ROIC経営と志の浸透|味の素株式会社との対話

<対談>後半
「ROIC経営と志の浸透」

【登壇者】
梶 昌隆氏(味の素株式会社グローバル財務部IRグループ長)
伊沢千春氏(味の素株式会社グローバルコミュニケーション部レポーティンググループ長)
伊井哲朗氏(コモンズ投信代表取締役社長兼最高運用責任者)
末山 仁氏(コモンズ投信シニア・アナリスト)


<目次>「味の素」ASVレポートを読み解く
1:【キーノートスピーチ】2022年度版ASVレポートの読みどころ
2:【キーノートスピーチ】ASVレポートの制作にあたって注力したこと
3:【対談前半】経営のスピードアップとエンゲージメントの向上を目指す
4:【対談後半】ROIC経営と志の浸透


伊井  統合報告書は投資家だけでなく、その会社に就職を希望している学生の方、取引先の方、そして社員も組織が大きくなると他の部署が何をしているのか分からないということもありますが、とにかくこれを1冊読めば、会社のすべてが分かるという建付けになっています。今日のワークショップは学生の方も見えられていますが、味の素さんとして学生の方に、統合報告書をこう読んで欲しいということがあれば、教えていただけますか。

伊沢  トップのメッセージはもちろんですが、この中にはともに働いている社員の言葉もたくさん載せられています。たとえば、タイの現地工場で「味の素®」をつくっている生産メンバーがいて、環境負荷の削減にどうやって取り組んでいるのかとか、食品工場のメンバーがDX化を進めるなかで、リモートで工場管理が出来る仕組みを構築したとか、そういう話も掲載されています。ですから、これからもし味の素㈱への就職を目指されるのであれば、自分が入社した時に、どういう人たちと一緒に働いていくことになるのかを知るのに、役立てられると思います。

伊井  会社がどうありたいかという企業理念、パーパス、ミッションは大事で、この会社がどっちの方を向いているのか、社会課題の何を優先的に解決しようとしているのかということはもちろん重要ですが、同時にどの領域に、重点的に資本を投下するのかとか、使っていない資産があったら、それを売却するのかどうかなど、経営資源の振り分けなども重要な経営判断になると思います。最近、ROIC(投下資本利益率)経営という言葉が注目されていますが、そのあたりをどう考えていますか。

   ROICは、社内のさまざまな事業の、この先の投資計画も含めて見極めるための重要なツールのひとつと認識しています。基準が明確になると、どの事業を継続させるのか、あるいは中止にするのか、または他社に売却するのか、といったことを、客観的な数字で判断でき、その結果として納得感が得られるようになります。実際、私たちは2019年に動物栄養事業を売却しましたが、その判断を素早くできたのは、まさにこのROICの発想が根底にあったからです。それと同時に、私たちが投資家の皆様からお預かりしている資金を、何に使ってリターンを得ているのかが明確になるので、これを用いて投資家の皆様とのコミュニケーションを図っていきたいと考えています。

伊井  ありがとうございました。今日は、会場の方からのご質問もお受けしますので、この点を是非聞いてみたいということがあればどうぞ。

質問者1  スタートアップのように規模の小さい企業であれば、志の浸透は比較的容易いと思うのですが、味の素さんのような巨大企業で、志を浸透させるのに苦労した点、あるいはうまく行った施策があれば教えていただけますか。

伊沢  真っ先にやったことは社長との対話です。社長が社員に話す講話というよりも、社長と社員がフラットに対話することを心がけています。社長だけでなく、各事業本部の本部長、本部のなかの各組織長も社員との対話を重ねています。また、各組織で、個人目標の発表会を行っていて、その発表を受けて他の社員がアドバイスをしたり、賛同したりします。このように、さまざまなところで対話を繰り返すことによって、志の浸透が進んでいると思います。

質問者2  ひとことで「エンゲージメント」と言われますが、日本と海外、あるいは日本国内においても本社と工場、あるいは研究者の間でモチベーションや意識などベースとなる価値観が異なると思いますが、それを数値化する際の工夫について教えていただけますか。

伊沢  小さな取り組みですが、社内のSNSでワークプレイスというコミュニケーションプラットフォームを導入しております。これ非常に便利なもので、仮に外国語が苦手な人でも、母国語で書き込みをすると、各国の現地語に自動翻訳してくれる機能が付いています。そこに日本で働く人も、海外で働く人も、あるいは工場勤務、本社勤務、研究職の人たちも、どんどん自分の取り組みや意見をフリーで書き込んでいます。これが思った以上にエンゲージメントに対して大きな効果を発揮しているように思います。

質問者3  エンゲージメントで株主の視点を取り入れることは考えていらっしゃいますか。

伊沢  株主の視点については、ROICを全社員が重視することを通じて、株主に近い視点を持つことを期待していますし、従業員持株会施策を行うことによって、株主の視点を持つ社員が増えるので、そこから株主視点のエンゲージメントが生まれてくると考えています。

   あと、私どものサスティナビリティ諮問会議のメンバーには、外部からESG投資の専門家の方や、インパクト投資をグローバルで促進されている方にも入っていただいております。そこからの株主視点のエンゲージメントが行われるものと考えております。

質問者4  これからは企業としても、投資家を選ぶ時代になるのではないか、と思うのですが、御社が投資をしてもらいたい投資家とは、どういう方なのでしょうか。

伊沢  やはり当社の株式を長く保有して下さる方、味の素の志に共感して下さる方に投資していただきたいという想いはありますし、私たちとしては長く私たちを支えて下さる方を増やしたいという気持ちを強く持ちながら、このASVレポートを制作し、一人でも多くの方に味の素㈱という会社を知っていただきたいと考えております。

伊井  本日は貴重なお話をありがとうございました。

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