2025年4月にコモンズ30ファンドに組入れとなった「アシックス」。
同社のランニングシューズはグローバルな競争力を有し、海外売上高比率は8割超。「誰もが一生涯、運動・スポーツに関わり、心と身体が健康で居続けられる世界の実現」を目指し、高機能な製品の開発とブランド体験価値の向上に取り組んでいます。
そんなアシックスが、11月26日に行われたコモンズ30塾に登場。アシックスの歴史を学び、ミニチュアシューズづくりのワークショップを通してモノづくりへの熱意を体感する会となりました。
■皆さまをお出迎えしたのは…
何と全14種類のミニチュアシューズキットです!
手のひらサイズのミニチュアシューズに感激。このなかから1つ、今日自分で作るものを決めます。大人気のオニツカタイガーのデザインも…!
どれも素敵なデザインで、ひとつに絞るのに一苦労しました。
■セミナースタート
まずは、財務部IRチーム 河野(当時)さまより、アシックスの事業内容や現在の営業状況などをお話しいただきました。
最新のIR情報についてはこちら(https://corp.asics.com/jp/investor_relations)をご確認ください。
■「ゲルカヤノ」初代開発者 榧野さま講演
アシックスの人気商品のうちの一つである、「ゲルカヤノ」の初代開発者である榧野さまにご講演いただきました。
榧野さま:
皆さん、こんばんは。
本日は、アシックス差別化の源泉であるものづくりについてお話しさせていただきます。
アシックス創業者・鬼塚喜八郎の想い、そして私自身の経験を交えながら、アシックスという会社がどのような考え方で製品づくりをしてきたのかをお伝えできればと思っています。
改めて、自己紹介をさせてください。
私は現在、アシックスの広報部アーカイブチームに所属しております。
もともとはフットウェア、スポーツシューズの企画・デザイン・開発を担当していました。
1987年に入社し、今年で38年になります。主に海外市場向けの商品開発を担当してきました。
1993年からは約5年間、アメリカにも駐在しておりました。
が、英語はペラペラではありません(笑)
帰国後はグローバル向けのランニングシューズ、陸上スパイク、マラソンシューズ、サッカースパイクなどの開発に携わりました。某日本人メジャー選手のスパイクを担当したこともあります。
ものづくりには通算で約21年間関わりました。
その後、マーケティング部門に異動し、シューズ・アパレル・用品すべてを含むグローバルの商品戦略を約4年間担当し、さらにデザイン戦略、カラーデザイン戦略の責任者も4年間務め、現在はアーカイブ業務に携わっています。
・開発してきた製品と原点
21年間で担当した商品は、およそ300点以上になります。
1年あたりに換算すると14アイテムほど。かなり多くのシューズの企画・デザイン・開発に関わらせてもらいました。
当初はバスケットボールシューズを担当することが多く、創業者・鬼塚が最初に手がけたスポーツがバスケットボールだったこともあり、何かご縁を感じながら仕事をしていました。
私はメディアなどで「レジェンドデザイナー」なんて紹介されることもありますが、正直、少し気恥ずかしく感じています(笑)
・ゲルカヤノとの出会い
さて、ここにあるこのシューズですが、これは私が27歳のときに手がけたものです。
本日の講演でもご紹介する「ゲルカヤノ」シリーズの初代モデル、「ゲルカヤノトレーナー」と呼んでいます。
現在もシリーズとして続く、アシックスのランニングシューズにおけるパフォーマンス系フラッグシップモデルです。
安定性、クッション性、快適性を追求したモデルで、毎年新しいモデルが発売されています。
現在はゲルカヤノ32まで続いて、時代が求める機能性や最新テクノロジーが採用されています。32代も続いているというのは、なかなかすごいことですよね。
このような商品を、なぜアシックスは生み出し続けることができたのか。
そこにはアシックスの風土、環境、社員の考え方、そして何より創業者の理念が深く関係しています。
・創業の原点と理念
アシックスの原点は、第二次世界大戦後の神戸で、非行に走る青少年の姿に憂いを感じた鬼塚が「日本を担う若者のために何かできることはないか」と感じたことに始まります。
若者が健全に育つために必要なものは何か。
鬼塚は教育委員会に勤めていた戦友に相談し、「健全な身体に健全な精神があれかし」という言葉に出会います。
心と体をバランスよく育てる手段として、スポーツが最も適していると教えられた鬼塚は、1949年に神戸で鬼塚商会を設立しました。
