企業の「見えない価値」を可視化するワークショップ

おはようございます。渋澤健です。気持ち良い秋晴れの連休に恵まれている地域が多いと思いますが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、来週の月曜日(11月30日)にコモンズ投信の恒例の統合レポート・ワークショップを開催します。今回はコモンズ30ファンドが2009年の設定時からの投資先エーザイにご登壇いただきます!

コロナ禍の影響で初めて統合レポート・ワークショップをオンラインで開催することになりますが、大勢からお申し込みをいただいて満員御礼となりました。どうもありがとうございます!ご参加できない方々には簡単なスナップショット、そして、ご参加いただく方には予習として以下をまとめました。

エーザイの統合報告書2020は➡<こちら>からダウンロードできます。簡潔にエーザイのストーリーを描いているすてきなレポートなので、ぜひとも一読ください。

まず、エーザイと言えば何と言っても、内藤晴夫社長のリーダーシップによる理念型経営です。

その経営理念とは、hhc(human health care) という徹底的な「患者様貢献」です。2005年の株主総会において賛成多数で、このhhc理念を定款に織り込むことが承認されています。

【定款 第2条】
本会社は、患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念と定め、この企業理念のもとヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業を目指す。
②本会社の使命は、患者満足の増大であり、その結果として売上、利益がもたされ、
この使命と結果の順序を重要と考える。

つまり、株主第一主義ではなく、現在、米財界団体のBusiness Roundtableダボス会議(世界経済フォーラム)が新しい時代の流れとして宣言しているステークホルダー資本主義を15年前から実施されているのです。素晴らしいです。

この理念を価値創造する事業モデルとして落とし込み、かつ、その成果を可視化できることが、理念型経営の最大のチャレンジとなります。グローバルなメガ製薬会社と比べると規模が大きくないエーザイは神経領域(アルツハイマー病など)とがん領域に経営資源を集中しています。ただ、統合報告書のページをめくると、「薬をつくっている会社」という次元を超越しているということを感じ取ることができると思います。

また、他社と比べるとエーザイの目立つ特長は事業成果の「見せる化」への取り組みです。コモンズ30ファンドの長期投資は、企業の「見える価値」と「見えない価値」に着眼しています。「見える価値」とは数値化できる財務的な価値であり、「見えない価値」は数値化が困難な非財務的価値のことを指しますが、以下の図からエーザイも同じように考えていることがわかります。

つまり、純資産(会計上の簿価)を上回る市場付加価値(市場が示す[時価総額=株価x株数]ー純資産)が、非財務的資本(すなわち見えない価値)と捉えています。

私は市場が必ずしも企業の見えない価値を常に正確に評価できているとは限らないと思っています。市場が企業の「見えない価値」を見ることができていない、あるいは、企業が見せることができていないからPBR(株価純資産倍率)が1.0割れ企業が日本では多いのでしょう。

エーザイとコモンズ投信の見えない価値についての考え方の方向性は概ね同じですね。

また、エーザイの専務執行役CFOの栁良平さんの興味深い実証研究が同報告書で紹介されています。様々なESGのKPIが企業価値にどのように影響するかの重回帰分析です。

例えば、人件費投入を1割増やすと5年後のPBRが13.8%上昇すると実証研究が見いだしました。もちろん、これは相関関係であり、因果関係とは言い切れませんが、何か関係性があることには違いないでしょう。企業が人材に出資することが単年度の「費用」ではなく、中長期的な「投資」であるとは直感的には理にかなっているので、とても興味深い結果です。研究開発費用も同様です。

このように考えると企業の生産活動、研究開発、営業活動の人件費は人的資本なので、無形資産への投資であり、従来の損益報告書の営業利益に足し戻しても良いのではないかと柳さんは提唱されます。

やや突っ込みどころがありそうな分析です。ただ、企業の社会インパクトおよび環境インパクトは(財務的な価値だけを計上している)会計制度に反映すべきではないかという研究は海外でも始まっていて、新しい時代の新しい考え方の兆しを感じます。

先月、この新しい時代の会計制度の先端的研究であるImpact Weighted Accounts Initiativeに取り組んでいるハーバード・ビジネススクールのジョージ・セラフィム教授と柳さんとご一緒にウェブ会議を設けたところ、話が大いに盛り上がりました。このように企業の非財務的な価値の可視化への意識を高めようと。そうすれば、市場から「見えない価値」が評価されて、万年PBR1.0割れの日本企業が激減するかもしれません。

12年前にコモンズ投信を立ち上げたとき、企業の「見えない価値」に長期投資するなんてことを掲げる運用会社は他に(世界でも?)いなかったと思います。今では、徐々にそれが時代の主流になってくる動きを感じています。

 

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