おはようございます。渋澤健です。季節の平年並の気温になってきましたね。一方、新型コロナ・ウイルスの感染が収まる気配を見せてくれません。年末年始に向けてくれぐれもお身体をご自愛ください。
さて、途方に暮れていますw。本日の夕方に「日経ヴェリタストーク」の番組収録の予定が入っていますが、先週の金曜日の夕方にディレクターからメールが入りました。
「今回は、イスラエルとアラブ首長国連邦の国交正常化をきっかけに動き出したアラブマネーについて取り上げます。構成表は月曜日の午前中にお送りします」
ちょっと待ってよ。全く専門性がない分野なんですが。。。汗
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン王太子と共にイスラエルのネタ二ヤフ首相との密談が実施されたという報道があったように、9月にトランプ大統領が演出したイスラエルとアラブ首長国連邦国&バーレーンとの合意書の署名に続き、中東の「国交正常化」へと動き出したように見えます。
しかし、バイデン次期大統領へ政権交代が行われる(はず?)前のドサクサにトランプ政権がポンぺオ国務長官をサウジアラビアへ送りこんでいるタイミングで密談を成立させていることを考えると、これはトランプ米国・イスラエル・サウジアラビア・アラブ首長国連邦国・バーレーンが共通して敵対視している国を包囲しているとしか思えないですね。その国とはイランです。
そう考えると「国交正常化」に向かっていると言えるのか。と思っていたところ、こんなニュースも飛び込んできました。
国交正常化どころか、かなり複雑で危険な展開になってきているようですが。。。
日本の原油輸入元の9割弱が中東ですから、他人事ではないですよね。
その依存度について、ブロガーの不破雷蔵さんの記事がわかりやすく解説していただいています。
まず、現状(2019年)ですが、サウジアラビアおよびアラブ首長国連邦から日本への原油輸入は、イランと比べると圧倒に多いということがわかります。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦を合わせると全体の65.1%を示しますが、イランはたったの1.5%に留まり7位になります。
【出所:中東依存率は88.9%…日本の原油輸入元をさぐる(石油統計版)(2020年公開版)】
ただ、不破雷蔵さんが投稿された5年前のデータから比べると、変化が見られます。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦を合わせると全体の56%で、イランは4.9%で5位でした。
【出所:中東依存度83%・日本の原油輸入元を詳しく調べてみる】
この5年間で、イランからの原油輸入が7割減しているんですね。その原因は明らかにトランプ政権がイランに課した経済制裁です。日本はイランを敵対視していた訳ではないのでが、トランプ米国の意向に反旗を揚げられなかったのでしょう。
また、興味深いことに、この5年間でサウジアラビアからの輸入額は減って、アラブ首長国連邦からの輸入額が増えています。サウジアラビアに対して微妙な警戒心が原因なのでしょうか。2018年にトルコ内のサウジアラビア総領事館内で殺害された言われるジャーナリスト、カショギ事件のこともありますし。
日本では、あまり認識されていないかもしれませんが、実はイランは中東では大国です。
イラン 8180万人
イラク 3840万人
サウジアラビア 3370万人
アラブ首長国連邦 963万人
イスラエル 880万人
パレスチナ 505万人
バーレーン 157万人
世界人口ランキングではイランはドイツとトルコを続く19位で、イギリスやフランスより多いんですね。
また、歴史ではイランは紀元前3000年前ぐらいからエラム人➡アーリア人➡ペルシア帝国へと続き、イスラーム教の影響は紀元600年半ばぐらいからのようです。(イスラム教指導者であるムハンマドが生まれたのが紀元570年頃ですから)
一方、サウジアラビアの歴史が始まったのは1744年と言われています。
そういう意味で、イランは人口大国や歴史の深さや文明国として中東地域の兄貴分という誇りに自負しているかもしれないですね。
ただ、サウジアラビアにはムハンマドの誕生地であるメッカと同氏が亡くなったマディーナがありますので、イスラーム教の文脈では聖地を誇っています。
そして、イランのイスラーム教信者の90~95%がシーア派であり、サウジアラビアでは85~90%がスンナ派で残りの10~15%ぐらいがシーア派であると推計されています。ここで事態の複雑さが深まるのは、サウジアラビアの豊富は油田は王国の東部にあり、そこにはシーア派が多いらしいです。サウジアラビアがイランの影響を懸念するのは、イランは1979年に王制度が打倒され(宗教指導者の影響が大きいですが)民主化されたからという説もあります。
来年の6月にはイランでは大統領選挙が予定されているようです。アメリカが放棄した核合意をまとめたロウハニ大統領は穏健派として知られていますが、二期目のため再選は不可のようで、現状を踏まえると強硬派が有利と言われています。アメリカの経済制裁によってイラン人の生活が苦しくなったのは確かです。
インフレ率はなんと41.1%(2019年)! 2020年4月時点では34.2%(IMF)とやや落ち着いているものの、現地通貨イラン・リヤルの(インフレ率を考慮した)実勢レートは年初に比べて98%も暴落しているようです。実質GDP成長率も核合意直後の12.5%(2016年)から―7.6%(2019年)で今年(2020年)の予測は―6%(IMF)だそうです。
また、今年の1月にはイランのソレイマニ司令官が暗殺され、ナタンズの核施設の爆発(7月2日)を含むイラン国内での不審な火災や爆発(6月~7月)という事件が相次いでいるとイランの内情に詳しい方が教えてくださいました。一般市民はバイデン次期大統領の勝利に歓迎したようですが、イランの指導部はそのような素振りは簡単に見せることができないでしょう。
その現状で中でのイスラエルとサウジアラビア首脳の密談とイラン核科学者の暗殺です。イランの堪忍袋の緒が切れるのではないかと心配です。
このよう複雑な状況で、「正常化」で動き出すアラブのオイルマネーおよびイスラエルのベンチャー・テクノロジーが、どのように日本のビジネス・チャンスとつながるのか。。。さっぱり、わかりませんw。今日の午前中に質問の台本が届くようですが、夕方の収録まで、もうちょっと考えないと。