これがアシックスの原点です。
鬼塚の理念の根底にあったのは、「青少年を健全に育成すること」「スポーツの発展と普及」「地域社会への貢献」そして「世のため人のために働き、お金儲けを優先しない」という考え方でした。
これは京セラ創業者の稲盛さんの「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉から得たもので、私利私欲に走らない、善意の活動をしていくことが大切で、そして苦境に立たされた時は、誰かがきっと助けてくれるだろうという教えに影響を受けています。
実際世の中はそんなに甘くはないです。ただ、それが正直・まじめ・謙虚さにつながっており、ユニークだなと思っています。
・困難と信念
設立後、事業は順調とはいかず、1952年には倒産の危機を迎えます。
しかし、その理念に共感した取引先が資金援助を行い、会社は救われました。
「信ずる者はばかをみない」そうした純粋な姿勢が、実際に人の心を動かしたのです。
・アシックス誕生と名前の意味
1977年、日本の三つのスポーツメーカーが合併し、アシックスが誕生します。世界で勝つため、世界で生き残るための選択でした。
「ASICS」という名前は、ラテン語の
Anima Sana In Corpore Sano
「健全な身体に健全な精神があれかし」
の頭文字を取ったものです。
会社の存在意義そのものが名前になっている、非常にユニークなブランドです。
(創業当時のロゴ)
この思想は現在、「Sound Mind, Sound Body」という企業スローガンとして、より親しみやすい形で世界に発信されています。
・差別化の源泉 ― 創業戦略
創業時の戦略の一つに「頂上作戦とキリモミ戦略」があります。
頂点一点に資源を集中し、トップアスリートのニーズに応える製品を作り、トップが満足する製品は、やがて業界全体にシャワー効果のように評価が波及するという考え方です。
トップアスリートの意見に真摯に耳を傾ける、他社にはまねできないような製品をつくることが非常に重要でした。
最初に挑戦したのが、当時最も難易度が高かったバスケットボールシューズでした。当時バスケットボールは屋外で行われることが多く、屋内でプレイするのはトップアスリートのみ、そして良い靴があまりありませんでした。
難しい挑戦でしたが、これができれば今後どんなことにも挑戦できると思い、果敢にチャレンジしたのです。
鬼塚の覚悟とチャレンジ精神そして先見の明が、時代を超えて現在の成果にもつながっているという歴史があります。そしてその思想が現在も受け継がれています。
・現場と科学が生む革新
アシックスが大切にしてきたのは、トップアスリートとの対話、そして現場での気づきです。
徹底的な現場主義と柔軟な科学的なアプローチ、これが今も変わらないポリシーです。
1951年、タコの吸盤から着想を得たバスケットボールシューズのソール。
1960年、マメができないマラソンシューズ「マジックランナー」。
医学的分析と工学的発想を融合し、常識を疑い、新しい答えを形にしてきました。
・技術とDNAの継承
ナイロン素材の早期採用など、最先端テクノロジーの開発を先進的に行ってきました。
さらには南極観測隊用への極地防寒ブーツや宇宙飛行士訓練用シューズなど、ニッチな分野にも挑戦し続けています。
アシックスでは、シューズづくりの基礎を「8大機能」に定義づけし、アスリートの動作分析や構造設計、材料開発の指針として役立てています。
例えば、通気性、フィット性、安定性やクッション性、軽量性などがあげられます。
徹底した現場主義とこだわりのある科学的ものづくりを今も受け継いでいます。
・ゲルカヤノの位置づけ
ゲルカヤノは、長距離ランニング向けトレーニングシューズであり、アシックスのフラッグシップモデルです。
初心者から上級ランナーまで、日々のトレーニング、健康維持、最高のパフォーマンスを支える存在として、世界中のランナーから信頼を得ています。
・ゲルカヤノに込めた思想
ゲルカヤノの前身となるフラッグシップモデルは1982年に発売された「X-CALIBAR GT」というモデルです。この「GT」というのは、長距離を長時間かけて快適に走ることを意味します。1993年に生まれるゲルカヤノも、このコンセプトを受け継いでいます。「GTカヤノ」だったらもっとかっこよかったかもしれませんが(笑)
しかし1990年代はスポーツが日常化して、スポーツと生活と、ファッションの境目がなくなってスポーツ商品も統合されていくような時代になりました。したがって、機能性重視の従来のGTシリーズの人気が危ぶまれていました。
