エーザイとコモンズの「見えない価値」への取り組み

おはようございます。渋澤健です。

先週はコモンズ30ファンドの投資先であるエーザイの専務執行役チーフフィナンシャルオフィサーの柳 良平さんとの対談。現在、制作に取り組んでいらっしゃる2021年統合報告書(今回から価値創造報告書と称する)のページ面において、日本、いや世界?で、最も斬新で常に「青天を衝け」ているCFOとご一緒できること大変光栄です!

内容は、今秋に報告書が発行されるときまでのお楽しみですが、懐かしい昔話もできました。コモンズ30ファンドを設定した2009年に組み入れる投資先企業を検討しているときに、エーザイの想像を絶するほど充実している株主総会招集通知(「対話力」の証)と理念を定款に掲載するという徹底ぶり(「企業理念」」の証)について当時の投資委員会で絶賛の声が上がったことを鮮明に覚えています。S
【注:コモンズ30ファンドの投資基準に、財務的な「見える価値」の収益力に加え、非財務的な「見えない価値」の競争力、経営力、対話力、企業文化があります。】

2005年の株主総会において賛成多数で承認された定款変更ですが、患者満足を株主価値向上の前の順に掲載されています。つまり、短期的な結果を求める投資家(投機家)の要請に対して、「我々の定款をきちんと読んでいますか」という姿勢をコーポレート・ガバナンスの観点から堂々と示すことができます。素晴らしいですね。

ただ、コモンズ30ファンドが投資を開始した2009年から、エーザイは主要製品の特許切れという「Patent Cliff」という大きな崖から転げ落ち続けることになります。投資を開始してから5年経った2014年に、私は柳さんを朝食ミーティングにお誘いします。そして、聞きました。社員の様子はいかがですか。研究開発はきちんと継続できていますか。

確認したかったのです。ブレていないかを。

以下の現在から振り返る10年推移で答えは明確でした。業績が低迷している中でも、きちんと研究開発費を捻出していたのです。そして、その後に業績が回復し、新たな製品開発への期待が市場で広まったことも示されています。

とてもうれしかったのは、柳さんもその朝食ミーティングのことをしっかりと記憶に留めていただいたことでした。(お会いした日がバレンタイン・デーであることまで覚えていただいてましたw。)長期投資家として良い仕事ができたなぁと今から振り返ると自負する、懐かしい思い出です。

コモンズ30ファンドの「世代を超える投資」は企業の「見えない価値」への投資です。柳さんのお取り組みは企業の「見えない価値」の可視化です。そういう意味で、コモンズ30ファンド設定来の同志であります。

是非とも2020年統合報告書で柳さんのお考え(pg51~pg57)をご参照いただきたいですが、ごく簡単にポイントをまとめるとこんな感じです。

PBR(株価純資産倍率)の”B”=企業の財務的な「見える価値」であり、PBR>1.0のプレミアムは企業の将来への期待=「見えない価値」であり、これはESGと正の関係性がある。

そして、PBRの回帰分析をESGのKPIで行うと、いくつかの興味深い遅延する関係性が見えてくる。

もちろん、これは相関関係であり、因果関係とは言い切れないが、特に人件費と研究開発投資の遅延性が顕著に現れている。

人件費や研究開発が遅延してPBRへの関係性が認められるのであれば、年度を超える「投資」として考えられる。では、その金額を年度の「費用」から足し戻した利益の方が「見えない価値」を、財務的な利益より本質的に表しているのではないか。

本質的な利益が高いのであれば、財務的なPER(株価収益力)が割高に見えても、本質的には割高ではないのかもしれない。

という考えです。

このご説明を去年の秋にお伺いしたところ、なるほど~、精査は必要だけれどもなかなか面白いProof of Concept-実証分析だなと思いました。そして、ふと思いました。

これは、私が委員として参加しているUNDP(国連開発計画)SDG Impact のSteering Groupの議論から関心を持ち始めた、ESGの次の流れ、企業におけるImpact Measurement(インパクト測定)の考えとシンクロしています。委員のお一人が参画しているHBS(ハーバード大学経営学院)のImpact Weight Account Initativeは、環境インパクトおよび社会的インパクトを会計制度に反映しようとしている研究です。

ここでは詳細を省きますが、EとSのインパクト(非財務的価値)と財務的価値を合わせて会計制度で表すことができれば、日本企業の万年割安感が解消されて、市場におけるバリュエーション向上へつながる発展性があると思っています。「知らないところで新しいルールや制度が決まっている」とぼやきを耳にすることが少なくないですが、それは「知らない」のではなく、新しいことが始まっているところへ首を突っ込んで「知ろうとしない」もどかしさを感じていましたので、IWAIに日本企業が参画することを切に願っていました。

それならと思い、柳さんをIWAIのディレクターであるジョージ・セラフェイム先生とZOOM会議でお繋ぎしました。それが、なんとうれしいことに、柳さんは早速、彼らと合意書を結び、データを提供して、IWAI日本第一号になられたようです!結果はまもなく発表されるようで、エーザイの2021年統合報告書(価値創造報告書)には必ず詳細などが開示されます!どうぞお楽しみに。

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