過ぎません。定量化して見える化できた部分はもちろんありますが、やはり数値では表せない想いのようなものもたくさんありますから、それを今後もしっかり伝えていければと考えています。
―――インパクトレポートを通して成果などが可視化されましたが、今後、どのような点を大事にしていきたいと思いますか。
伊井 託していただいたお金でどのような投資をし、どのような寄付が生まれたのか が可視化できた点は、とても大事です。
これは寄付という行為に付きまとってきた課題のひとつですが、寄付するのは良いけれども、寄付したお金が具体的に、何に使われているのかが分からない。それが寄付に対するある種の不信感につながっているところがあります。
だからこそ可視化が大事なのです。そうすることによって寄付にお金が集まりやすくなります。
この可視化という行為は寄付に限ったことではなく、たとえば学校法人が予算を決めるにあたって、過去の予算配分によってどのようなインパクトがあったのか。あるいは自治体が税金を使うに際しても、どの地域にどのような目的で予算を配分し、その結果、どのようなアウトカムがあったのかをオープンにすることで、より良い社会、より良いお金の使われ方が実現すると思います。
渋澤 15年前に思いついた寄付のしくみが、こういう形で進化してきたのは感慨深いものがありますね。何が進化したのかというと、15年前は寄付という活動に新しいお金の流れをつくりたいという、インプット側の話が中心でしたが、この15年で、インプットだけでなく、そのインプットを活用してどのようなアクティビティがあったのか、そのアクティビティによってどのようなアウトプットが生み出され、アウトカムにつながったのか、というところまで考える段階まで来ました。まだまだ手探り状態ではありますが、いろいろな人たちと一緒に手探りをしていくことが大事ではないかと思います。
―――ありがとうございました。