それを打破するために、デザイン開発と商品企画の心機一転が私に求められたわけです。
鬼塚がバスケットボールシューズのソールをタコの吸盤から発想したということは、鬼塚本人の知識や経験から出たものです。それでいて機能は科学的である。
一方、アイデアは知識や経験やインスピレーションにゆだねられます。そのアウトプットが人の感情に訴えかけるものになる、ということなのです。
何よりも私はこのタコの吸盤の発想がすごく刺激的でした。
当時欧米市場では、一足で様々な場所で使えるクロストレーニングシューズというのが流行っていました。ランニングだけではなく、ジムなどでのトレーニングでも使えるコンセプトで、見た目も刷新するのが狙いでした。
私は実際にランニングをしている人やジムでトレーニングしている人の姿を観察したりイメージしたりし、それらの機能的な課題を特定できるようキーワード化しました。
例えば、360度動ける俊敏性・しなやかで頑丈なボディ・攻撃的で美しいシルエット・安定感のある動きなどです。
これらから連想したのが…「クワガタ」でした。
デザイナーとしてのひらめきだったと思います。そして鬼塚の手法に倣った「温故知新」でした。これが新しい機能やデザインの方向性になったのです。
新しいテクノロジーの開発がクワガタの特性から生み出されたのはもちろんですが、デザインにも秘密があります。
それは、ユニークで特徴的な遊び心を取り入れているというところです。
ソール部分をそろえても何もわからないのですが、左右を逆にしてつま先をそろえると…
なんと!クワガタのハサミがみえます!!
こんな密かな遊び心を入れたりしていました(笑)
いくつかのシリーズを私も担当していますが、それぞれユニークなモチーフを設定して、デザイン開発しています。
革新的なモデルというのは、私個人の考えですが、先進的なテクノロジー・最高の機能・ユニークな情緒性の3つの円が重なっている部分にある商品だと思っています。
現代においては、地球環境を守るためのサステナブルな活動が求められるようになってきました。一方で、企業は消費財を扱って利益を得ることで企業活動を維持しなければならない。どちらも大切!ものづくりも難しい時代になってきたな…と感じています。
そんな中でも、創業者の鬼塚の言うように、どんな困難をも乗り越える・継続してチャレンジしていく、それがアシックスらしさだと私は考えています。
・「ゲルカヤノ」という商品名
なぜ「ゲルカヤノ」という名前がついたのか、皆さん知りたくないですか?
私自身はとてもシャイですし(笑)、会社の方針としても「私利私欲に走るな」ということを肝に銘じてきた人です。自分自身が、自分の名前を商品につけるなんて、恐れ多くてできません…
にもかかわらず、社員の名前がついたのはなぜか。
その理由は3つあります。
1つ目は、「カヤノ」という名前が海外ではとても異国情緒のある響きで心地よかったということ、もうひとつは、「K」から始まる英語の単語が少なく希少であるということ、そして何よりも、当時若手でこれからのアシックス商品の佇まいや独自のデザイン論をもっていた私を会社が認めて、期待をかけてくださった、ということです。
今となれば、とても感謝しています。
長時間となりましたが、私の話は以上とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
■ミニチュアシューズワークショップ
続いて、「ミニチュアシューズワークショップ」です。
この時間は、広報部アーカイブ担当の段下さまに工程やコツを教えていただきながら、全長わずか8cmのミニチュアシューズづくりに挑戦しました。
このミニチュアシューズの材料は、ほとんどがリユースのもの。実際の靴に使われている材料の端材などを使っているそうです。
解説をしていただきながら、早速制作スタート!
(とても繊細な作業なので、険しい表情になっています…)
それぞれの工程ごとに、様々なアシックスのこだわりや部品の意味などがあることがわかります。
・アッパー(靴底部分を除いた足の甲を覆う上半分)の小さな部品は、水の力で裁断する機械を使うこともある。
・アッパーと中底との接続方法はいくつかの種類があり、靴の用途によって変わる。
・足のうらにアッパー材料の凸凹を感じさせないように靴底との接着部分は平らにする。
・工程の一部はフィット性のために手作業でおこなうものがある。
などなど…
自分で靴を触りながら、そんな工夫があったのか!と驚きの連続でした。
参加者ひとりひとり、オンリーワンのミニチュアシューズを作ることができました!